第3部 トークセッション
「校長先生に聞く、学校生活のあれこれ」
司会 ここからは3校の校長先生と髙宮様に寄せられた、中学受験と子育てに関する質問にお答えいただければと思います。かなり直球の質問もございますが、よろしくお願いいたします。まず皆様全員への質問です。「貴校、または貴塾で、伸びる子の特徴を教えてください。またそのために、親はどのようにわが子に接すればよいとお考えでしょうか」。麻布の平校長先生からお願いします。
平 端的に言うなら、興味・関心、好奇心が非常に旺盛な子ですね。いろいろなことに関心を持ち、「入学したらこれをやりたい」というモチベーションがある子は伸びるように思います。以前、数学者の秋山仁先生が本校で講演をされたときに、「水をいっぱい湛えた水槽よりも、枯れることのない泉を」と話されて、たいへん良いたとえだなと思いました。水槽が大きいほど知識をため込むことはできるけれど、そうではなく、枯れない泉のように、次から次へと興味や関心、意欲が湧いてくる、そういう子どもに育つ、育てることが大事だという意味かと思います。親御さんはお子さんを見ているとつい口を出したくなると思います。しかし親の目線ではなく、ぜひ成長していく子どもの目線でお子さんを見守っていただければと思います。
野水 本校の教員に聞くと、集中すべきところとそうでないところをきちんと使い分け、効率良く時間管理ができる生徒は伸びると言います。私もそのとおりだと思います。たとえば運動部に入ると、時間を取られて学力が伸びないのでは、と心配する親御さんがいますが、運動をする代わりに、それ以外の時間は勉強に集中するという心構えの生徒は、実際に運動もできますし勉強もできます。子どもを伸ばすという視点では、子どもたちはいろいろな才能を持っています。興味がある分野一点に集中することによって、特化して突き抜けていく生徒もいます。分野によっては親御さんが心配されるのもわかりますが、あまり型にはめずに、上手におだてながら本人が興味あるものを伸ばしてあげてほしいと思います。
杉山 伸びる子の特徴ということで言えば、やはり自調自考のエンジンが装着できた子だと思いますね。昨年4月に校長に赴任して、印象に残っている生徒の1人に推薦で東大に進んだ子がいます。彼は入学したときから地学に興味を持っていて、自分で調べて自分で考え、研究にのめり込み、学会で発表するまでになりました。どのようにわが子に接すればいいかに関して言えば、子どもに選択の機会をもたせることが大事だと思います。親が選択を誘導したとしても、最後は自分で決めさせる。自分で決めたとなれば、そこに責任、覚悟が生まれます。そうした小さな選択の積み重ねが実はすごく大事で、ぜひ選択の機会を与えてあげてほしいと思います。
髙宮 お子様を見ていて、伸びる子の特徴としてまずは生活のリズムに勉強を組み込んでいること。トレーニングでも同じだと思いますが、何かをやらなければならないときにはエネルギーが必要です。この時間になれば勉強するというように生活のリズムに組み込まれていると、少ないエネルギーで勉強に入ることができます。もう一つは、自分の間違いや弱点を自分で理解して、それをどうすれば修正できるかを考えられるようになること。おそらく最初は、お子様が間違えたところを保護者の方が指摘して、こういうことをやりなさいと指示を出すのだと思いますが、いつまでもそれをやっていると、杉山先生のおっしゃるエンジンのないグライダーになってしまいます。自分はここが弱いからこういう勉強が必要だと、自分で修正できるようになると、伸びていきます。
司会 ありがとうございました。続きまして、各校への質問をご紹介します。初めに開成の野水先生への質問です。「貴校は運動会、水泳学校など運動系の行事が多い気がしますが、うちの子は運動が苦手で、ついていけるか心配です。小学校時代、運動をほとんどしてこなかった子どもですが、開成に入学しても大丈夫ですか」。野水先生、いかがでしょうか。
野水 まったく心配ありません。開成にも運動が得意ではない生徒はもちろんいます。中学に入るとすぐに運動会があり、中1生は馬上鉢巻取りを行います。3人で騎馬を組んで上に1人が乗って鉢巻を取り合うのですが、身体が強くて運動が得意な子はいちばん前の心棒になって、運動が得意ではない生徒は脇で騎馬を支えます。全員に役割があり、運動が苦手な人が排除されるようなことはありません。また、競技だけではなく、大会を運営するためにいろいろな役割があり、アーチと呼ばれる絵を描く、応援歌を作る、映像を撮るなどさまざまな活躍の場があって、みんなが参加できる。だからこそ、卒業後も、OBが集まれば共通の話題になるのだと思います。中1の水泳学校でも、レベルに応じて対応するので、まったくご心配いただく必要はありません。
司会 続いて、武蔵の杉山先生への質問です。「父親も武蔵出身で武蔵の良さは知り尽くしているつもりですが、以前に比べて大学進学実績が低下気味なのが気になります。大学入試改革、英語4技能、教育のICT化など、中高での学びに変化が求められる時代ですが、武蔵はいかがでしょうか」。杉山先生、お願いします。
