デジタライゼーション時代を生き抜く子どもたちに必要な力とは? 読解力は学びの基礎、生きるチカラの出発点 日常の中で体験や家族の会話を大切に

2019年12月に発表されたPISA(学習到達度調査)の結果報告によれば、日本の子どもたちの「読解力」は前回調査をさらに下回る世界15位。読解力不足は以前から指摘されていましたが、デジタライゼーション時代が進み、言語環境が大きく変わるなか、ますますその危機感は強まっています。読解力も含め、未来を生きる子どもたちに必要なものは何か。早くから子どもたちの読解力不足に警鐘を鳴らしてきた国立情報学研究所 社会共有知研究センター長の新井紀子教授と、SAPIX YOZEMI GROUP共同代表の髙宮敏郎さんに語り合っていただきました。

算数・数学が得意でも
読解力不足が盲点になり得る

髙宮 新井先生が進めてこられた「ロボットは東大に入れるか」(以下「東ロボくん」)プロジェクトは、AIに大学入試問題を解かせることで、AIの可能性を探ると同時に、「AIは文の意味が理解できない」という限界を浮き彫りにしたプロジェクトでした。その過程で、実は子どもたちも文をきちんと読めていないことがわかりました。そこで開発されたのが、基礎的な読解力を測定するための「リーディングスキルテスト」です。このテストは大きな反響を呼び、関連するフォーラムは回を重ねるごとに盛り上がりを見せています。
 2019年11月に代ゼミタワーで開催されたフォーラムでは、「読解力を高めるためのモデル授業」が実施されました。中学生対象の数学の教材を使った授業で、私も見学させていただきましたが、この授業にはどのような狙いがあったのでしょうか。

新井 算数や数学で「読解力」の授業?と驚かれた人もいたようですね。しかも、今回参加した中学生は、学校も学年もまちまち。数学が得意なお子さんも、そうでないお子さんもいました。
 ただ、計算や式の扱いが得意だけれども、算数や数学の文章題や教科書をどう読めばいいか、とまどっている生徒は少なくありません。今回は、数学の文章を正確に読む、ということに焦点を当てて授業をしました。

髙宮 先生が子どもたちに「999は大きい数か」と問いかけると、何人かは「大きい」と答えていました。別の数と比較して「大きい」のではなく、自分の常識で判断して「999は大きい」と答えていたようで、ちょっと驚きました。

新井 最初に三つの文を挙げ、どれが命題であるか選んでもらいました。命題とは真偽がはっきりする文です。
 「①999は大きい数である」「②999より100は大きい数である」「③999より1000は大きい数である」の三つです。語彙はほぼ同じ。けれども、「①999は大きい数である」だけは、真偽を客観的に判定できません。
 「②999より100は大きい数である」はどうでしょう。これは偽な文です。真偽がはっきりするので命題です。でも、間違っているから命題ではない、と思い込む生徒もいました。定義とは異なる「マイルール」を持ち出してしまう。数学の教科書では正しい文しか目にしていないので、よけいに混乱したのでしょう。というわけで正解は②と③。「真偽が明確であること」と「真であること」の違いを正確に読解させることが、この最初の問いの狙いでした。



算数と数学は世界も言葉も違う
学びのステージに合わせて
柔軟に物の見方を変えていくべき

新井 中学生で数学に苦手意識を持つお子さんは少なくないようです。一方で、数学が得意だと思っているお子さんでも、自分は計算が得意だから数学ができると勘違いしているケースもあります。そういうところを、まずほぐしてあげようと思いました。小学生の高学年から中学・高校生は意外に保守的で、自分のいつものやり方に固執します。「別の考え方をしてみよう」と言っても、簡単に正解を導き出せる方法を一つだけ知りたがります。そういう価値観を、最初に壊さなくてはいけません。

髙宮 高校の先生方とお話をしていると、「生徒たちは高校受験で通った塾のやり方を引きずっているので、それを壊したい」と言われます。やはりステージが変わるごとに、それまでのやり方を見直したり、組み立て直したりすることが必要なのですね。

新井 数学は小学校で学んだ算数や計算の延長線上にあるものではなく、科学の言葉として新たに学ぶものだと意識させることが必要です。言葉の問題としてとらえることで、数学への苦手意識が分解され、考えて解くようになっていくのではないでしょうか。