第1部 特別講演(1)
多様性を深く理解し、国内外の多岐の分野で独創性とリーダーシップを発揮してほしい
今年、開成学園は創立150周年を迎えます。それを記念してOBや保護者の皆さんから寄付のご協力をいただき、現在、高校の新校舎を建設中です。7月15日には第Ⅰ期工事の竣工式と披露会が、7月20日には落成式が行われました。
開成学園を創立した佐野鼎先生は、教科書に登場する方ではありませんが、幕末に幕府が派遣した遣米使節団、遣欧使節団の双方に参加して見聞を広めた稀有な人物であり、欧米の教育を見て、青年の教育こそ日本の近代化に必要と考え、1871年に開成学園の前身である共立学校(きょうりゅうがっこう)を創立しました。佐野先生は志半ばで46歳の若さで亡くなりますが、米国留学から帰国したばかりの高橋是清先生が初代校長に就任。校長を務めた12年間に正岡子規、南方熊楠、島崎藤村らを輩出しています。
開成学園の名は中国の古書にある「開物成務」から取られ、「人知を開発し、事業を成就させる」という学園の精神を体現するもので、教育理念として「質実剛健」「自主自立」「進取の気性と自由」「ペンは剣よりも強し」を掲げています。こうした理念を反映することで、自立した強い精神力を持ち、飾らない人柄で多くの人の信頼を集め、率先して新たな分野を切り拓いていく人材を育成していきたいと考えています。
具体的な教育方針としては、まずは楽しく伸び伸びとした学園生活を送れるように配慮しています。また個性を磨き、集団社会の一員として自分の役割を果たし、たくましい大人に成長することを支援しています。運動会、文化祭、修学旅行等の学校行事は自主的な組織運営を学び合う機会となっています。開成は勇壮な運動会が有名ですが、活躍するのは運動が得意な生徒ばかりでなく、運動会全体や審判団の運営、応援団席のアーチ(巨大絵)の作成、応援歌の作曲など、さまざまな才能が生かされる意義深い行事となっており、卒業後は同窓会の共通の話題になります。
運動会は昨年、新型コロナウイルス感染症の影響で中止になってしまいましたが、今年は「競技指導を引き継ぐために是非とも実施したい」という生徒の要望を受け、複数の感染症専門家に相談し、感染症と熱中症の対策を徹底したうえで練習に臨み、当日は無観客でしたが、保護者・家族へはネット配信し、最後まで感染者ゼロで終わらせることができました。
また、開成学園では毎年2回いじめがないかどうかを含め、生徒全員にアンケート調査を実施しています。新型コロナ前の2019年6月に実施した結果では、学校生活が「楽しい」と答えた生徒が中学生で94%、高校生で92%でした。2020年は新型コロナの影響で1学期がほぼ遠隔授業になりましたが、先生方の努力で進度の遅れはなく、定期試験も夏休みもほぼ例年どおり実施できました。その結果でしょうか、2020年10月のアンケート調査でも、学校生活が「楽しい」と答えた生徒の割合は中学生、高校生ともにほとんど変化は見られませんでした。なお「楽しくない」と答えた生徒に対しては、クラス担任やカウンセラーが対応してじっくり話を聞く体制を取っています。
開成学園の教育の特色は、個性豊かな先生が自主教材を用いて高いレベルの教育を提供していること。理科は実験実習を重視し、他の科目も生徒に考えさせる授業を行っています。先生方は学年団を組み、基本的に中1から高3まで6年間通じて同じ顔ぶれの先生がきめ細かく生徒指導を行います。
近年はハーバード大、イエール大、ケンブリッジ大など海外有力大学に直接進学する生徒も年間10名程度出ており、そうした生徒への支援も含め、学園全体で英語教育を重視しています。実践的な英語力を身に付ける取り組みとしては、1日中英語漬けとなる中3の「英語学校」や、高1~高3生を対象にした、ネイティブの教員による英語特別講座を毎日放課後に当たる7・8限に実施しています。コロナ禍で昨年と今年は中止になりましたが、海外のサマースクールにも毎年50名程度が参加しています。民間検定試験では、中3でGTEC、高1でケンブリッジ英語検定を全員が受験。高校卒業までに英語4技能を伸ばし、TOEFL iBT80、IELTS6・5、CEFRB2のレベルを目指します。そのレベルに達すれば、大学進学後には交換留学制度で半年から1年の海外留学が可能になります。私は大学で長く交換留学制度にかかわってきましたが、海外留学すると人間的に大きく成長できるため、多くの人に海外留学を強く推奨しています。
ともあれ、開成学園の卒業生は、多様性を深く理解し、社会的弱者や少数者、男女共同参画社会に配慮しながら、高い外国語力とコミュニケーション力を身に付け、さまざまな分野で創造的・先進的な仕事に取り組み、皆から信頼されるリーダーシップを発揮できる人材に育ってほしいと考えています。