校風

最初は「校風」についてですが、サピックスから各校に進学した生徒と保護者によるアンケートによると、早大学院については「学習面ではレポート作成に力を入れていて、発表する機会も多く、プレゼン力が上がった」「映像などを取り入れながら、興味を引き出してくれる社会科の授業が面白い」「高校がスーパーサイエンスハイスクールに指定されていて、理科授業が充実している」といった声が寄せられていますが、本杉先生、いかがでしょう。中学から進学した生徒の様子なども含め、教えていただけますか。
本杉 講演では、突出した卒業生ばかり紹介しましたが、もちろん、全ての生徒が並外れた才能の持ち主ではありません。ただし、優秀な友だちと机を並べて学ぶ経験は、他の生徒も多いに刺激を受け、「どうすれば社会に役立つか」と考えるきっかけにもなるようです。互いをリスペクトできる日常が、切磋琢磨する校風を作り出しているのだと思います。
高1からは内進生と高入生が混合のクラス編成になります。私が担任した中学部1期生が高1のときのエピソードですが、校外活動の際の班分けで、内進生が偏らないように自分たちで調整を始めました。その姿を見て「自主性が育っているな」と感動したことを思い出しました。
授業については、3年分を2年でというような先取り教育は行っておりません。心掛けているのは〝じっくりやる〟授業。ただ覚えるだけでなく、「なぜこうなっているのか」と問題提起をしながら、好奇心や探究心を育てていきます。理科については、ご紹介いただいたコメントにあるように、設備はかなり充実しています。全員に行きわたる台数の顕微鏡があるので、時間をかけての観察も可能です。授業と交互になるほどの頻度で実習・実験を行っています。
髙宮 入学試験に面接があるのも、そのような校風に合っているかを見極めるためなのでしょうか?
本杉 そうですね。ダイバーシティが求められる社会に向けて、本校ではバックボーンの異なる相手と関わりながら成長していく過程を重要視しています。面接では「大人とどのように話すのか」も見たいと考えています。
髙宮 ありがとうございます。続いて早実については、「生徒たちがきらきら輝く文化祭が素晴らしい」「身だしなみなど生活指導は割と厳しいが、その半面、フレンドリーな先生も多く、窮屈さはない」とあります。藁谷先生、3校のうち唯一の共学校という立場から、女子生徒の様子も併せて紹介していただけますか。
藁谷 まさに今月末(9月30日・10月1日)に、いなほ祭(文化祭)の開催を控え、生徒たちは毎日、その準備に駆けずり回っています。その前の週には体育祭もあり、秋は大忙しなのですが、本校の女子生徒はとてもアクティブで、学校全体を引っ張る存在に育っています。共学化から15年、〝新しい早実〟になってきているなと感じる次第です。
髙宮 生徒の男女比率は2対1ですが、それには理由があるのでしょうか?
藁谷 男子校を共学化するに当たり、伝統や部活動の運営などを考えてこの比率でスタートしたのですが、近年はこのバランスもやや崩れつつあります。生徒たちの様子を見ていると、女子も伸び伸びと元気に活動をしていて、部活や生徒会の長や、組長(クラス委員長)を務める子も多く、男女差はほとんど感じられません。
髙宮 ありがとうございます。最後は早稲田です。アンケートでは「厳しい校風にひかれた」「先生が駄じゃれを言ったり、生徒の発言に突っ込みを入れたり、授業が面白い」「5月の体育大会は、棒倒しや騎馬戦も行い、男子校らしく迫力満点」といった、男子校らしいにおいが漂っていますが、金子先生、いかがでしょう。
金子 校風は、実はあまり厳しくありません。「勉強をやらせる学校」のイメージを持たれているようですが、部活も盛んで加入率もほぼ100%です。授業では、確かに駄じゃれを言う先生はいますね。突っ込みを入れるのは私も大好きです(笑)。
6年一貫のメリットを生かし、有機的なカリキュラムを採用しているため、高度な内容を無駄なく、楽に学ぶことができます。勉強と部活の両立も十分に可能です。補習などのサポートも徹底しているので、本校では〝落ちこぼれ〟という概念がありません。先に髙宮先生から「第2部では〝差障りのある〟範囲までお話しください」と言われ(笑)、私も考えましたが、いちばん差障りのある部分が明らかになるのが、秋に行う興風祭(文化祭)です。生徒たちの〝生の姿〟をご覧いただけるので、ぜひお越しください。
学校行事・部活動・生徒会活動
髙宮 二つ目のテーマは「学校行事・部活動・生徒会活動」です。講演のなかでも、一部紹介いただきましたが、なかでも〝わが校らしさ〟が出るエピソードを教えていただきたいと思います。藁谷先生、お願いいたします。藁谷 では、今や注目の的となった清宮幸太郎がいる硬式野球部を例に、勉強と部活動の両立についてお話します。本校の野球部は強豪で知られていますが、その環境は決して恵まれているわけではありません。野球部のグラウンドは八王子にあるため、選手たちは電車で移動。学校から駅、駅からグラウンドまでは全員で走ります。学校を3時半に出ても練習を始められるのは4時半。限られた時間で、それぞれがやるべき練習を無駄なくこなしながら出してきた成果なのです。スクールバスの運行も提案したのですが、「電車に乗っている時間をどう使うかも本人に委ねたい」と監督から断られました。
髙宮 ありがとうございました。金子先生、いかがでしょう。
金子 さきほども話しましたが、興風祭が一番だと思います。企画はもとより、予算の割り振り、安全確保、業者とのやりとりといった運営も、全てが生徒主体です。その年の興風祭が終わると同時に翌年の実行委員会が発足し、1年かけて作り上げていきます。最終的には教員も関わりますが、全体を通しては「責任ある行動」を意識しながら生徒自身が動きます。学芸部にとっては発表の場となるので、全ての部が力を入れています。特に理科系の部の発表は、例年クオリティが高く、人気を集めています。
髙宮 以前、放課後に訪問し、生徒の皆さんが部活に励んでいるのを見たことがあります。都心にあるキャンパスだけに、スペース的には厳しいところもあると思いますが、その配分などはどのように決めているのですか?