杉山 「武蔵愛」ということばがあって、武蔵の卒業生は武蔵を愛している人が本当に多いんですね。そういうご家庭からのご質問かと思います。私は、「武蔵だから対応可能」とお答えしたいです。大学入試改革について、例えば今、思考力・判断力・表現力が重視されていますが、これは武蔵が昔からやっていたことで、入試問題に記述式の問題が多いことからもお分かりいただけるかと思います。英語4技能についても、校長に着任して全ての教員の授業を見させてもらい、いちばん驚いたのが英語でした。素晴らしい。とくに中学生の授業では手作り教材を用いて、4技能の読む・聞く・書く・話すがぽんぽん入れ替わりまったく飽きさせない。すごいなと感心しました。教育のICT化も、かつてはそれほど先進的ではなかったかもしれませんが、新型コロナをきっかけに一気に進んでいくと思います。ただ、ご指摘の大学進学実績は、数十年前と比較すると確かにそのとおりだと思います。そうした点も踏まえて、先述のように、新生武蔵の一つの柱として、進路希望の実現を掲げました。さまざまな取り組みを通じて、おそらく結果も出てくるだろうと期待しています。
司会 最後に麻布の平先生への質問です。「うちの子は好きなことはとことんのめり込み、親の言うことも聞かず、自分のやりたいようにしかやりません。貴校の文化祭などの自由な雰囲気がとても気に入り、本人は自身でも麻布しかないと思っており、私も麻布が本人には向いているように思います。ただ、向き過ぎていて、好きなことしかやらず、学習面で落ちこぼれてしまうように思うのですが、貴校ではそんな子にも学習面のフォローをしていただけるのでしょうか」。平先生、いかがでしょうか。
平 本校を気に入ってくれて、一生懸命目指してくれているのであれば、「ぜひ受験させてあげてください」と言いたいですね。ただ、中学1年生は学校に入ってから、みんな驚くんです。小学校と違ってすごいやつがいっぱいいると。けれどもすべての教科でトップクラスにいるのは難しいので、あいつは数学はすごいけれど、体育は俺のほうが得意だとか、あいつの読書量はすごいけれど、鉄道に関しては俺の右に出るやつはいないとか、一人ひとりにそういう“とっかかり”があって、自分の位置を見つけていきます。逆に言えば、全員が、あいつにはかなわないという劣等感を誰もが抱いているということで、それが学習面で出てくるお子さんには学校としてきちんとフォローアップします。とくに数学や英語で中学の最初につまずいてしまうと、後が大変なので、先生方は大変ていねいに見ています。私は教員の役割は教科のおもしろさを伝え、やる気を出させることだと考えています。麻布の教員は特定分野に詳しい者が多く、いろんなボールがあちこちから飛んできます。それをキャッチして自身の興味、関心につなげてもらえればとも思います。
司会 ありがとうございました。最後に、ご来場者、ご視聴者の皆様に一言ずつメッセージをお願いします。
平 親が子どもに手をかけられるのは中学生前半ぐらいまでだと思います。男の子は思春期になると「うるせー!」などと悪態をつくようになります。かわいいあの子がなぜ私にこんな口をきくのかと、泣いて訴えるお母様もいるのですが、そうしたときは、俺は親から独立するんだという気概の表れですから、ぜひ喜んでほしいと思います。そういう男の子が麻布にはたくさんいます。思春期の子どもたちは、さなぎがチョウになる準備をするように、内部で大きな変化をしています。多少、早い遅いの違いはあっても、必ず成長していきますので、保護者の皆様といろいろご相談しながらその成長を見守っていければと思っています。
野水 平先生がおっしゃられたことに通じるのですが、中学に入ったらぜひ子離れしていただくようお願いしたいと思います。お子さんに干渉しすぎることによって子どもがやる気をなくす事例が少なからずあるように感じます。あとは、今お子さんが受験に向けて一生懸命に勉強されているところかとは思うのですが、私個人の希望としては、知識を詰め込むのではなく、新型コロナもそうですが、今世界でどんなことが起きているのか、社会の出来事を自分なりに理解して、もし自分がその立場になったらどうすればいいか、自分の考えを持つ。お子さんがそうした幅広い視野を持つことができるよう、お手伝いいただければと思います。
杉山 子育てには正解はないと思うのです。ただ、目指しているところは皆同じで、子どもに幸せになってほしいと。そうであるならば、本当の幸せって何だろうということを、大人自身が時々考えてみるといいのかなと思います。目の前の子どもが勉強をしないとかりかりしてしまいますよね。そういうときに、本当の幸せってなんだろうと大人自身が考えてみると、目の前のことはたいしたことじゃないなとふっと力が抜けることもあると思います。人それぞれですが、私の場合は、自分のためにやったことが人の喜びになり、人のためにやったことが自分の喜びになるような、そんな生き方ができたらそれは幸せかなと思います。そうであるならば、中学受験が全てではないと思えるかもしれません(笑)。そんな心で、ぜひ子育てを楽しんでいただければなと思います。
髙宮 今回、新型コロナ禍のなかで各校がどのような取り組みをされているかをお聞きして、あらためて3校とも素晴らしい学校だと感じました。この新型コロナウイルスの影響で自分の学びが遅れているのではと不安を抱えている受験生も多いかと思います。しかし、状況は皆同じです。どうしてもこの学校に入りたいという気持ちが強い生徒ほど伸びて、最後に合格を手にすることができるのではないかと思います。私たちとしては、そうしたお子様を最後までしっかりサポートしていきたいと思っています。本日はありがとうございました。
司会 皆さま、本日はありがとうございました。