次世代の子育てと教育を考えるシンポジウム

第1部 特別講演(3)早稲田実業学校が実践する男女共学・中高一貫教育

藁谷 友紀 先生
早稲田実業学校 学校長
早稲田大学 教育・総合科学学術院 教授
藁谷 友紀 先生
 「多様性」を特徴とする早稲田大学の附属・系属校のなかで、本校の特色を一言で述べるとすれば、「文武両道」になるでしょう。今日はまず、その代表的な2人の人物を紹介したいと思います。1人目は、将棋棋士の中村太地六段です。今年度は、王座戦での羽生王座への挑戦で注目を集めております。(10月11日王座獲得。現七段)彼は、本校在学中の高3でプロの棋士になり、その後早稲田大学の政治経済学部に進学しました。大学在学中には、「無党派層の政党好感度 政策と業績評価からのアプローチ」と題した論文が認められ、本学の政治経済学術院奨学金(政経スカラシップ)を授与されました。まさに、文武両道を実践した卒業生です。
 続いては、このタイミングで紹介するのは“あざとい”かなとも思ったのですが(笑)、プロ野球志望表明で話題の清宮幸太郎君です。彼は勉強も頑張っており、現在、組長(クラス委員長)を務めております。主将としてチームを牽引する一方で、クラスをまとめる役割も果たす。これも文武両道の一つの形だと思います。
 この2人は傑出した存在ではありますが、本校の生徒たちは、一人ひとりが文武両道を実現しようと日々励んでいます。本校の掲げる文武両道は、「個々の生徒がそれぞれ、勉強と活動を両立させる」ことであり、勉強のできる生徒が「文」を、運動能力の優れた生徒が「武」を究めることではないのです。
 本校の教育方針は「豊かな個性と高い学力をもち、困難に打ち克つたくましい精神力を兼ね備えた人物」を育成することです。そのためには「中学生だから、高校生だから」という上限は必要なく、やりたいことを思う存分追求する場を与えることが重要だと考えています。もちろん、社会に貢献するための基本となる深い教養も不可欠です。その実現のために、校訓「三敬主義(他を敬し、己を敬し、事物を敬す)」と、校是「去華就実(上辺の華やかなものを去り、実に就く)」を掲げています。そしてこれらを実践することが、早稲田大学の教旨「学問の独立を全うし 学問の活用を効し 模範国民を造就する」に近づくための教育だと考えているのです。
 本校の設立は1901年。100周年となる2001年には現地・国分寺にキャンパスを移転、翌2002年には初等部を開校し、中等部・高等部も男女共学化を実現しました。「早実第二世紀」に当たり心掛けたのは〝地域に根ざす教育〟でした。社会貢献の第一歩につながる地域社会に目を向ける取り組みは、この15年でかなり成果を出すことができたと自負しています。
藁谷 友紀 先生
 そして、土台が完成しつつある今、見直したいのは「生徒の個性に向き合う教育」です。初等部から大学までの16年間にわたる教育、その責任は極めて重大です。生徒一人ひとりの成長をきちんと把握することの重要性を考慮し、現在、学年ごとの学びや出来事を記録として残す教育のポートフォリオの作成を進めています。
 早稲田大学が表明しているグローバル教育の強化にも対応しています。英語教育では、基礎力の向上を図るだけでなく、英語での発信力を養うため、理科など他教科を英語で学ぶ取り組みを今年度から試験的に開始しました。また、国際社会で活躍する際に必要となる日本人としてのアイデンティティーを育むために、茶道や日本舞踊などの伝統文化に触れる機会も設けています。海外からのギャップイヤー生の受け入れや、アメリカ、イギリス、カナダなどへの語学研修など、国際交流の機会は国内外ともに充実しており、さらに今年度からは、イギリスの名門パブリックスクールであるラグビー校への2年間の留学制度(中3夏から高2夏まで)も新設しました。高等部では年間留学をしても、3年間で卒業できる制度も導入したので、積極的に海外で学んでほしいと思っています。
 そうして得た知識をぜひ、世界に向けて知らしめる人、社会のために役立てる人になってもらいたい。「社会の一隅を照らす」ことこそが、社会の質を高めることに通じるからです。