WILLナビ:よみうりGENKI 次代を担う人材を育てる中高一貫校特集
次代のリーダーに求められる力とは
─私立 中高一貫校がいま、考えていること─
  1. 海外研修に明確な目的を設定 広い視野を身につける機会に
  2. 社会の成り立ちを体験で学ぶユニークなキャリア教育
  3. 行事や国際大会も通常通りに 自ら意欲を持って活動を
海外研修に明確な目的を設定 広い視野を身につける機会に
オーストラリア研修では、生徒一人ずつに分かれてホームステイをし、異文化理解も深める
 

 21世紀の国際社会で活躍する人間を育成するため、本校では「自調自考の力を伸ばす」「国際人としての資質を養う」「高い倫理感を育てる」の三つを教育目標に掲げています。なかでも「自調自考」は、本校の教育の根幹といえる概念で、「自分で調べ自分で考える」・「自分を調べ自分を考える」という姿勢をどのような活動に対しても大切にしています。
 私たちが常に意識しているのは、子どもたちが歩む未来の社会です。今の中学生は、かなりの割合で2100年まで生きるでしょう。人口減、働く場所のボーダーレス化、AIの台頭など、さまざまな変化が予測されていますが、そんな激動の時代をしなやかに生きていくためにも、なるべく早期から社会や世界に意識を向けることが大切だと考えています。
 そうした機会の一つとして、本校では希望者を対象にしたさまざまな海外研修を用意しています。中3ではオーストラリアへ、高校ではアメリカ(ボストンまたはポートランド)、イギリス、シンガポール、ベトナムなどさまざまな研修を用意しています。現地の若者と交流を行い、異文化理解を深めることはもちろんですが、それに加えて研修ごとに明確な目的を設けているのが特徴です。
 たとえば、中3が訪問するオーストラリアは、全国民のうち、本人または両親がオーストラリア生まれでない割合が半数に上る多民族国家です。このような国では、人種や文化に対する考え方や、自身のアイデンティティーも日本人とは大きく異なります。ホストファミリーや現地の学生との交流を通して、日本とオーストラリアの違いを認識し、客観的に自分の状況を分析できるような広い視野を身につけてほしいと思っています。
 本校では海外研修にスマートフォンを持って行くことを許可していますが、便利な翻訳アプリが搭載されているにもかかわらず、生徒たちは「もっと英語を勉強しなくてはいけない」と感じて帰ってきます。便利な道具がそばにあっても、「自分の言葉で相互理解を図りたい」という気持ちが湧いてくるわけです。これは実際に体験しないと分からないことですから、私たちはこうした動機を大切にしたいと思っています。

社会の成り立ちを体験で学ぶユニークなキャリア教育
海外大学へ進学した卒業生が帰国した際に開かれる「卒業生による海外大学進学相談会」
 

 生徒たちが社会を知るという観点から、国際教育と同様に大切にしているのがキャリア教育です。「自分がどんな人生を歩みたいか」を考えることが肝心だと思っています。最初は自分の強みを見つけることから始め、中3ではさまざまな企業を研究します。こちらからオフィスに訪問することもあれば、特別講座というかたちで企業の方に来校いただき、出張講演をしていただくこともあります。
 今年は卒業生の協力のもと、ドローンの仕組みや操作方法などを学ぶ「ドローン特別講座」を開講する予定です。そのほかに、大手総合電機メーカー製のスマートフォンと高性能イヤホンを使って新しい使い方を考えるというミッションも、そのメーカーから機器をお借りし、実際に使いながら進めています。このように企業やサービスの成り立ちを体験的に学びながら、自分は何を職業にしたいか、そのために大学では何を学びたいかを逆算して考えてほしいと思っています。
 2023年の卒業生のうち、15人弱が海外大学に進学していますが、本校では海外大学希望者向けのクラスを設けているわけではありません。高3のホームルームクラスの中に、国内大学をめざす生徒、海外大学をめざす生徒が混在している状況です。生徒たちには、帰国生かどうかにかかわらず、海外に行く選択肢は全員に平等に開かれていると伝えており、その手助けとなる先輩の体験談や、蓄積されたノウハウは惜しみなく提供しています。

行事や国際大会も通常通りに 自ら意欲を持って活動を
2023年の高校模擬国連国際大会では、高校2年生の2名が最優秀賞(国連事務総長賞)を受賞した
 

 新型コロナウイルス感染症の扱いが5類に移行したことから、学校行事はほぼコロナ禍前の実施規模に戻すことができました。その一方で、コロナ禍で始まった「SOLA(Shibuya Olympiad in Liberal Arts)」は、今年も引き続き実施する予定です。これは、対面とオンラインを掛け合わせた「学びのオリンピック」と呼べる生徒発案のイベントで、交流実績のある海外の学校や在校生の友人に声をかけて、日本を含めた世界規模で開催されるのが特徴です。SDGsを中心にさまざまなテーマについてディベートをしたり、ビブリオバトルを繰り広げたり、ワークショップをしたりしながら、国際問題への理解を深めていきます。
 また、これまでオンライン開催だった高校模擬国連国際大会も、今年はニューヨークでの開催が実現しました。そこで本校の女子生徒2人が、最優秀賞(国連事務総長賞)を受賞しています。帰国生と一般生のペアでしたが、一般生の生徒は、このニューヨークが初めての海外だと言うので驚きました。2人とも「周りについていくために、泣きながらやっていた」と振り返っていましたが、英語力はもとより、議論の妥協点を探り、粘り強く交渉する姿勢が評価のポイントになったようです。「日本人は英語ができないからだめ」といわれがちですが、とても高いポテンシャルを秘めています。今回、意見をまとめる力や粘り強さといった日本人としての特性も含めて評価してもらえたことは、これから国際社会に羽ばたいていく彼女たちの自信にもつながったはずです。
 本校は「自調自考」のために何かを用意するのではなく、すべての活動が「自調自考」につながっている学校です。認知能力と非認知能力は学びの両輪です。授業における認知能力の養成はしっかり行い、その過程で自らの考えを巡らせ試行錯誤すること、すなわち「自調自考」につながる学びも同じくらい大切にしてほしいのです。本校では、口を開けて誰かが何かを投げ入れてくれるのを待ち、それを咀嚼するだけの態度を学びとは言いません。自ら意欲を持って、積極的にコミットする姿勢で取り組む受験生にぜひ入学してほしいと思います。

これからの時代に求められる人材像─中高一貫校で育む力─ 早稲田大学系属早稲田実業学校中等部・高等部 校長 村上 公一 先生 豊島岡女子学園中学校・高等学校 校長 竹鼻 志乃 先生 麻布中学校・高等学校 校長 平 秀明 先生