WILLナビ:よみうりGENKI 次代を担う人材を育てる中高一貫校特集
次代のリーダーに求められる力とは
─私立 中高一貫校がいま、考えていること─
  1. 卒業生のつながりを活かした「人材育成講演会」が好評
  2. 創立当初から追い求める伸び伸びと学べる土壌
  3. 焦りは頑張っていることの証し 自分を信じて進み続けよう
卒業生のつながりを活かした「人材育成講演会」が好評
社会の第一線で活躍しているOBを招いて行われる人材育成講演会
 

 本校の歴史は、東邦大学の創立者である額田豊先生が、都立日比谷高校の校長を務めていた菊地龍道先生を初代校長に迎え、1957年に中高を同時に開校したところから始まります。ここ最近になって、高校募集を停止する私学が増えていますが、本校が完全中高一貫校にシフトしたのは1971年のことです。6か年を通じた無駄のないカリキュラムによって、生徒の力を最大限に伸ばしたいという思いは、約50年前から脈々と受け継がれています。
 これまでに送り出した卒業生はすでに1万5000名を超え、同窓会組織「邦友会」のネットワークもより強固なものになりました。邦友会には、卒業生のつながりを活用して現役中高生のキャリア教育を支援する「人材育成部」という部門があります。この部が年3回主催する「邦友会人材育成講演会」では、世界の第一線で活躍する著名な卒業生を招き、現役生に向けて話をしてもらっています。先日は、富士通の代表取締役社長であり、本校の22回生である時田隆仁氏が来てくれました。
 時田さんの講演で印象的だったのは、「大きな決断を下す時は、必ずしも“人のため”“社会のため”でなくてもよい」というお話です。「人生の節目節目においては、その時に自分が大事にしていることを基準に道を選べばよい。そうすれば後から自然と結果がついてくる」とおっしゃっていて、生徒たちは目を輝かせて聞き入っていました。
 なかでも生徒の関心が高いのは、中高時代の話です。ほとんどの卒業生は「部活にばかり集中していた」「成績がなかなか上がらず苦労した」と話します。生徒たちも、勉強がうまくいかないもどかしさと日々向き合っていますから、そうした体験談に共感し、勇気づけられているようです。

創立当初から追い求める伸び伸びと学べる土壌
全部で9室の理科実験室があり、観察や実験を通じて現象を理解する授業を進めている
 

 先日、初代校長の菊地先生と生徒による対談記事を見つけました。そこには体調を崩されて、第1期生の入学式に出られなかったことを申し訳なく思う菊地先生の心情が書かれていたほか、カリキュラムを工夫することによって、ゆとりをもって主体的に学習できるようにしていくとありました。大学受験を危惧する生徒に対しても、「普段から伸び伸びと勉強していればこそ、受験に対応できる力がついてくる」と返していて、その言葉に思わず膝を打ちました。確かに伸び伸びと学ぶ習慣が身についていれば、大学入試は恐れるに足りません。本校では、本格的な学問に取り組むための素地として、本物に触れる学習習慣を大切にしたいと考えています。また、「ああでもない」「こうでもない」と進路に悩むことも、目標と実力とのギャップを目の当たりにして友人や教員に弱音を吐くことも、伸び伸びと学ぶ土壌があるからできることです。その土壌を大切にしたいという思いは、創立時から現在に至るまで不変であることを、この記事から再確認できました。
 本校が創立以来、本物に触れる機会として大切にしているものの一つが理科教育です。「理科」とは別に「実験」という授業を中1・中2で週1時間設け、クラスを2分割して取り組んでいます。少人数制のため、高性能の各種顕微鏡も一人一台行き渡りますし、生物の解剖に使う材料も一人一つずつ与えられます。ブタ1頭のように、一人に一つ行き渡らないほど大きなものを解体する時は、取り出した小腸などの臓器を生徒が並んで持ち、「長さを測ってみよう」という試みにもチャレンジします。そして、実験の後は必ずレポートを書かせます。
 このように、本物に触れて自分の感じたことをアウトプットするというサイクルは、他教科でも盛んに取り入れています。例えば、現代文の授業では、一つの小説を取り上げて、班単位で研究発表をさせたり、公民では難民体験のロールプレイや、自分たちで政党を作って選挙運動を行う模擬選挙を行ったりしています。教員たちも生徒の興味をうまく引き出せるように授業内容を工夫し、各教科の教員同士で活発にアイデアを交換しながら、本当におもしろいと思うものだけを取り入れているので、その熱意が生徒にも伝わっているのかなと思います。

焦りは頑張っていることの証し 自分を信じて進み続けよう
グラウンド、室内プール、実験室など、恵まれた施設を利用して、充実したクラブ活動を行っている
 

 実は部活動も活発です。昨年は中学サッカー部が全国大会に出場したほか、高校の軟式野球部は関東大会で3位の成績を修めました。強豪校の選手と比べたら、本校の生徒は体も小さいですし、練習環境も恵まれているとはいえないはずです。それなのに、「なぜ張り合えるのだろう」と疑問に思って注意深く観察してみると、そこには彼らなりに考え抜いた戦術があることがわかりました。野球の走塁一つ取っても、その独自の作戦は生徒たちが主体的に考えたものなので、肝腎なときにしっかりコントロールできるのです。練習方法から試合の運び方まで、すべての過程を自分たちの頭で考えているからこそ、この快進撃が実現したのだと納得しました。
 本校の入試には思考力を問う問題を多く出していますが、それは私たちから受験生へのメッセージでもあります。何事も自分の頭で考え、考えたことを自らの課題としてしっかり向き合っていく。そういう強い意志を持った受験生に入学してほしいと考えています。
 受験生の皆さんに伝えたいのは、勉強はやればやるほど課題が見えてくるものだということです。「あれもできていない」「これもできていない」と焦りを感じるかもしれませんが、それは一生懸命頑張っていることの証しです。自分の頑張りを信じ、夢に向かって最後まで進み続けてください。

これからの時代に求められる人材像─中高一貫校で育む力─ 早稲田大学系属早稲田実業学校中等部・高等部 校長 村上 公一 先生 豊島岡女子学園中学校・高等学校 校長 竹鼻 志乃 先生 麻布中学校・高等学校 校長 平 秀明 先生