中学受験と子育てを考えるフォーラム

第3部 セミナー 自発的学習のススメ 3校の入試対策の決め手

広野 雅明 氏
SAPIX小学部 教育情報センター
本部長
広野 雅明 氏

 3校の先生方の講演やパネルディスカッションを通じて、それぞれの学校の教育理念や教育方針を聞き、入学を検討したいとお考えになった方も多いかと思います。そこで、3校の入学試験の特徴について、簡単にご紹介させていただきたいと思います。

 まず、各校の入学試験の科目と試験時間についてです。3校とも4教科入試ですが、慶應義塾普通部(以下、慶應普通部)は算国40分、理社30分と比較的試験時間が短く、4教科均一の配点です。算国に比べて理社の配点が低い学校が多いことを考えると、逆に理社の配点が高いという見方もできます。さらに筆記試験以外に面接や体育実技もあり、通常の4教科の勉強以外の面も見たいという学校側の考えがうかがえます。一方、武蔵中学校(以下、武蔵)には面接はありません。配点は算国100点に対して理社が60点ということで、算国を重視した試験になっています。早稲田大学高等学院中学部(以下、早大学院)はその中間で、算国100点で理社が80点、そしてグループ面接があります。

 続いて、最近2年間の志願者数の変動を見てみましょう。武蔵は昨年度に比べて受験者数が若干減りました。これはある年の受験者数が増えると、翌年は敬遠されて数を減らす隔年現象の影響と、ここ数年、大学付属校が人気を集めていることが要因として考えられます。しかし、難度は高いレベルを保ったままで、易しくなっているわけではありません。一方、大学付属校である慶應普通部、早大学院は人気が高まっています。付属校人気の背景としては、首都圏の私立大学の合格者数の抑制が行われているため、早くから大学の付属校に入ったほうが有利だと考える方が多いこと、大学受験がない環境だからこそできる教育に魅力を感じる方が増えていることなどが挙げられます。

 それでは、どの程度の学力があればこの3校に合格できるのか、昨年9月から12月の4回、サピックスで実施した6年生対象の模試、合格力判定サピックスオープンの結果と実際の合否を照らし合わせて見てみましょう。まず慶應普通部は、偏差値52から56で合格率が5割程度で、60を超えると合格率はかなり高まります。成績上位者から順当に合格していることがわかります。一方、武蔵は例年、下位の成績で合格を勝ち取っている生徒がいる一方、上位者のなかにも失敗している生徒もおり、今春は特にその傾向が顕著でした。理由としては、武蔵の入試が思考力・記述力を中心とした特徴ある問題で、合格力判定サピックスオープンと出題傾向が違うこと、武蔵志望者の傾向として、頭は良いがこつこつ勉強するのが苦手で、最後の最後に集中して勉強し、一気に伸びて合格ラインに飛び込むような生徒が毎年何人かいることなどが考えられます。

 最後に早大学院ですが、今年は非常に厳しい入試となりました。早稲田中、早稲田実業学校、早大学院の3校のなかで、中学受験では比較的入学しやすい早大学院ですが、この2年間は志願者が増え、難度も上がっています。例年であれば偏差値44から48ぐらいでも合格者が一定数出るのですが、今年はその層では合格率は5割に届きません。来年も早稲田の付属校・系属校は難化が予想され、かなりがんばらないと合格は難しくなるはずです。

 次に、併願パターンを見てみましょう。首都圏では1人当たり平均5校ぐらい受験しています。前半の合否の結果によって次の受験校が変わってくることもあり、直前になって慌てないように、併願パターンは事前にしっかり決めておく必要があります。まず、慶應普通部の受験者の場合、1月に、長野県の佐久長聖と宮城県の秀光中等教育学校の東京入試を受験するケースも少なくありません。いずれもその会場が、慶應普通部受験者の多くが併願する慶應義塾中等部が試験を行う慶應義塾大学となっていることから、その雰囲気を知るために受験するようです。そのほかでは埼玉県の立教新座や栄東、千葉県の市川などがあります。慶應普通部は午後に面接と体育実技があるので、午後入試は受験しづらいのですが、5人に1人は午後入試を受けています。来年度は世田谷学園と巣鴨が1日午後に算数1教科入試を実施するので、比較的距離が近い世田谷学園を併願する受験生もいるかもしれません。2月2日でいちばん多いのは同じく慶應の湘南藤沢中等部ですが、青山学院、学習院といった付属校、栄光学園、本郷といった男子進学校も上位に名前が挙がっています。2月3日は慶應中等部がいちばん多く、浅野などが続きます。

 次に武蔵は、東京の北側という立地から、1月校で多いのは栄東や開智といった埼玉県の学校です。武蔵は面接がないので、3人に1人ぐらいが午後入試を受験しており、東京都市大学付属、広尾学園などの名前が挙がります。2019年度入試では、武蔵から比較的行きやすい巣鴨を併願する受験生もいるかもしれません。ただ、同校は武蔵とはスクールカラーが違うので、この点はしっかり確認しておくことが必要です。2日はやはり同じ男子校の城北や桐朋、本郷、3日は海城、筑波大学附属駒場、暁星など。なお、武蔵の合格発表は3日の朝ですが、毎年、慣例で2日の夕方に学校掲示があり、合否がわかります。前日のうちに確認して、武蔵に合格したので筑駒に挑戦しようとか、失敗したので別の学校を受験しようというように、結果を見たうえで3日の受験校を決めることができます。

 早大学院の場合は、1月校に東京入試を行う早稲田佐賀の名前が入っている点が慶應普通部や武蔵とは違います。なお、同校の場合、2019年度の募集定員は本校を含む九州入試が約80名、首都圏・名古屋入試が合わせて約40名となっています。東京で受験するより、九州で受験したほうが若干有利かもしれません。また、1日午後は東京都市大学付属、国学院久我山、広尾学園の名前が挙がっていますが、同校もグループ面接があるため、受験するのは5人に1人くらいです。そして、2日は学習院、立教池袋、明治大学付属中野、青山学院、3日は慶應中等部といったように付属校の名前が多く挙がっています。

 最後に、入試問題をいくつかご紹介したいと思います。まず算数の試験用紙に特徴があるのが武蔵です。試験問題はわら半紙に手書き。他校であれば、通常は式を書くスペースと回答欄はきちんと分かれていますが、武蔵はそういうものは一切ありません。空白部分に式を書いたうえで、答えをわかりやすい位置に書きます。解答の過程も見てもらえるこうしたスタイルをあらかじめ知っていなければ、戸惑ってしまうかもしれません。

 慶應普通部や早大学院は社会の問題に特徴があります。慶應普通部では今年、「環境アセスメント」「食品トレーサビリティ」の日本語の意味を8つの選択肢から選ばせました。正解は「影響事前評価」と「追跡可能性」ですが、紛らわしい選択肢もあり、日ごろから社会の出来事に関心を持っていないと正解するのは難しいでしょう。一方、早大学院の社会の問題では、関東地方にある地方裁判所ごとの裁判員制度による被告人の数の一覧表を見ながら、東京都よりも千葉県のほうが被告人の数が多い理由を記述させるものがありました。成田国際空港で密輸などの事件が多いため裁判も増えるというのが正解なのですが、小学生にはかなり難しいのではないかと思われます。

 入学試験の問題については、「このような学習姿勢を持った受験生に入学してほしい」という学校側の姿勢の表れでもあります。志望校の試験問題の特徴を分析し、入学試験に関する情報をきちんと把握することが、合格を手にする第一歩といえるでしょう。