次世代の子育てと教育を考えるシンポジウム

第1部 特別講演(2)早稲田中学校・高等学校における教育

瀧澤 武信 先生
早稲田中学校・高等学校 校長
早稲田大学 政治経済学術院 教授
瀧澤 武信 先生
 早稲田中学校の創立は1895(明治28)年11月。早稲田大学創立者・大隈重信の教育理念に基づき、坪内逍遙らが中心となって、翌1896年に開校しました。早稲田大学の創立が1882年ですから、その13年後に誕生したわけです。全国に数ある早稲田大学の附属・系属校のなかでも最も歴史のある伝統校となっています。その背景には、大隈重信が説く「中等教育の重要性」があり、早稲田大学が「学問の独立を全うし 学問の活用を効し 模範国民を造就する」を教旨としているのに対して、同校ではその前提となる「人格の独立」を建学の精神に掲げています。
 教育の指針は「常に誠(言行の一致)を基本とする人格の養成に努め、個性を伸張して、国家社会に貢献し得る、健康で民主的な人材の育成」です。具体的には、中高時代の多感な時期に、さまざまな事を幅広く、バランス良く学び、そして体験させることを目指しております。
 理科実験や実習などはもちろん、現地に出向き、本物に触れさせる校外研修なども含め、体験型の学びを重視した教育を行っています。そこで得られた教養が、希望する進路を切り開いていく糧になると私どもは考えております。本校を卒業後、希望する大学に進学し、結果、希望する仕事に就くことができる。20年、30年後に、社会のために貢献できる人物となって、充実した人生を送ってほしいのです。
 高校募集を行わない本校は、完全中高一貫の男子教育を行う学校です。担当教員は原則的には6年間持ち上がり、クラス替えは毎年行われます。1学年は約300名で、7クラス編成ですが、習熟度別のクラス分けは行っていません。人はそれぞれ長所・短所があり、その価値は成績の良し悪しだけでは計れません。友だちの個性を正しく評価し、互いにリスペクトしながら高め合うことこそが、人間形成においては大切だと考えているからです。
 学習面では、6年間を2年ずつに分けて、中1・中2を「生活習慣と学習の基礎を固める時期」、中3・高1を「実力養成時期」、高2・高3を希望の進路に向けた学習に移る「応用力完成時期」と位置づけ、大学入学後にも困らない知識を身につけさせています。その授業は、各教科で毎年改善を重ねたシラバスに従ってすべての教員が協力しながら行われるため、無理なく高い学力が身に付きます。
 その一方で、大学入試には関係ない教科についても一切手抜きをしません。例えぱ家庭科では調理、裁縫、栄養学などを学び、どのような環境でも活躍できる能力を養成しています。
 本日集まった3校のうち、本校が他の2校と異なる点の一つが、卒業後の進路です。本校は、系属校でありながら、早稲田大学に推薦で進学するのは卒業生の約半数。残り半数の生徒は、一般受験をして大学に進学します。そのため、高2からは緩やかに文系コースと理系コースに分かれますが、いずれのコースでも文理の区別なく全教科を偏りなく学ばせています。時間数に多少の差はありますが、高3まで、文系では数学・理科が、理系では国語・社会が必修です。そのため、一般的な進学校よりも、日々の勉強は大変かもしれません。逆に言えば、本校の課す勉強をこなしていれば、学校の勉強だけで希望の大学に合格できますし、大学進学後にも困らない学力をつけることができると自負しています。
瀧澤 武信 先生
 進学実績としては、早稲田大学への推薦を含め、慶應義塾大学や国公立大学を中心に、約8割強の生徒が現役で進学しています。ほとんどの生徒が早稲田大学の推薦条件を満たしていますが、生徒は自分で望む進学先を最優先にするため、推薦枠は一部埋まりません。また、推薦にもれても一般受験で志望校に合格する生徒も多数います。なお、多くの方に本校の合格実績を評価していただいていますが、重要なのは数字ではなく、生徒が希望する進路に進むことができたかどうか。われわれ教職員は常にその思いで、指導に当たっています。
 最後に、学校行事について紹介します。中1の夏休みには、長野県にある入笠山鈴蘭寮での林間学校があり、ハイキングやテント体験、飯ごう炊さんなどを行います。大自然のなか、失敗も経験としながら、クラスメイトと共同作業にいそしむことで、高いコミュニケーション能力が身に付きます。自分たちでプランを作成して出向く「関西研修旅行(高2)」、6年間かけて上流から河口までのルートをたどる「利根川歩行」、本物のオペラを鑑賞する「芸術鑑賞会」など、体験から深い教養を身につけるプログラムをいろいろと用意しています。
 9月30日、10月1日の2日間には、興風祭(文化祭)も行います。折紙同好会や数学研究部などマニアックな活動を行う団体も参加するので、本校生の「好きなことに対するこだわり」も十分に見ていただけると思います。ぜひお越しください。