開成中学校・高等学校 校長(名古屋大学名誉教授 工学博士) 野水 勉 先生

第1部 特別講演(1)
多様性を深く理解し、国内外の多岐の分野で独創性とリーダーシップを発揮してほしい

開成学園は創立150周年を機に新校舎建築事業に取り組んでおり、昨年、高校の教室と大体育館のあるA棟が竣工しました。現在、引き続き第2期工事を進めており、来年の夏には竣工し、新校舎の90%が完成する予定です。

学園の歴史は、佐野鼎先生が1871(明治4)年に共立学校(きょうりゅうがっこう)を創設したことに始まります。佐野先生は幕末の時代に遣米使節団、遣欧使節団の双方に参加して世界を見聞した稀有な人物です。アメリカで大学を含めた各種学校や教育システムに触れ、教育こそ日本の近代化に重要と考えて、共立学校を設立しました。

佐野先生は1877(明治10)年に志なかばで46歳の若さで亡くなりましたが、米国留学から帰国したばかりの当時25歳の高橋是清先生が初代校長になって再興し、今日の学園の礎を築きました。高橋先生は校長を12年間務めた後、大蔵大臣を6度務め、第20代内閣総理大臣になっています。高橋先生が校長を務めている間、正岡子規、南方熊楠、島崎藤村、岡田啓介らを輩出しています。

学園の教育理念は、「質実剛健」「自主自立」「進取の気性と自由」「ペンは剣よりも強し」です。「質実剛健」とは真面目で飾り気がなく心身ともにたくましいさま、「進取の気性」とは従来の習わしに捉われず積極的に新しい物事に取り組む気質や性格、「ペンは剣よりも強し」とはいかなる権威にも屈することなく、学問の優位を信ずるという意味です。こうした理念の下、自立した強い精神力を持ち、飾らない人柄で多くの人から信頼を集め、率先して新しい分野を切り開いていく人材を育成していきたいと考えています。

教育方針として、まずは楽しく伸び伸びとした学園生活を送ってもらうこと。さらに、個性を磨き、集団社会の一員としての自分の役割を果たす逞しい大人に成長することを期待しています。運動会、文化祭、修学旅行などの学校行事は生徒の自主運営が基本です。勇壮なことで知られる運動会では、全体運営、審判団、各色各組の応援席背後のアーチ(巨大壁絵)の制作、応援歌の作曲など、生徒の才能が生かされる場所がさまざまあり、運動が苦手でも個々が活躍する場があります。部活動、研究会、委員会などの課外活動も活発で、運動部ではボート部は全国4位になるほどの強豪で、サッカー部、バスケット部も都内の強豪に数えられています。文化部においては囲碁部、クイズ研究部、俳句部は何度も全国優勝しています。折り紙研究部のようなユニークな部もあり、10年ほど前に作られたこの部が中心となって、2018年には全国中高生折り紙連盟が発足しました。個性あふれる同級生同士、そして先輩・後輩と交わるなかで、競い合い、磨き合い、切磋拓磨していく環境があります。

教育においては、さまざまな分野の専門家が教員を務め、高いレベルの授業を行っています。小説家、俳人、研究者のほか、芸術家もいます。そうした教員が、自主教材を用いて生徒の興味を引き出し、考えさせる高いレベルの教育を提供しています。海外大学への直接入学を視野に入れた英語教育に加え、留学支援も強化しており、英語を母語とした(ネイティブ)教員が専任2名と非常勤5名おり、日本人教員も皆、英語での授業が可能です。

近年は特に国際関連プログラムに力を入れており、高校では毎日の放課後の7限または8限に実践的な英語力の養成と海外大学進学のサポートを行うための特別講座を設け、主にネイティブの教員が担当しています。海外サマープログラムへの参加支援も積極的に行っており、新型コロナが流行する前には中3・高1を中心に年間50名ほどが参加していました。海外大学への直接進学においては、指導経験が豊富な日本人教員のアドバイスを受けることができ、またネイティブの留学アドバイザーもいます。エッセー・ライティングなどの対策も実施しており、この5年間は、毎年4-10名の生徒が海外有力大学に直接進学しています。

生徒への期待としては、多様で優秀な個性を磨き合い、楽しく伸び伸びと満足度の高い学園生活を送りながら、得意な分野、個性を伸ばしてもらいたいということ。多様性を深く理解し、社会的弱者や少数者、男女共同参画にも配慮しながら、高い語学力とコミュニケーション力を駆使して、さまざまな分野において創造的・先進的な仕事に取り組み、信頼されるリーダーシップを発揮してほしいと願っています。

最後に、中学受験生の皆さん、十分な睡眠と健康を維持しながら、冷静に地道に実力を積み上げてください。新聞や本などを読み、社会や世界の動きを学ぶ習慣を身につけてほしいと思います。国や文化・宗教など背景の異なる人々に対して、弱い立場や恵まれない環境の人々に対して、相手の立場に立って考える姿勢を培い、そして自分で考えたことを積極的に伝える努力をしてほしいと思います。たとえ志望校への合格につながらなかったとしても、その後に成功した人はたくさんいますし、努力の過程こそが貴重な財産となります。開成への入学を目指す皆さんの入学を心よりお待ちしています。

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