第2部 パネルディスカッション
「個性の共鳴」が育むリーダーの本質

本日のテーマ

 

1.3校の考える「リーダー観」とは

髙宮 「個性の共鳴」が育むリーダーの本質ということで、子どもたちがどういう環境でリーダーシップを身につければいいのか、保護者として果たすべき役割とは何か、先生方にお聞きしたいと思います。各校とも、さまざまな分野でリーダーを輩出されていますが、改めてリーダーとはどういう存在なのか、「リーダー観」についてお聞かせください。野水先生からお願いします。

野水 リーダーには、独創的かつ先見性ある考え方で、みんなの意見を統合して牽引していく力が必要ではないかと思います。付和雷同型というか、人の意見に合わせるだけではリーダーになりえません。やはりコミュニケーション力が重要でしょう。他人の意見には耳を貸さず、自分の意見を声高に主張するのが強いリーダーシップだと勘違いしている人がいますが、それでは周囲の信頼を得られず、他人はついてきません。真のリーダーシップというのは、多様な意見を理解し、それらをまとめ、みんなが一緒に行動できるよう導くこと。特に意見をまとめる力の有無は大きいのではないかと思います。これから世界でリーダーシップを発揮していくためにも、中高生の皆さんには相手の話をしっかり聞きながらディベートできる、相手を説得できる語学力をぜひ磨いてほしいと思っています。

髙宮 田村先生はいかがでしょうか。

田村 学校教育で取り上げられるリーダーシップというのは、非認知能力に分類されます。いろいろな問題が起きた時に、「なるほどそうだな」とみんなが納得できるような意見が言える、解決方法を提案できる力といえるでしょうか。非認知能力は学校で教えるというのは難しいのですが、歴史から学ぶことができます。人間というのは変化する生き物であると同時に、ある部分はまったく変わらない。リーダーシップを学ぶうえで、歴史は重要なポイントかもしれません。まだ歴史の浅い本校からも、明らかにリーダーになりそうな人材が出てきているという印象があります。たとえば今年、外務省のキャリアだった卒業生が学校に来て、今度は世界銀行で仕事をすることになったという話をしていました。東京大学在学中に司法試験に受かったと報告に来た卒業生や、国家公務員試験にトップで受かったという卒業生もいました。このように卒業生が学校に報告に来て、積極的に後輩に話をしてくれます。リーダーシップの養成においては、経験した人の話を聞くということも大事だと思います。

髙宮 私立校の特徴として、先生が長く学校に勤務されているので、卒業生が頻繁に学校に遊びに来るという文化がありますね。杉山先生のリーダー感をお聞かせいただけますでしょうか。

杉山 やはり独創性というか、いろいろな問題を解決するようなアイデア、イノベーション、そして柔軟性、これがキーワードだと思います。忘れがちですが、信頼され尊敬される人間性も大事だと思います。今の時代で難しいのは、多様性といわれるようにいろんな人がいて、いろいろな立場の人がいるなか、どう統合性を見いだすのか、そこが非常に難しいと思います。大事なのは、みんなを巻き込む力、さらには巻き込まれながら巻き込む力なのではという気がします。単純に相手を巻き込むのではなく、巻き込まれながらもいかに実力を発揮できるか、そうした力の重要性が注目される時代がくると思います。中高時代に、いろいろな活動を通して失敗したり、そこから立ち上がったり、どれだけ試行錯誤するかが大切であり、その過程で他者への想像力や共感力なども身についていくのではないかと思います。

 

2.リーダーの資質を育む「学校行事・課外活動」

髙宮 それではそういった資質を、学校行事や課外活動などでどう育まれているのか、授業以外での生徒の様子も含めてご紹介いただけますか。

田村 本校の場合、日常的なカリキュラムはシラバスに明示されているのですが、そうした活動以外にも教員や生徒たちは積極的に取り組んでいます。たとえば本校では、いろいろな行事を大切にしています。コロナ禍で自由に実施できない状況を経て、改めて行事の大切さを思い知りました。多くの行事は生徒が企画・立案して実行していますが、見ていると本当におもしろくて、いろいろな生徒が適材適所で力を発揮しています。これからもできるだけ行事や課外活動をきちんと実施することが、リーダーシップの育成にも大いに役に立つと感じました。

