WILLナビ:よみうりGENKI 次代を担う人材を育てる中高一貫校特集
開成×灘の先生に聞く 教育座談会
 グローバル化の進展に加え、2020年度からの大学入試改革では英語4技能「読む・書く・聞く・話す」が総合的に評価されるようになるなど、日本の英語教育の今後に注目が集まっている。開成と灘の先生方に両校の取り組みを聞いた。
  1. 英語は「道具としての実用性」だけでなく
    「世界と出会う楽しさ」を与えてくれる
  2. 「英語との付き合い方」を学ぶことが
     将来にわたって英語力を伸ばしていく基礎になる
  3. 中学では知識を重視
    「英語嫌い」を作らない授業に工夫を凝らす
  4. 英語外部試験にも一定の対応
    海外大学進学は希望があれば親身にサポート
  5. 英語に限らず「好奇心」こそが学びの原点
    小学生時代にその芽を大切に育んでほしい
英語は「道具としての実用性」だけでなく
「世界と出会う楽しさ」を与えてくれる
開成中学校・高等学校
校長 柳沢 幸雄 先生

――英語教育の重要性について、両校はどのようにお考えでしょうか。

柳沢 日本人の外国語との出合いは、最澄・空海の時代の中国語にまで遡ります。外国語は新しい知識、学問を乗せてくる道具と考えられていました。日本人は器用ですから、中国語を発音できなくても、読めるルールをつくりました。江戸~明治時代にはオランダ語や英語が入ってきましたが、当時の外国語観も新しい西洋の知識を乗せてくる道具で、読めればいい、書ければいいととらえられていました。
 ところが、言葉にはコミュニケーションのための道具という機能も備わっています。日本の場合、これまでは聞くこと、話すことがあまり必要ありませんでしたが、今やインバウンドの観光客が2000万人を超える時代。英語についても、「読み・書き」に加えて、「聞く・話す」という技能が必要になってきた状況だと認識しています。

灘中学校・灘高等学校
校長 和田 孫博 先生

和田 日本には、世界標準ではなくガラパゴス化しているものがたくさんあります。英語もその一つで、日本の中でだけ使える英語が定着してきました。それが読み、書きだったと思います。ところが今、コミュニケーションのツールとして、共通言語として英語が使われるようになってきて、聞いて、話す能力が必要になってきました。これは必然でしょう。
 ただし、英語教育において、4技能が身についたらいいというわけではないと思います。私が中高生のころは、授業の中で英語の小説を読む時間がありました。そこからイギリスやアメリカの文化に親しんでいったものです。今はそういった時間的な余裕がありません。道具として英語を身につければいいという風潮が強くなっていることについては、やや危惧の念を抱いているところです。

青栁 卒業生の話を聞くと、かつては英語ができることが社会に出たとき一つの強みになっていましたが、今はできることが前提条件になっているようです。一方、現場の教員にはそれぞれ、文学が好きだったり、文法が好きだったりというように、「おもしろい」と思えた英語との出会いがあります。英語力を重視する世の中の流れと、語学との出会いの楽しさを伝えたいという思いとをうまく融合させる形で、各教員が授業をしています。

北浦 英語の4技能についていえば、灘ではやはり読む、書くというところに力点を置いています。それが大学入試に求められている技能だからです。ただ、これまでは実際に使う機会が限られていたリスニングやスピーキングを中学・高校の授業に取り入れることは、生徒には大きなメリットになります。大学入試改革と英語の4技能重視がその後押しになってくれればと思います。

「英語との付き合い方」を学ぶことが
将来にわたって英語力を伸ばしていく基礎になる

――両校では、中学・高校の6年間でどのような英語力をつけることを目標にしていますか。

和田 さまざまな学問や他国の文化を知るための英語力です。もう一つは、コミュニケーション能力。あいさつだけではなく、自分の考えを英語で表現できる力です。その両方を身につけてほしいと考えています。

青栁 卒業してからの英語との関わり方は各々異なるでしょうが、英語とどう付き合うべきなのか、どのように英語力を伸ばしていくべきなのかを考えられる視点を持たせたいと思っています。大学入試はあくまで通過点ととらえ、卒業後も各々の道で、自立した一人の語学学習者として歩み続けていけるだけの基礎力を、6年間かけて育みたいという思いがあります。

柳沢 開成の場合、各学年に英語科の教員が3人おり、そのうちの1人は中1から高3まで持ち上がるため、6年間の歩みがわかるようになっています。残りの2人は入れ替わっていくので、教員からはいろいろなことを生徒に伝えることができていると思います。

