武蔵高等学校中学校 杉山 剛士 先生

特別講演(3)
独創的で柔軟な真のリーダーを育成

私は武蔵の卒業生です。昨年春、43年ぶりに母校に戻りました。母校に戻って感じたのは、変わらない武蔵の学び、そして武蔵の良さでした。豊かな自然環境、アカデミズムの存在、そして人と人の距離の近さ。武蔵は1学年4クラスの小規模校です。生徒同士、教員と生徒の距離が近く、会話が活発です。私はそうした武蔵の学びの環境を、「わくわく」(好奇心)、「わいわい」(仲間力)と表現しています。自由で伸びやかな雰囲気のなかで、好奇心が刺激され、少人数教育を通して本物に触れさせることで、「わくわく」「わいわい」が生まれています。

校長に就任後、グループ面談で生徒たちと話をしました。生徒たちは本当に自由で伸びやかで、いろいろな話をしてくれました。そこであらためて感じた武蔵生の良さは、独創的かつ柔軟、一人ひとりにオリジナリティーあふれる考えがあること。それでいて他者に対しては寛容でありリベラル。この独創的で柔軟という価値はこれからも大切にしていかなければいけないと感じました。

これからの時代に必要な教育とは何か。人口減少と超高齢化、AIなど技術革新のさらなる進展、環境問題の深刻化、緊迫する国際情勢、経済のグローバル化と格差拡大。ひと言で言えば、何が起こるかわからない先行き不透明な時代です。そうした時代を生きていくためにはどんな力が必要なのか。文部科学省の表現を借りれば、「自立した人間として主体的に判断し、多様な人々と協働する力。そのことによって新たな価値を創造する人材」。つまり、自分の頭で考え、判断する。そして困ったときには仲間と協力して乗り越え、新しいものを創る。まさに武蔵生の良さでもある独創的で柔軟な、そして真のリーダーが求められているのです。

武蔵には、建学以来、3理想というのがあります。「東西文化融合のわが民族理想を遂行し得べき人物」「世界に雄飛するにたえる人物」「自ら調べ自ら考える力ある人物」。なかでもその基盤となるのが、自ら調べ自ら考える力、すなわち「自調自考」です。10代の時期に、自調自考のエンジンを身につけるかどうかは、その後の人生を決定づけると思います。私はよくグライダーか飛行機かというたとえ話をします。引っ張られて、どこに行くか自分で決められないグライダーと、自力でプロペラを回して目指すところに向かう飛行機。10代のうちに、生涯にわたって、先行き不透明な時代を生きていくことができる自調自考のエンジンを装着することが必要です。

武蔵は2022年に創立100周年を迎えます。私たちはこれを機に、新生武蔵という旗を掲げて1年間をかけてグランドデザインを策定しました。「世界をつなぐ自調自考のエンジンを身につけ、独創的で柔軟な真のリーダーとして世界をつなげて活躍できる人物の育成」。それが新生武蔵のミッションです。そうした人物を育成するために、中1から高3までの具体的な成長物語を描きました。詳しくは武蔵のホームページに掲載しておりますので、興味がおありでしたらご覧ください。

新生武蔵が進化させていくもの。その一つは進路希望の実現です。武蔵は卒業から10年後、20年後の人づくり、つまり長期的な視点で“後伸び”していく生徒を育ててきました。それに加え、生徒の進路希望を実現させることにもしっかりと向き合っていきます。たった一度の人生で何を成し遂げたいのか、人生を通しての志を考えさせること。そしてその志を実現するための確かな学力の育成。これは、物事の熟達の道筋を表す「守破離」という考え方に基づき、段階的な指導を実践していきます。

もう一つの進化のポイントは、さらなるグローバル化です。新生武蔵ではグローバル構想も描きました。スローガンは「思い切って外へ もっと先へ!」。まずは自分たちが育ってきた狭い世界から外の世界へと飛び出すこと。武蔵にはそのためのさまざまな仕掛けがあります。昨年から中2の群馬県水上での農家民泊実習を始めました。農家の方々と一緒に生活して、農作業を行い、地域課題に触れる体験は、狭い世界に生きてきた子どもたちに大きな変化をもたらすでしょう。さらに、実際に海外に飛び出していく仕掛けもあります。中3から第2外国語が必修で、その延長上に高校では最大2カ月の国外研修制度があります。昨年度から、海外のサマースクールなどにチャレンジしようとする生徒に経済的支援を行う仕組みも作りました。高校卒業後に、「もっと先へ!」と海外へ直接進学を志す生徒には初年度の学資支援を行う仕組みも用意しました。

本日は、独創的で柔軟な真のリーダーを育成するためには、というお話をさせていただきました。人は試行錯誤を繰り返しながら成長していきます。一緒に「わいわい」「わくわく」できる仲間や教員がいて、失敗を恐れずにチャレンジできる環境。武蔵にはそれがあります。

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