杉山 やはり行事は大切ですね。田村先生のお話にもあった非認知能力、やり抜く力を伸ばすには、まさにそういった行事の機会は欠かせません。本校の課外活動や学校行事は大きく分けて2種類あって、1つは生徒が主体になって企画・運営する春の記念祭(文化祭)、秋の体育祭、冬の競歩大会といった三大行事で、もう1つは中1の山上学校、中2の民泊実習、中3の天文実習などの宿泊行事です。後者は教員が用意するプログラムで、もちろん狙いがあって実施しているのですが、やはり生徒主体で行う行事の力はすごいですね。三大行事はすべて委員長立候補制で、毎年「俺が委員長をやるぞ」と複数の候補が出てきて、中庭で立合演説会を行います。委員長が決まったら、彼が中心となって、中1から高3までの縦割り組織のなかで企画パートなどの役割分担を決めます。これが武蔵の伝統なのです。文化祭ではクラス企画がなく、すべて自分たちで手を挙げて出展するものを決めます。競歩大会も、委員長が公約で掲げたコースで実施します。その地域の土木事務所や警察などとの折衝も、教員が見守ってはいますが生徒が自分たちでどんどん進めていきます。そのなかで、リーダーシップにつながる要素をいろんな場面で学んでいくのです。行事を通して生徒が成長していくのを感じます。

野水 50年ほど前の話ですが、私も運動会の準備委員会の議長を務めた経験があります。みんなをまとめるのに大変苦労したのですが、その経験がその後に役に立ったという実感があります。開成も、多くの学校行事は生徒主体で進めます。運動会も開成祭(文化祭)もそうです。中1から高2までそれぞれ宿泊を伴う学年旅行があるのですが、入学して間もない中1以外は、行き先は自分たちで決めます。運動会は高3が各学年の競技指導をするのですが、前年の運動会が終わった直後から1年をかけて議論しながら準備を進めます。先日、文化祭の開成ノーベル学会というイベントで、「運動会の法制度の構築と発展」というテーマで研究発表した生徒がいました。私たち教員がルールや規則を作っているわけではなく、生徒たちが自分たちで決めていますが、チャレンジすることもあるので、失敗もたくさんあります。そうした経験を通して、リーダーシップとは何かを知り、成長していくのではないかと思います。教員があまり口を出さず、生徒たちに任せることによって、彼らが責任感をもち、自分たちで解決することを通じて成長につながるのだと感じます。

髙宮 部活動での活躍を調べたところ、開成は俳句甲子園で3年連続優勝、高校生クイズでは4度目の優勝、渋谷幕張は小倉百人一首競技かるたの大会で優勝、渋谷渋谷は国際言語学オリンピックで金メダル獲得など次々と挙がってきました。校内の行事だけではなく、学外での大会でも活躍される生徒が多いのは、自主的な取り組みの成果でもあると感じます。田村先生から、補足がありましたらお願いできますでしょうか。

田村 学校の枠を超えた大会が盛んに催されていますので、それに生徒が積極的に参加しているのは、どの学校でもそうだと思います。本校でも好成績を収める生徒が出てきているようで、これもリーダーシップ育成につながる活動なのだろうと思いながら見ています。学内に閉じこもることなく、学外にもつながりを持つことは、生徒のリーダーシップ育成に非常に役立つように思います。

 

3.未知なる世界に踏み出すために

髙宮 杉山先生から、「思い切って外へ、もっと先へ」とのお話をいただきました。変化の激しい時代にリーダーとしての役割を果たすためには、新しい文化やテクノロジーとつながることも重要になってくるのではないかと思うのですが、学校としてどのようなチャンスの場を設けているのでしょうか。

杉山 学校行事などで仲間と試行錯誤する経験も大切ですが、その一方で、コンフォートゾーンというか、安定した環境から飛び出してチャレンジすることもとても大事です。先ほど述べた「思い切って外へ、もっと先へ」の精神です。グローバル時代というのは、チャレンジして外へ出ていく大きなチャンスだと思います。武蔵では第二外国語を勉強して、フランス、中国、ドイツ、オーストリア、イギリスなどに研修旅行へ行く機会があります。半分は現地の提携校での授業、残り半分は自由旅行という内容で、生徒は自分で企画していろいろな町を訪れます。教員の引率はなく、すべて自分たちで考えるので、失敗することもありますが、そうした困難を乗り越えることで大きく成長できます。本校では教科の枠を超えて「生きる力」を育てる総合的な学習にも取り組んでいて、山上学校や民泊実習もその一環なのですが、新たに高校で総合講座を設けました。自分たちでテーマを見つけて、広く深く探究することを目的に、長崎県の対馬や沖縄、東北などの地域課題に取り組んでいます。グローバルだけでなく、国内の問題に目を向けることも、外へ向けて飛び出すことにつながると考えています。

髙宮 「コンフォートゾーンの先に成長がある」という言葉は、アメリカのボーディングスクールと呼ばれる全寮制の寄宿学校に行くと、校内のあちこちに掲示されています。開成の生徒もそうしたボーディングスクールのサマープログラムに参加されていますね。