北浦 灘が大事にしているのは、いかに基礎力を身につけるかということ。アルファベットから始めて、そこから一つずつていねいに教えることを重視しています。アプローチの方法は教員によって違いますが、英語をどうとらえて、どう活用していくかを教える教育は、今も昔も変わっていないと思います。

柳沢 私が開成で勉強したのは半世紀以上前なのですが、中学・高校と本当に英語が大嫌いでした。単語を覚えるのが苦痛で、英語を発音することにも抵抗感がありました。それを考えると、英語教育は導入のところでいかに嫌いにさせないかが大事だと思います。

和田 英語を道具として使えるようにするには、西洋から入ってきた理科系の学問の用語だけでも英語に戻すといいと思います。化学なら、「二酸化炭素」ではなく、最初から英語の“carbon dioxide”を使うようにすれば、論文を見てもすぐにわかります。そういうところから変えると、周辺の知識が増え、英語力も伸ばせるのではないかと思います。

中学では知識を重視
「英語嫌い」を作らない授業に工夫を凝らす

――英語の授業をどのように行っていますか。具体的な内容をお聞かせください。

開成中学校・高等学校
英語科教諭 青栁 良太 先生

青栁 開成では、中高6年間のうち前半は基礎力を重視します。中学では日本人教員が担当する授業が週5時間(コマ)あり、それとは別にネイティブ教員が担当する、クラスを半分に分けて会話やプレゼンの方法を学ぶ授業が週1時間あります。週5時間の授業は英語の基礎知識を定着させるもので、学年が上がるにつれて読解や作文、リスニングなど運用力を養う部分が増えていきます。高校に入ると、現在の高1は週6時間のうち週5時間は日本人教員が、らせん階段状にもう一度文法を復習させながら、読解や作文、リスニングの力を養います。残りの週1時間はネイティブ教員がすべて英語で読解や作文を教えます。これは、2年前から始めた新たな取り組みです。高2・3になると、週6時間の授業のほとんどを読解や作文、リスニングの演習に費やします。さらに英語の授業を受けたい高1以上の生徒には、放課後に主にネイティブ教員による希望制の選択科目を設けています。読解や討論、作文などをすべて英語で行う授業で、英語自体や海外進学に強い関心がある生徒など各クラス20名程度の生徒が受講しています。

北浦 灘では、中学の週5時間のうち週4時間を日本人教員が、週1時間をネイティブ教員が担当します。ネイティブの授業はクラスを2つに分けて2人の教員が教えています。授業の進め方は教員それぞれですが、全員が検定教科書を使用。高校で使用する教科書は学年によって変わりますが、必ず教科書を使って内容を終えていくことを共通のコンセプトにしています。また、全学年の生徒にネイティブと接する機会を持たせるため、高3の授業にもネイティブが加わっています。

和田 ネイティブ教員の役割は会話だけではなく、プレゼンテーションやスピーキング、リスニング、ライティングの指導と広範囲にわたっています。特に自由英作文の指導は得意ですから、高2・3の生徒は主にそういった部分を教わっています。

――英語を初めて学ぶ中学校の授業では、特にどんな工夫をしていますか。

青栁 「英語は重要だよ」と言うだけでは不十分ですから、「どうおいしく調理するか」を各教員が工夫しています。たとえば、英語の歌を歌う、クイズや論理パズルなど、ゲーム的な要素を盛り込むなどして、各教員が持ち味を最大限に出しながら、それぞれの味付けで独創性あふれる授業を展開しています。

北浦 灘も教員それぞれですが、私は絵本を使って英語に親しませるようにしています。意識しているのは「しんどい」と思わせないこと。最初から「単語を覚えろ」と言われたら、つらいと感じるだけです。遊びの要素を入れるなど、導入の時期にはかなり注意を払っています。

和田 中学に入学する時点で英語の力には個人差があるので、低学年の間はできるだけ下に合わせ、出遅れた生徒には放課後に補習をしたりしています。とにかく英語を嫌いにさせない、不得意にさせないことが大事だと思います。

――授業以外では、どんな取り組みをされていますか。

灘中学校・灘高等学校
英語科教諭 北浦 能裕 先生

青栁 中3では、一日英語漬けになって、映画監督や新聞記者など、外部からお招きした方々による講義に参加する英語学校という学校行事があります。また、昨今の大学入試の傾向を踏まえて最近始めたことですが、高校の校内模擬試験の英作文パートで、「描写」「比較」など、文章を書く際の「型」を設定して出題するカリキュラムを構築しました。科で作成した手引書を参照して試験に臨むことで、高1から高3の模擬試験で重要な「型」にすべて触れ、入試や各外部試験の対策をすることができます。

