中学受験と子育てを考えるフォーラム

SAPIX小学部 教育情報センター 本部長 広野雅明氏

広野 雅明 氏
SAPIX小学部 教育情報センター
本部長
広野 雅明 氏

 各学校がどういったお子さまを望むのかは、入試問題にもその“色”が表われます。4教科の入試問題と、慶應義塾普通部と早稲田大学高等学院は面接もありますが、それぞれの出題傾向を見ながら、どういったお子さまが3校の校風に合っているのかを考えていきたいと思います。

 まず、算数です。麻布の大問では、小問を解き進めながら、「その答えが次にどう利用できるのか」を段階的に問うていく“誘導形式”の問題が出されることがあります。ただ解くだけでなく、そこから、何に気づくことができるか、そういう能力が試されます。一方、慶應普通部は、比較的短めの文章題が数多く出題されます。制限時間も40分と短いので、素早く処理していく能力が必要となってきます。続いて早大学院は、ただ答えを求めるだけでなく、「なぜそうなったか」という理由を書かせる問題が出るのが特徴です。子どもたちは答えを求めることには慣れていても、どうしてそうなるのかを考え、伝えるのは苦手なものです。受験勉強でも、考え方を確認しながら解く習慣をつけたいものです。

 次に、国語は、解答用紙に各校の教育方針が表われているようにと思います。麻布では、マス目になっていない、行だけの用紙です。これが2枚あります。長い文章題で精神年齢の高さを推し量るだけでなく、全体が記述なので、自分の考えを書く力も求められます。対して、慶應普通部は、マス目があります。しかも、短めの字数制限です。そこで求められているのは、短時間で問題の趣旨をつかみ、簡潔に、的確に答えを書く力です。麻布とは違った難しさがあると思われます。そして、早大学院は、字数制限のある記述問題のほか、書き取りや選択問題もあり、国語としては比較的オーソドックスな出題構成です。その分、他の教科で差がつくのではないかと予想できます。

 各校の合格の目安は、サピックス小学部で実施されている模擬試験、そのなかでも6年生の9月から実施される合格力判定サピックスオープンの4教科の平均偏差値4回分を平均したもので見てみましょう。

 麻布はオーソドックスな試験で見ると、合格者層にも幅があることが分かります。偏差値48以上、44以上の層からも合格者は出ます。その一方で60以上の層でも不合格者が出ます。麻布の場合は、記述や考える問題が多く、他校に比べると特殊な問題が出されるため、それに合えば、力を発揮することができますが、逆に、学力が高くても、「知識はあるが、考えることや書くことが苦手」なお子さんはうまくいかないケースがあります。併願校には、栄光学園、渋谷教育学園渋谷、攻玉社、浅野、海城といった、麻布と出題傾向が似ており、かつ、自主性を尊重する教育方針の学校が挙がっています。

 次に、慶應普通部は、56以上になると、合格率がかなり高くなります。それより低いと、苦戦を強いられることになるので、やはり学力が高い層の受験者が多くなります。1月校に佐久長聖や秀光中等教育学校の併願が目立つのは、会場が慶應義塾大学だからでしょう。2月2日以降は、慶應義塾湘南藤沢中等部、慶應義塾中等部と、慶應3校を併願するのも例年の傾向です。

 また、慶應普通部の入試では、体育実技と面接があります。今春、体育実技では、指定された動きをメトロノームのリズムに合わせて行う、縄跳び、ボール運動などが課題として出されました。これは、運動能力を比べるというよりは、先生の指示に従って行動できるかを見るためのものです。うまくできることよりも、話をきちんと聞いて、一生懸命取り組むことが重要です。面接では、志望動機や入学後にやりたいことといった質問のほかに、「消しゴムに関するエピソードを30秒で話す」「次に挙げる野菜で作ることができる料理は?」「50年後の日本はどうなっているか」といった予想外の質問も出るそうなので、日ごろから、親子でいろいろなことについて話す習慣をつけておくとよいでしょう。

 早大学院は、偏差値52以上で合格率が高くなってきます。ほかに比べて、少しチャンスがあるように見えるのは、早稲田の場合、2月1日に本校のほか早稲田中や早稲田実業も入試を行うため、教育方針やアクセスなどに合わせて選べる形だからです。併願校は、大学付属校も多く挙がっていますが、慶應、立教、明治と、早稲田以外の付属が並んでいるのが特徴です。

 早大学院も面接があります。質問は、やはり志望動機について。きちんと自分の言葉で伝えられるように、文化祭や体育祭などの機会には親子で足を運ぶとよいでしょう。ほかには「男子校の良いところは?」「印象に残った先生からの言葉」「家でほめられたこと」などが聞かれたようです。

 このように3校について比べてみても、入試というのは各校それぞれに特徴があります。それに対応するためには、まずは、4教科まんべんなく、しっかりとした基礎学力をつけることです。そのうえで、出題傾向に合わせた対策を立てることをお勧めします。3校ともに、「教わったことだけ」では受からない学校です。教わったことを自分で消化して、自分の力で答案に書き出すことを求めている入試です。何より大切なのは、「中学受験の軸を持つ」ことです。お子さまを信じて、最後まで、応援し続けてください。