中学受験と子育てを考えるフォーラム

早稲田大学高等学院学院長 山西 廣司 先生

山西 廣司 先生1
早稲田大学高等学院
学院長
山西 廣司 先生

 早稲田大学高等学院中学部は2010年に開校したばかり。今年で6年目、中学部1期生が現在の高校3年生なので、これから大学で、あるいは社会に出て、どういう活躍をするかはかなり先の話になります。とはいえ、高校の歴史としては、旧制までさかのぼれば、1920年から、さらに予科までさかのぼれば1908年からと、たいへん長い歴史を持っています。大隈老公の精神を継承し、これまでの高等学院の伝統、そして早稲田大学の有形無形の資産を大いに活用しながら、新しい中学教育をしていこうということが開校の趣旨です。

 単純に豊かさが拡大していくとはいえない時代に、一人ひとりの長所を活かしてどのようにして自分の役割を果たしていくかが重要となります。そのためには、問題発見、課題解決に向けての意識と、共に支え合っていく、あるいは共に成長していく“共生の意識”も身に付けていかなければなりません。それらを育てるために、中学から始められる部分がたくさんあると考えています。

 たとえば生活面において、本校では、生徒が問題のある行動を起こした場合に、「それはだめだ」と叱るのではなく、どうしてダメなのかを考えてもらうことを重視しています。授業のなかでも、2ウェイでやると言いましょうか、教師側からの一方的な授業ではなく、生徒に、自分からおもしろいと意識させるような工夫を凝らしています。生徒の自主性を尊重して、それぞれの持っている子どもの能力を生かすことでは、先に講演されました麻布中学、慶應義塾普通部の2校ととても似ているようにも思います。

 さて、少し行事について紹介させていただきます。体育祭、芸術鑑賞教室、奈良(中1)、長野(中2)、長崎(中3)への研修旅行、早慶戦観戦、早稲田大学へのキャンパスツアーなど、さまざまな行事があります。芸術鑑賞教室では、今年は、東京文化会館にクラシックバレエを見に行きました。「男の子がバレエを?」と驚かれた保護者の方もいらっしゃたように聞いていますが、事前にバレエ団の方にお越しいただき、鑑賞の仕方などの指導もしていただき、ストーリーが頭に入っていたので、全員が熱心に観ていました。すべてを体で表現するため、オペラなどより理解できたのかもしれません。

 行事を多く設けているのは、体験することで、何かに目覚めるきっかけを与えたいからです。大切なのは、「勉強しなさい」というより、勉強したい環境を作ること。たとえば英語なら、話せなくて困る経験か、話せたら楽しいという経験をさせると、自分で勉強するようになります。

 スーパーサイエンスハイスクールに指定されて今年で10年目を迎えた本校ですが、さらに、昨年からはスーパーグローバルハイスクールの指定も受け、さまざまなグローバル人材養成のための環境を整えています。グローバル社会で求められるコミュニケーション力の一つが、日本語以外の言語を母国語とする人に対しても自分の意見を伝えられる言語力です。高校では、ドイツ語、フランス語、ロシア語、中国語のうち一つを取ることを課しており、そこに結びつく授業は中3から始めています。これからの時代、英語はできて当たり前になるでしょう。だからこそ、英語+1の外国語を習得してほしい。コミュニケーション能力は多岐にわたりますが、言語能力という意味でもコミュニケーション力をつけてほしいと考えています。

 加えて、先に述べた“共生への意識”も欠かせません。新しい知見を取り入れて、「そういうこともあり得るのか」「そのほうがよいのではないか」という議論がきちんとできること。論理的に議論されたものについては、それを自分がよしとすれば受け入れる、それが誤っていると思えばきちんと批判的な議論ができる。そのような力を備えてほしいと考えています。

山西 廣司 先生2

 本校では中学部は1学年120名定員、ほぼその全員が高等学院に進学しますが、そこで、新たに360名の生徒が加わり、内部進学者も各クラスに振り分けられます。自己推薦入試などいくつかの入試を経て加わるさまざまなタイプの仲間と、新たな人間関係を構築する高校生活。さらに、その先の進学先が、留学生が国内でいちばん多い早稲田大学です。

 早稲田大学は、2032年に開学150年目を迎え、シラバスの構成や、教え方、教授法の研究等を進めており、その普及も進んでいます。中学部に入学した生徒は、高等学院を経て、ほぼ100%が早稲田大学に進みます。その意味では、早稲田の教育方針や学習環境に対しても、同じように理解しておいていただきたいと思います。

 共学、男女別学、進学校、高大一貫型など、学校にはいろいろなタイプがあります。学校選びは、まず、お子さんにとってどこがフィットするのかというところから始まると思います。また、人間には可塑性もありますから、「こういう人間に育っていってほしい」という思いがあれば、ある程度はそれに合った学校を選ぶ方法もあるのかもしれません。

 中学部を開校するに当たり、入試日を2月1日に設定したのは、学力もさることながら、本校を第一志望とする生徒に入学してほしいという思いがあったからです。教育の特徴をしっかり理解したからこそ、第一志望校として受験していただけるのだと思います。そうした意味で、ここで学びたいという気持ちで本校をめざしてくれる方に受験していただければ、うれしく思います。