野水 私自身がこれまで大学等で長く国際交流に携わってきたのですが、大学生が半年あるいは1年間の交換留学に行くと、まるで見違えるかのように成長して戻ってきます。そうした姿を目の当たりにすると、やはり海外での経験は大きいと感じます。海外に1人で行き、寮に入って生活をする。マイノリティとして、友達をキャンパスで探すことから始めなくてはならないわけです。そういう苦労をしながら、それを克服して戻ってくることに大きな意味があります。世界に出て見聞を広めることで、新しいアイデアも生まれてきます。開成の前校長が元ハーバード大学の教授だった経緯もあり、いろいろな先生方が力強く推進してきてくださったので、生徒たちにも海外に直接進学するというムードが出てきているように感じます。また、高校卒業後に直接海外大学に入学しなくても、英語力を伸ばしておけば、日本の大学の交換留学制度によって留学しやすい環境になってきていますので、生徒たちにはぜひ海外で学ぶ経験を目指してほしいと強く薦めています。

髙宮 田村先生はいかがでしょうか。

田村 海外の大学は学費が高いのですが、国内企業で支援してくれるところもありますし、現地の大学で奨学金を出してくれるところもあります。本校の生徒を見ていると、そういう制度もうまく使っているようです。イノベーションということで申し上げますと、世界的な雑誌が“日本発「世界を変える30歳未満」の30人”という特集を組み、渋渋と渋幕の女性が選ばれていました。1人は東北大学の学生で、宇宙飛行士の候補になっていました。もう1人は、ロボット製作とその経験を生かした社会貢献で評価されているようです。これから、いよいよ女性の力はもっと注目され、評価される時代が来るのではないかと感じています。

髙宮 世界では20歳前後の高校生から大学生ぐらいの時に新しいテクノロジーに出会った人が起業家となり、社会を変えるような製品やサービスを生み出しています。2025年の大学入学共通テストからプログラミングも出題されます。技術革新やイノベーションを生み出す人材の育成が期待されます。

 

4.保護者の役割とは

髙宮 最後の質問項目になります。リーダーを育てるために、保護者の方は子どもたちにどう接すればよいのか、一言ずつメッセージをお願いします。

田村 現在、中学・高校に通われているお子さんの保護者の方に向けて申し上げると、10代というのは、自分がどんな人間かということに悩み、苦しみ、心身のバランスが最も不安定な時期です。その成長期に親として接するのは、とても大変だと思います。しかし、そこをうまく乗り越えると、その子の一生の道が開けてきます。私どもはそう考えてお子さんたちと接していますし、保護者の方もある意味そう覚悟を決めて対応に当たっていただければと思います。具体的には、「耳を大きくして、目をうんと開いて、口はなるだけ開かない」こと。それだけです。ぜひ、見守ってあげてください。「子育てはおもしろい」ということに気づいていただければと思います。

髙宮 杉山先生はいかがでしょうか。

杉山 中高時代というのは、何者にもなれる可能性があるけれど、まだ何者でもない、自分はどうなるのかを一生懸命に考える非常に不安定な時期ですよね。失敗をしながら、自分の果たすべき役割を見いだす時期なので、短いレンジで見ると、どうしてもカリカリしてしまいます。やはり長いレンジで、おおらかに見てあげることが大事だと思います。保護者の接し方としては、おおらかな心持ちで、暖かい風を吹かせながら見守ってあげること。そして、これは危ないなという時にはしっかり関与していただく。そうした姿勢で対応していただけるとよいのではないかと思います。

髙宮 それでは野水先生、よろしくお願いいたします。

野水 私からは、今お子さんが小学生で、中学受験を考えているご家庭の保護者の方に向けて感じていることをお伝えします。熱心さのあまり勉強を押しつけたり、勉強に追い立てたりするのは、お子さんに良い影響を与えないように思います。子どもはいろいろなことに興味を持つので、それを伸ばすという気持ちで接してあげてください。たとえば、自然を親しむような機会をつくり、社会の動向や世界の政治を伝えるニュースを見たりしながら、お子さんと「どうしてだろうね」と会話をするのもよいでしょう。子ども自身が興味・関心を持てば、「調べてみよう、学んでみよう」という気持ちになるはずなので、そうしたきっかけを与えてあげてください。そして中学に入ったら、ぜひ子離れしていただきたい。あまり干渉せず、お子さんの成長を温かく見守っていただければと思います。

髙宮 ありがとうございました。ご講演、そしてパネルディスカッションを通じて、先生方から貴重なお話を伺うことできました。本日はありがとうございました。

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