森上先生に聞く 中高6年間の過ごし方

中高一貫校の環境は感情教育にも効果的

 ところで、日本の教育には、感情教育が欠けているとよくいわれます。感情教育というのは、楽しいときに、その気持ちをどう表現すればいいのか、きれいなものに心を動かされたときに、その感動をどう表現すればいいのかを、体験とともに学ぶものです。日本の子どもは、そうした体験が少ないために、自分の感情を表に出すことが苦手で、どこか大人びた、ドライな表現をしがちです。

 こうした感情表現は、一般的な教科科目のように、座学で身につくものではありません。休み時間での会話や、部活動中のやり取りなど、授業以外の場面でこそ磨かれるものです。また、日本の子どもたちが、年相応の感情表現を学ぶためには、年齢の近い先輩の存在が、貴重なお手本になります。つまり、年齢の近い先輩と、部活動などの課外活動の時間を共にできる中高一貫校の環境こそ、感情教育の場にうってつけなのです。

 クラスメイトの前で、自分の意見を発表するという体験も、感情教育に効果的です。発表のなかで、ジョークを交えて笑いを取ったり、「おおっ」と感心されたりすると、自分の表現に自信を持つことができます。また、相手の反応に合わせて、表現の仕方を変える練習にもなります。人前で発表することは、緊張を伴いますし、なかなか気が進まないものですが、積極的に挑戦し、豊かな表現力を養うきっかけにしてほしいと思います。

議論や読書でアンテナを広げ、社会の変化をキャッチしよう

 わたしたちを取り巻く環境や価値観は、驚くべきスピードで日々変化しています。そんな現代社会を生き抜くために必要なのは、アンテナを広げ、さまざまな変化に敏感になることです。とはいえ、すべての変化を感じ取っていては、逆に生きづらくなります。そこで、若者らしく、「楽しく生きるためにはどうすればいいのだろう」「この苦しみから逃れるにはどうしたらいいのだろう」と、自分に主軸を置いたスタンスで、思考を広げていくのも一つの方法でしょう。

 アンテナを広げるためには、人と議論をしたり、読書をしたりと、外の世界に触れることがとても大事です。映画や音楽などの芸術に触れる経験も、感受性を豊かにし、体系的な知識を得るという意味で、とても有意義です。

 最近では、SNSが普及し、世の中にあふれる膨大な情報から、自分に必要な情報を簡単に取得できるようになりました。しかし一方で、そのSNSの場が、さまざまなトラブルの温床になっているのも事実です。

 今や、保護者の方も、リアルタイムでSNSを使いこなしている世代です。保護者の方自身が、SNSを使って困った経験や、失敗した経験などがあれば、ぜひ、お子さんに話していただきたいと思います。実体験を伴うアドバイスは、どんなことばよりもお子さんの心に響くはずです。「SNSを使わせない」ということよりも、親子のコミュニケーションを絶やさず、正しい使い方を模索していくほうに意識を向けてほしいと思います。

 さて、新中学1年生の皆さんは、希望の進路が決まり、今はひと安心しているところだと思います。しかし、中学入試は、人生の一つの通過点に過ぎません。せっかくあこがれの学校に入学するのですから、6年間をただ漫然と過ごすことのないよう、中1のスタート地点から明確なビジョンを持って、学校生活を楽しんでください。これから始まる皆さんの中高生活が、実りある6年間となるよう、心から願っています。

森上教育研究所 代表
森上 展安(もりがみ・のぶやす)さん

早稲田大学法学部卒業後、進学塾塾長などを経て、1988年に私立中・高や学習塾を対象とするコンサルタント「森上教育研究所」を設立。現在は同研究所の代表を務める一方、受験や中高一貫教育についての豊富な情報と経験を生かし、評論・分析の分野でも活躍。ほぼ毎週、中学受験の保護者を対象に、著名講師陣による「わが子が伸びる親の『技』研究会」(oya-skill.com)を動画配信している。

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