聖光学院中学校高等学校 校長(聖マリア学園 理事長) 工藤 誠一 先生

第1部 特別講演(2)
ときめきの6年間

聖光学院はカトリックの修道会が設立した学校であり、愛と奉仕の精神を尊重しています。校訓は「Be Gentlemen!」。世界の中のリーダーとして、多くの人に尽くすように、という意味が込められています。

聖光学院が実践しているのは枠にとらわれない教育です。その一つがリベラルアーツ。大学の教養課程が短縮されている分、6年間かけて幅広い教養を身に付けてもらいます。また、常に目の前の事象に真摯に向き合い、探究する姿勢を大切にします。カトリック修道会は全世界にありますから、国際人としての豊かな感性も身に付けてほしいと思います。国を超え、人種を超え、多くの人と働く協働性も重要ですし、今の時代ですから情報教育も必要です。私が話している間に、スクリーンにはプログラミング教育などのさまざまな映像が流れていますが、すべて聖光学院で行われている教育だとご理解ください。

生徒たちの中学高校時代にはさまざまな出会い、邂逅があります。新しい知識と出会い、叡智を得る。さまざまな経験をし、時には異性との邂逅もあるでしょう。まさに、「ときめきの6年間」ですが、昨年来のコロナ禍で、残念ながら多くのことが制約を受けています。こうした状況下にあっては、私たち大人は次代を担う子どもたちに寄り添い、共に歩み、支援していくことが大切ではないかと思います。

おそらく、たとえコロナが収束しても、パンデミック以前の世界には戻れないでしょう。子どもたちには、オンラインが前提の社会で生き抜く力が必要になります。「変化の激しい時代に生き残れるのは、最も強い者でもなければ、最も知的な者でもない。それは変化に適応できた者である」。これはダーウィンの言葉です。オンラインが一般化すれば、すべての地域がつながっていきますから、今後は自前(じまえ)主義から脱却して、あらゆるパートナーと共創することが求められます。

そのために必要なものは何か。それはコミュニケーション力です。世界の人とつながるとき、使われる言語はおそらく英語になるでしょう。しかし、それはネイティブな英語ということではありません。インドであろうが、東南アジアであろうが、母国語に次ぐ言語として英語を使う人々とコミュニケーションを取らなければならなくなります。つまり、従来のようにネイティブ英語にこだわるのではなく、英語らしく論理立てて話すことのほうがより重要になるでしょう。そこで聖光学院では、希望するすべての生徒がマンツーマンでオンライン英会話に取り組んでいます。また、英語しか使えないEnglish Campを夏休みに開催しています。

また、これからの時代、コミュニケーション力と並んで重要になるのがプレゼン能力です。世界がオンラインでつながったとき、映像や音声などさまざまなツールを使って、自分の主張をきちんと発信できることが求められます。その際、単にアプリが使えるだけではなく、ICTを日常生活の中できちんと使いこなせる能力が必要でしょう。

そこで本校では、7年前から、中1から全員にChromebookを持たせ、生徒・学校間の連絡や宿題の提出など、すべてオンラインで行っています。また「情報」や「探求」の授業では、中学生の時点でロボット・プログラミング学習キット「KOOV」に取り組みます。映像をより本格的に扱いたいという生徒には、Adobeの全ソフトが使えるようにもしています。現在400名以上の生徒が登録していますが、ChromebookでAdobeのソフトを動かすのは厳しいので、より高スペックなマシンを使いこなしているものと推測しています。「情報」の授業は中3からより専門的になり、生徒は「映像」「ゲーム」「プログラミング」の3コースから1つ選んで学習していきます。ちなみにプログラミング言語は、本校ではPythonを使っています。

これまでの日本社会では「管理・改善」が重視され、「1のものを10にする」ことが重要と考えられてきました。しかし私たちは、これからは「0から1を生み出す」「クリティティビティ」を重視すべきと考えています。生徒たちには、単に文明を享受するのではなく、自ら社会課題に向き合い、そこから自分なりのスタートアップを始めてほしいと思います。

また、オンラインが前提の社会においては、人と人が対面する「体験」が貴重なものになります。そこで本校では、災害ボランティアを積極的に派遣しています。2011年の東日本大震災、2016年の熊本地震、2019年の長野の水害。いずれもボランティア希望者を抽選で選んで被災地に派遣し、それぞれ貴重な体験をして帰ってきました。

文明はいつしか文化を置き去りにしてきましたが、子どもたちには、人の営みのうえに成り立つ自分たちの文化を理解し、それと同時に異文化も深く理解し、多くの人々と協働で目の前の課題に取り組んでいってほしい。そして何より、他者に温もりを伝えられる人に育っていってほしいと本校では考えています。

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