新中学生へのメッセージ

のびのびとした中高生活で育まれた「自由な発想」が「世界初」に挑む原動力

株式会社ビジョンケア代表取締役
眼科医・博士(医学)

髙橋 政代さん


TOPIC-4

患者の気持ちや生活を理解することが大切

医学部を視野に入れている新中学生に、アドバイスをお願いします。

髙橋 良い医師とは、患者に寄り添える医師だと、私は思っています。そんな医師になるためには、患者の気持ちや生活を理解することが大切になります。しかも、今後、医療の世界にはAIがどんどん導入されてきます。診断はAIが担当するようになる日も、そう遠くはないでしょう。そんな時代に、人間の医師に求められるのは、患者の生活の背景、思い、ニーズを瞬時に感じとって、診断結果を的確に説明する力です。それは、AIにはできない、人間の医師の役割でもあります。

 ところが、医学部の現状を見ると、憂うべき状況が生まれています。私が学生だった頃は、京都大学医学部に医師の子弟は数名だけでした。それがいまは、大半が医師の子弟で占められています。同じような環境で育った学生の中で過ごすと、多様な価値観に触れることができません。ですから、医学部に入学したら、できるだけさまざまなアルバイトをして、社会の多様な側面に接することが重要です。アルバイトができない中高時代なら、小説を読んで、登場人物の気持ちを読み取る勉強を心がけるといいと思います。

 私にとって、患者の思いを汲み取ることは、研究のモチベーションにもなっています。私が網膜の再生医療の研究に力を注いでいるのは、臨床現場でそれを望む患者の姿を知っているからです。ですから、私は、どんなに研究が忙しくなっても、臨床から離れたことはありません。常に患者と接し続けること。それは、眼科医としての私のポリシーでもあります。

最後に、保護者へのメッセージをお願いします。

髙橋 子どもの些細なことに、あまり神経質にならずに、大きな目で見守ってほしいと思います。私の両親は自由にさせてくれました。ロックバンドをやったときも、まったく怒られたことはありません。その自由さが、現在の研究の原動力になっている面もあるのです。自由とは、何事も自分で決めるという意味でもあります。制服がないので、毎朝、何を着ていくか、それも自分で考える必要があります。いま、網膜の再生医療という世界初のテーマに取り組む際にも、自分で考えて解決しなければならないという点では同じです。たとえば、新しいことに挑戦するとなると、既存のルールに抵触するケースが出てきます。誰かの指示を待っていたのでは、いつまでたっても問題は解決しません。あるいは、ルールは守るものだと思い込み、ルールがこうなっているのだから仕方がないと、あきらめてしまったのでは、先に進むことはできません。私の場合は、前進するために必要ならば、ルールの隙間をすり抜けるのも平気です。そんな柔軟な発想は、中高時代の自由でのびのびとした生活の中で育まれたものだと感じています。

株式会社ビジョンケア代表取締役
眼科医・博士(医学) 髙橋政代さん

1961年生まれ。京都大学医学部卒業。同大学院医学研究科博士課程修了。医学博士。米ソーク研究所研究員、京都大学助教授、理化学研究所生命機能科学研究センター網膜再生医療研究開発プロジェクトのプロジェクトリーダー(現・客員主管研究員)などを経て、2019年8月、(株)ビジョンケア代表取締役に就任。

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