スマートフォンやタブレットが
家族団らんや読書による
読解力向上の機会を奪っていないか

髙宮 文章をきちんと読めない原因の一つに、日本語表現の時代的な変化があるのではないかと思います。原稿を書く機会があって若いスタッフに見せると、「文が長い」とよく言われます。今、若い人は読点を付けないそうです。その代わりに文が短い。それが当たり前になっています。

新井 最近、東京地裁に招かれて判事向けに講演をしました。雑談をしていたとき、判事さんに「判決文はもっと短く読みやすくできないものか」と伺ったところ、「短くしたい気持ちは山々ですが、内容が複雑なのです」というお答えでした。債権の取り立てにしても離婚にしても、もめている事象が複雑なわけです。その複雑な事象を誰も誤解しないように表現しようとすると、複雑な文章にならざるを得ないということなのですね。

髙宮 特にインターネット媒体が普及してから、全体を読まずに、ワンフレーズだけを切り取って批判するという風潮があります。子どもたちがそういう文に慣れてきていることも、読解力に影響しているような気がします。先生は、子どもたちがスマホやタブレットを使うことについて、どうお考えですか。

新井 実は先ほどの講演会のとき、ある判事さんに「子どもが文を読めないが、どうしたらいいか」と聞かれました。私は「金庫を買ってみてはどうでしょう」とアドバイスしました。夕方になったらお母さんもお父さんも子どもたちも、スマホとタブレットを金庫に入れるのです。金庫は翌朝開けると決めておき、それまでは家族全員がスマホなしの生活を送る。そうすれば、夕ご飯の間は家族で話をせざるを得ません。夕ご飯が終わってもYouTubeは見られませんから、「一緒に新聞か本でも読もうか」ということになります。スマホやタブレットから少し離れるだけで、子どもの読む力はまったく違ってきます。

髙宮 パソコンやタブレットを使えばいろいろなことがインプットできますが、本を読んでインプットするのとは質的にだいぶ違いますよね。読むことは大事だと思います。

新井 パソコンで何かを調べさせたいのであれば、キーボードが打てるようになってから使わせればいいと思います。ローマ字入力ができるようになってから、家族で共有するパソコンを一台置き、そこにブロッカー系のソフトを入れて、学校の宿題をしたり、調べもの学習をしたりする。そういう使い方をすればいいのではないでしょうか。



幼少期は主体的に五感を鍛え
「感覚的な気づき」を養ってほしい

新井 ネット社会の影響もあるのかもしれませんが、最近の子どもたちは五感のうち視覚ばかり強化されているように思います。インターネットでは画像がふんだんに目に飛び込んで来るので視覚は鍛えられていますが、そのほかの感覚がバランス良く育っていないような気がします。触ったり、匂いを嗅いだり、味をみたりといったことでの気づきを、もっと大切にしてほしいと思います。

髙宮 たとえば、YouTubeで温泉の映像を見てわかった気になっても、実際に行ってみると熱かったり硫黄臭かったりと、感覚で感じる部分があるわけです。そこを大事にしてほしいということですね。同じ「暑い」にしても、日差しが強くてひりひりする暑さなのか、湿度が高いからムシムシする暑さなのか、そういう違いを肌で感じることは大切ですね。

新井 最近は、体調が悪くても自分で気づかない子がけっこういます。たとえば、部屋に暖房が入っているのに、コートを着たまま汗をだらだら流している子がいます。こちらが「温度を下げる?」とか「脱いだら?」と言わない限り、何もしない。我慢しているというより、自分の状況に気づいていないようなのです。

髙宮 それは高齢者が熱中症になるのと同じですね。

新井 そうです。お腹が減っていないのに何となく食べたり、のどが渇いていないのに何となくいつもちびちび飲んでいたりと、行動にメリハリがない。脳を活性化させるにはメリハリが大事ですが、幼少期にバランス良く五感を鍛えておくことが大切です。

髙宮 親はつい先回りして「寒いからもう一枚着なさい」と言ってしまいますが、本来は自分で気づいて、自分でやるべきことですね。