北浦 希望制ですが、高1の英国研修(17日間)には50人ほどが出かけます。ロンドン郊外の学校で2週間過ごし、自分が勉強してきた英語を実践面で試す経験をします。また、本校では「土曜講座」を前期と後期に3回ずつ開催していて、外国人ゲストの話を英語で聞いたり、教員が趣味でやっているハングル語やフランス語の講座を受講したりする生徒もいます。

英語外部試験にも一定の対応
海外大学進学は希望があれば親身にサポート

――2020年の大学入試改革では、英語外部試験の活用も検討されています。どのような対策をされていますか。

北浦 特別な対策をするのではなく、本校がこれまでやってきたことをベースに指導しています。4技能のなかでは特にスピーキングが取りざたされていますが、スピーキング力とはつまり英作力です。英作力には文法力が必要で、文法を使うには単語力が必要。単にしゃべればいいということではなく、そこに至るまでの過程をきちんと埋めていかなければならないと考えています。外部試験については、中学では中3で英検準2級といった目安を示して受検させていますが、どの試験を受けるかは各教員が決めています。教員の多くが活用する試験ではライティングやスピーキングの採点を確認できるうえ、1年間でどれくらい伸びたかがわかるので、生徒が自分の英語力を客観的にとらえる機会にしています。

青栁 開成では、長い歴史のなかで英語の外部試験を学校で受けさせることはしていませんでしたが、今回の大学入試改革を受けて、改革の最初の学年になる現高1が中3のときに初めて導入しました。学校で外部試験を受ける機会を設けたことは、先ほどの校内模試でのカリキュラム構築と合わせて入試改革に対応した動きになっています。外部試験にはいろいろあり、たとえば、スピーキングにもタブレットの画面に解答するものもあれば、面接官と対面して解答するものもあります。最終的には高3になったときに自分で選ぶことになりますが、生徒にとっての選択肢を増やすために、今はタイプの違う複数の試験を受けさせています。

――留学や海外研修、海外大学をめざす生徒については、どのようにサポートしていますか。

和田 本校では、高1の有志が20年近く前から夏休みに英国に異文化研修にでかけています。また現在の高2は、灘では初めて海外へ修学旅行に行き、現地の学校と交流するなど、たいへん有意義なものになりました。海外大学への進学については、高1ぐらいまでは希望者が学年で10人近くいますが、実際に進学するのは複数人という感じでしょうか。国際交流の部署で書類の作り方をはじめ具体的な指導をしています。

柳沢 開成は今年6人が海外大学に進学しました。数年前に国際交流留学委員会を設け、英語科の教員がアメリカの大学に視察に行って情報交換を続けたほか、受験に必要な書類を準備する態勢を整えました。研修や留学に学校全体で行くことはありませんが、昨年は中高含めて40名ほどがサマースクールに、今年は70名ほどがアメリカやイギリス、カナダ、オーストラリアに行っています。経験を積んで海外に進学する予備軍は増えているように思います。

英語に限らず「好奇心」こそが学びの原点
小学生時代にその芽を大切に育んでほしい

――中学入試への英語の導入については、どのようにお考えですか。

和田 灘では当面中学入試に英語を導入する予定はありません。入試のために「英語はしんどい」という印象を持たれたくないからです。小学校での英語教育の状況を見て、いずれ考えることはあるかもしれませんが…。

柳沢 現在は、学習経験ゼロを前提にしてABCから英語の授業を始めています。入試に関しては実際に小学校での英語がどのようなものになるのか、状況を見ながら考えていきます。そして、もしも中学入試に英語をということになれば、十分な周知期間を持って導入します。現在は導入のスケジュールはまったくありません。

――最後に受験生と保護者の皆さんにメッセージをお願いします。

和田 子どもが成長するに当たって、好奇心は非常に大切なものになります。入試のために勉強している間も、自分の持っている好奇心をなくなさいでほしいと思います。保護者の方はどうしても「そんなことしていないで勉強しなさい」と言いたくなるでしょうが、それでは入試に合格後、燃え尽きてしまうことにもなりかねません。本校では、好奇心や個性をそれぞれの方向に伸ばしていくことを重視しています。好奇心、個性を大事にしながら、入学してきていただきたいと思います。

柳沢 開成の中学生、高校生になったときに「これをやりたい」という思いを持った人に入っていただきたいと考えています。開成には部活動が70もありますから、ほとんどの興味はどこかの部が吸収してくれます。自分で同好会をつくってもいいのです。自分のやりたいことを実現させたいという気持ちを強く持っている人に、ぜひとも受験していただきたいと思います。

これからの時代に求められる人材像─中高一貫校で育む力─ 聖光学院中学校・高等学校 校長 工藤 誠一 先生 女子学院中学校・高等学校 院長 鵜﨑 創 先生 早稲田実業学校 学校長 村上 公一 先生