次世代の子育てと教育を考えるシンポジウム

第1部 基調講演 Waseda Vision 150と早稲田の一貫教育

村上 公一 先生
早稲田大学理事
(学生、附属・系属校担当)
早稲田大学 教育・総合科学学術院教授
村上 公一 先生
 本日は、早稲田大学がどういうことを考えているのか、また、早稲田の附属・系属校にはそれぞれどんな特色があるのか、皆さんにお伝えしたいと思います。
 早稲田大学は1882年創立。15年後の2032年には150周年を迎えます。それに向けた中長期計画として、2012年に策定したのが「Waseda Vision 150」です。
 「150周年を迎えたとき、早稲田大学はどうなっていたいのか、どういう大学になっているべきなのか」を徹底的に議論し、「世界に貢献する高い志を持った学生がキャンパスに溢れていること」「世界の平和と人類の幸福の実現に貢献する研究がしっかりと行われていること」「グローバルリーダーとして社会を支える卒業生が世界中にいること」「アジアの大学のモデルとなる進化する大学になっていること」の四つのビジョンをまとめました。
 本日お集りの皆さんのお子さまが、受験をして中学に入り、高校を経て、大学で4年間を過ごすころ、早稲田大学はどうなっているのか。「Waseda Vision 150」による計画と、その進捗状況から、10年先、15年先の早稲田大学を紹介したいと思います。
 ビジョンを実現するために、具体的な数値目標も設定しています。まず、学部生を現在の4万4000人から3万5000人に減らし、大学院生を9400人から1万5000人に増やします。今年度の大学入試では、合格者数を2000人減らしたことがクローズアップされましたが、これは改革上当然の成り行きでもあります。一方で、教員、留学生、海外派遣学生の数は増加させます。
 目指すのは、世界中の優れた教育・研究にかかわる人材が自由に往来する場としての早稲田。もちろん、グローバルリーダーの育成に向けた授業改革への取り組みも進めています。
 すでに実現している例が、2013年に設置した教育機関「グローバルエデュケーションセンター」です。どの学部を選んでも学ぶ基盤教育(アカデミックライティングや英語、統計など)に加え、国際教育やボランティア教育、キャリア教育、リーダーシップ教育などこれからの時代に不可欠とされる科目を展開しています。
 さらに、2014年には大学へのアクセスが良い中野に、国内屈指となる規模の国際学生寮をオープンしました。寮室は原則4人1ユニット。特徴的なのは、各個室とは別に、共有スペースとして4人で利用するリビングを併設している点です。共有スペースで過ごすためのルールづくりがコミュニケーションの第一歩になることを想定しています。
村上 公一 先生
 2014年には、高等教育の国際競争力向上を目的に、世界レベルの教育研究を行う文部科学省の「スーパーグローバル大学」に選定されました。特に、本校が掲げる「Waseda Ocean構想 ~開放性、流動性、多様性を持つ教育研究ネットワークの構築~」は、世界大学ランキングでトップ100を目指す力のある、世界レベルの教育研究を行う大学としての「トップ型(タイプA)」に採択され、グローバル化を進めるうえでの追い風になっています。
 世界ランキングにおいては、2023年までに、本学がカバーする25の研究分野のうち18分野で100位以内を目指しています。
 毎年9月に公表されるQS(イギリスの大学評価機関・Quacquarelli Symondsによる世界の大学ランキング)では、現在の総合評価は203位となっている本学ですが、人文科学、社会科学、自然科学、工学、生命科学・医学の5分野のうち、人文科学では45位、社会科学は59位と、東大・京大に次ぐ評価を得ています。自然科学、工学もそれぞれ102位、105位となっており、成果を感じています。
 現在、研究者たちは国境を越えたネットワークを構築して研究を進めています。そのときに、早稲田大学が常にそのネットワークに入っていることが大切なのです。世界の中でハブの一つとなれる大学を目指し、今後も改革を進めていきたいと思います。
 各附属・系属校の取り組みについては、この後の講演に委ねることにしますが、早稲田大学の一貫教育の特徴は、その〝多様性〟にあるといえるでしょう。早稲田中・高のように大学キャンパスと隣接する立地の学校もあれば、早稲田摂陵や早稲田佐賀、早稲田渋谷シンガポール校のように新幹線や飛行機を使うほど距離が離れている遠方の学校もあります。男子校か共学校か、歴史の長さ、学生寮の有無など、特徴もさまざまです。いずれも高大連携の取り組みを進めてきましたが、卒業後の進路も「ほぼ全員が早稲田大学に進学する」「他大学に進学する生徒も多い」と違いがあります。
 高大連携として、今後考えていかなければいけないのは、早稲田大学に進学する生徒に対する「高大連携授業の更なる充実」に加え、「他大学に進学する生徒との連携をどのように深めていくか」です。また、今年度から、附属・系属校の教員を集めての研修を始めました。指導方法や保護者との連携、心に問題を抱える生徒のケアなどについて、情報の共有を図りました。まだ手探りの部分は多いものの、今後は定期的に行いたいと思っています。さらに、部活動や、研究発表会など生徒間の交流の場を増やすことも検討しています。