新中学生へのメッセージ

周囲に上手に迷惑をかけながら“あなただけの道”を極めてほしい

社会学者
WAN (認定NPO法人 ウィメンズ アクション ネットワーク) 理事長
上野 千鶴子さん


TOPIC-5

目からウロコの女性学との出会い

女性学に出会ったのはいつごろなのですか。

上野 70年代後半です。60年代にアメリカで始まったウーマンリブが、日本にも70年代以降に入ってきました。アメリカの大学では「ウィメンズスタディーズ」(女性学)が始まっていましたが、そうした動きを紹介する人たちが日本で女性学をはじめたのが70年代後半で、20代後半の大学院生のときでした。

どのような印象を受けましたか

上野 「自分自身を研究対象にしてもいい」ということが、目からウロコでした。それまで学問は中立・客観的なものだとされており、主観が入る自分自身は研究対象にはなり得ないと思われていました。ですから、自分自身を研究することに夢中になりました。自分にとって女であることは「巨大な謎」でしたから、生まれて初めて、人から何も指示されずに、自分が本当にやりたいと思えることが見つかったのです。自分を研究対象にしていったら、高齢者の研究にもつながりました。それが結果として他の女性たちにも役に立つことになったのは皮肉です(笑)。

以後、女性学やジェンダー研究の分野を切り開いていかれます。

上野 先行研究がまったくないため、どんな研究をやっても、その分野の第一人者になることができます。そこで、そうした研究を発表する場を作りました。研究会や講演会を開催して、女性の問題について考えている人たち、実践している人たちに、「女の人生には話すべき価値がある」という意識で、情報発信者になってもらいました。さらに、日本で初めて女性学を冠した雑誌「女性学年報」を発行し、査読者のいる学術論文ではなく、「あなたでなければ書けない論文」を募集する装置も作りました。こうして、情報の発信者(書き手)と聴衆(聞き手)の両方を育てることで、層を厚くしていったのです。

現在のお仕事について教えてください。

上野 これまでも女性学や高齢者のケアに関するテーマで、様々な活動を大学の内外で展開していましたが、東京大学を退職してからは、研究の場を認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)に移し、さらに幅広い展開を考えています。女性学の裾野は横には広がりましたが、縦方向に世代を超えた浸透を深めるためには、Webの力が不可欠です。ですから、WANもWebをベースに、ゼミを展開したり、ミニコミのアーカイブを作ったりと、若い世代に訴える工夫をしています。

TOPIC-6

学びの基本の「き」は言語能力を高めること

新中学生に何かアドバイスをいただけますか。

上野 ネット社会になろうが、教科書がデジタル化されようが、学びの基本の「き」は高い言語能力を身につけることです。言語能力を育てるには、良い文章を大量に読み、書く以外に方法はありません。次期学習指導要領で導入される「論理国語」にも賛成です。文学作品を読むなと言っているわけではありません。論理的な文章を読み、理解し、人を説得できる文章を書く能力は、今後ますます必要になります。そうした言語能力を、ぜひ中高時代を通じて養ってほしいと思います。

保護者の皆さんにも一言お願いできますか。

上野 まず、保護者自身が勉強している姿を子どもに見せてください。これに尽きると思っています。子どもは親の言うことを聞いて育つのではなく、親のすることを見て育つからです。また、「迷惑をかけない子ども」ではなく、「上手に迷惑をかけられる子ども」に育ててほしいとも思います。迷惑をかけたり、かけられたりするのが人間関係だからです。最後に、子どもをあなどってはいけないということです。たとえ小学生であっても、子どもはちゃんと大人のすることを理解し、判断する能力を備えています。

上野千鶴子(うえの・ちづこ)さん

1948年富山県生まれ。1972年京都大学文学部哲学科社会学専攻卒。1977年同大学大学院文学研究科社会学専攻博士課程修了。社会学博士。1993年東京大学文学部助教授、1995年同大学大学院人文系研究科教授。2009年認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事。2011年より理事長。東京大学名誉教授。女性学やジェンダー研究のほか、高齢者の介護やケアの研究にも意欲的に取り組んでいる。

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