医学部をめざす新中学生へのアドバイス

存在感が増す私立中高一貫校 難化可能性のある医学部入試 英語や記述力の強化を忘れずに

大学入試では最難関の医学部入試。その現状と将来の展望について、また医師になるには中高時代に何をしておけばいいのか、大学受験に詳しい安田賢治さんに聞きました。

志願者減少傾向続くが超難関入試のまま推移

 首都圏の医学部の志願者数は、国公私立大ともに、ここ2~3年は減少傾向が続いています。入試の難易度が高くなり過ぎたため、「理系にいるのだから、一番難しい医学部をめざそう」という軽い気持ちで医学部を受験する層が減ったことが、大きな原因の1つだと考えられます。

 就職が好調なことも、医学部人気がやや下火になってきた背景といえそうです。医学部人気が上昇したのは、2008年に起きたリーマンショックによる経済状況の悪化が引き金でした。ほぼ同じタイミングで、医師不足への懸念から医学部の定員増が行われたことにより、医学部の志願者数はうなぎ登りに上昇していったのです。ただ、近年は景気の上向き感があるため、6年間も大学でお金をかけて学ぶよりは、早く社会に出て安定的な職業に就きたいという学生が多くなっています。ですから、経済が悪化すれば、また医学部人気は復活するはずです。

 今後の医学部の志願状況については、様々な要因が重なっているため、単純な予測はできません。たとえば、日本では、少子高齢化が進み、人口自体も減っていますから、志願者数そのものが減ることは十分に考えられます。その意味では、医学部入試が今より易化する可能性も否定できません。

 しかし、皆さんが医学部受験を迎える頃には、団塊の世代の医療需要が下火になっている可能性もあります。そうなると、現在、各大学に認められている臨時定員増が延長されない可能性もあり、さらに恒常的な定員も減る可能性もあります。そうなれば、逆に、医学部入試は一気に難化します。

 社会の動きも気になります。現在、工学部を6年制にする議論がはじまっています。もしそうなれば、同じ6年間学ぶのなら将来が明確な医学部の方がいいと、志願者が増える可能性があります。

 なお、AIがどんどん進化していくと、医師の仕事内容が変化していくことも考えられます。簡単な診断をAIがこなしたり、基本的な手術をロボットがこなしたりするようになれば、必要な医師数が減少することもあるでしょうし、医師の仕事内容に魅力を感じなくなる人も出てくるでしょう。

 医学部入試は、このように時代の変化に大きく左右される可能性があるということは、皆さんも心に留めておくといいでしょう。

医学部医学科 募集人員・志願者数推移

私立大医学部人気で中高一貫校が有利に

 首都圏の場合は、私大医学部の人気が高いことが大きな特徴です。国公立大医学部は、東京大学、東京医科歯科大学、千葉大学、横浜市立大学など、限られた大学しかなく、しかも入試偏差値が非常に高いのが実情です。ところが、私大医学部は、1都3県に全国の約半数に相当する16大学が集中しており、様々な大学を選択することができるため、私大医学部を専願にする人が多いのです。

 私大人気が高まった背景には、相次ぐ学費値下げの影響も少なくありません。08年に順天堂大学が6年間の学費を880万円下げたのを皮切りに、13年には昭和大学が一般入試合格者を対象に450万円、東邦大が600万円と値下げが続きました。以前は、初年度1000万円かかっていた学費も、現在では700万円程度にまで下がり、一般のサラリーマン家庭でも手が届くようになりました。今では女生徒を中心に、地方の国立大を蹴って、首都圏の私立大に進学する受験生が増えています。

 首都圏のもう一つの傾向として、私立中高一貫校で医学部人気が高いことがあげられます。トップレベルの公立高校や国公立中高一貫校などの成績優秀者は、東京大学など難関総合大学をめざすケースが多く、医学部人気は関西ほど高くありません。ところが、私立中高一貫校では医学部人気が年々高まっています。全国的にみると、首都圏の医学部人気は高い方ではありませんでしたが、最近では私立中高一貫校を中心に、徐々に医学部人気が高くなっているのです。

 私立中高一貫校では、6年間かけてじっくりと学力を高めることができるのはもちろん、OB・OGなどを中心に、医師の話を聞ける機会を数多く用意するなど、医学部受験に向けたサポートも充実しています。そのため、将来の職業としての医師の仕事に明確なイメージを描くこともできます。

 ですから、首都圏で医学部をめざすなら、医学部志願者の多い私立中高一貫校は有力な選択肢になるでしょう。1人で勉強していると、途中で医学部をあきらめてしまうかもしれませんが、一緒に医学部をめざす仲間が大勢いれば、励まし合って勉強を続けることができるに違いありません。

2019年 首都圏 国公立・私立医学部医学科合格者数ランキング

入試改革の動向より英語や国語の勉強を

 現在、大学入試改革が進行中ですが、英語4技能を測定する民間試験の利用が24年まで見送られるなど、やや混乱状況にあります。大学入学共通テストへの記述式の導入も、採点の公平性や厳密性をめぐって議論が続いており、予断を許しません。また、学習指導要領が切り替わり、「情報」が入試の必須科目になる可能性もあります。さらに、政府は24年度までに、公立の小中学校でタブレットやパソコンを一人1台使える環境を整備するとの計画を発表していますから、将来的には、タブレットやパソコンなどを使って解答するようになるかもしれません。

 ただ、今年中学1年になる皆さんにとっては、6年も先の話です。今の中学1年生から新しい形での大学入試が実施される予定ですし、対策する時間も十分になるため、あまり心配する必要はありません。むしろ、大学入試がどう変わろうと、将来必要になる力を伸ばす方に努力を向けることが大切です。

 グローバル化が進む日本では、医師にも高い英語力が求められます。最新の医療情報は英語で発信されますし、今後は外国人労働者も確実に増えます。そう考えると、中高6年間で英語の力を伸ばしておくことはとても重要です。

 また、患者さんの希望を聞いた上で必要な情報を伝達し、互いに納得できる方法で治療していくためには、高い言語能力が求められますから、国語力や記述力も極めて重要です。そう考えると、私大医学部だから、数学と理科だけをしっかりやっていればいいということにはなりません。

 さらに、大学入試改革により、国公立大医学部でも、推薦入試やAO入試の割合が増えることも予想されています。こうした入試に挑むには、スポーツやボランティア活動なども含めた高校生活全体を充実させることが必要です。つまり、国語や地歴・公民も含め、高校の全教科をしっかり勉強しておくことが重要になるのです。

 医学部を志望する動機は、それぞれでしょうが、基本的には「困っている人を助けたい」という気持ちがあるはずです。それを忘れずに、中高時代を充実したものにしてほしいと思います。

大学通信 情報調査・編集部
ゼネラルマネージャー 安田 賢治さん

1956年、兵庫県生まれ。灘中高、早稲田大学政治経済学部卒業後、大学通信入社。サンデー毎日の年間を通しての教育企画、週刊朝日、AERA、東洋経済、ダイヤモンド、プレジデント、プレジデントファミリー、エコノミストなどの中高一貫校や大学、就職特集への情報提供と記事執筆を行う。著書に『中学受験のひみつ』(朝日出版社)、『笑うに笑えない大学の惨状』(祥伝社新書)などがある。

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