金子 「人格の独立」を実践するために、「あらゆることをバランス良く経験する」をモットーとする本校では、部活動は週4日、1回2時間以内と制限を設けています。全ての運動部が活動するには手狭なグラウンドですが、「いつ、どこの部が使うか」という仕切りは、生徒会が中心となって民主的に決めています。

本杉 中学でいうと、テーマ決めからコース設定まで自分たちで取りまとめる宿泊研修が、主体性を育てる場になっていると思います。それと並行して、体育祭や海外研修などの学校行事もありますが、それらも全て、生徒が主体で行っていきます。そうした機会に、責任感を持ってやり抜こうとする姿勢も垣間見ることができます。このようにして育まれたリーダーシップは高校進学後に大いに発揮されるようで、中央幹事会(生徒会)の幹事長も、2年連続で中学部出身者となっています。
高校では、生徒たちが、さまざまな社会的事象にまで問題意識を広げたことから発足した「プロジェクト活動」というものを20年近く続けています。クラブ活動や生徒会活動の枠に当てはまらない課外活動として、環境や教育といったテーマで有志が集い、様々なフォーラムへの参加やフィールドワークなどを盛り込みながら、1年間かけてプロジェクトを展開しています。
学習と進路
髙宮 最後のテーマは「学習と進路」です。講演でも卒業生の御活躍のエピソードで多様な進路を示していただきましたが、学習面での取り組みを教えていただければと思います。では金子先生、お願いいたします。金子 教員のチームワークが固いことが特徴の一つです。教科ごとに効果的な指導方法や改善点などは随時報告し合い、情報を共有しています。また、それらを反映させたシラバスを作り、授業を進めています。ほかにも、本校では独自に工夫してきたことが多いので、大学入試改革のようなことが起こっても、一切動じることのない学習システムが確立しています。授業にきちんとついてきていれば、学校の勉強だけで、希望の進路を実現できると自負しています。半数が早稲田大学以外に進学しますが、推薦入学を選ぶ生徒と、他大学受験をする生徒に学力の差はありません。文系理系の区別をあまりつけないカリキュラムになっているので、途中で志望を変更しても問題ありません。勉強以外の才能を発揮する生徒も多いので、東大の推薦入試でも毎年合格者を輩出しています。
髙宮 シラバスも確立されていて、補習もばっちり行うという、早稲田中・高は本当に予備校泣かせということがわかりました(笑)。では、本杉先生、お願いします。
本杉 冒頭でも申しましたが、高校受験がないとはいえ、先取り学習をしていないのが本校の中学の特徴です。それよりはむしろ「深く学ぶ」ことに力を入れています。理科では実験が中心、社会でも実物の資料を見るなどして、時間をかけて考えさせる授業を展開しています。多様な刺激を与えるということでは、クラブ活動も同様です。例えば、理科部では夏休みに佐渡で合宿を行い、生物の調査をしてきました。特別授業やキャンパスツアーなどでは、早稲田大学の学生や留学生と交流する機会も多く設けており、学習と進路のつながりを考える大きなきっかけになっているようです。
髙宮 ありがとうございます。早実についてはいかがでしょう。
藁谷 卒業生のほとんどが早稲田大学に進む本校の役割の一つが、大学の中核を担う人材を育成することです。その一方で、留学などを機に、グローバルな進路を見いだすのであれば、「早稲田に帰ってくる必要はない」と私は考えています。だからこそ、視野を広げるチャンスは豊富に与えるべきであり、それこそが大隈重信の精神にも通じる教育なのです。グローバル社会に送り出すに当たり、英語力はあるにこしたことはないので、その習得には力を入れています。ただし、語学はあくまでツールに過ぎません。それよりも大事なことは、国籍や文化の異なる相手とも上手にコミュニケーションをとり、共存していける〝人間力〟です。これからも、そうした人材を育てる教育に尽力していきたいと思っています。
髙宮 最後に、受験生と保護者に向けてのメッセージに変えて、各校の個性を一言でまとめていただけますか。
本杉 一言でまとめるとすれば、「学院の面白さは学院生にある、学院の面白さは教員にある」ですね。どちらもとても個性が強いので、無理をして統一を図ることはせず、多様性のなかで、切磋琢磨しながらあらゆることに挑戦してもらう。それが本校の個性です。
藁谷 本校が心掛けているのは「一人ひとりの個性に向き合い大切にする教育」です。生徒は行ったり来たり、迷いながら成長していくものです。一人ひとりの迷いに寄り添うためには、教員は時に「無駄」に見える時間を費やすこともありますが、これは絶対に必要な無駄です。「教育とは生徒の個性を引っ張り出していくもの」と考え、指導に当たっています。
金子 建学の精神に「人格の独立」を掲げる本校ですが、人格を独立させるためには、正確な判断力が求められます。そのために必要となる幅広い教養を身につけてもらうのが本校の6年間です。ですので、一人ひとりの生徒は非常に地味な努力をしているのですが、出てくる個性はとても強い。また、何かをやり遂げることで、リーダーシップやコミュニケーション能力も磨かれ、優しさや誠実さといった人として大切な部分が育つのだと思います。
髙宮 各校それぞれの、素晴らしい個性がしっかりと伝わったのではないでしょうか。先生方、本日はありがとうございました。