読解力不足が原因で
子どもたちに将来
不自由な思いをさせたくない

高宮 「読解力を高めるためのモデル授業」は、まさに先生が以前から指摘されていた「教科書が読めていない」こと、それも国語だけでなく数学でも「読めていない」ことがわかる取り組みでした。

新井 かなり以前から、教育現場に立つ多くの先生方は、教科書が読めていないということを実感していました。それなのに、「教科書なんてきちんと読めば誰だって読める」といった根拠のない主張があって、子どもたちが教科書を読めていないことをカミングアウトしにくい状況があったと思います。

高宮 「読めていない」ということが問題にならず、そのまま何の対応もなされなければ、子どもたちは先々、大変な思いをすることになります。

新井 おっしゃるとおりです。たとえば、何か困っていることがあるとします。家族のことや学校のことで困っているときに、読解力がなければ、どこに相談に行けばいいのか、インターネットで検索しても見つけることができません。仮に見つけて窓口に行けたとしても、困っていることを説明する能力がなければ、相談に乗ってもらうこともできません。こうした例を挙げるまでもなく、読む力がないと、生きていくうえでさまざまな壁にぶつかり、不自由な思いをすることになります。



「数学の言葉」で表される
サイエンスのリテラシーは
理系・文系問わず必須に

髙宮 「東ロボくん」プロジェクトでは英語について当初、AIは状況理解ができないので会話文や長文は難しいということでした。しかし、2019年11月、NTTが「東ロボくん」プロジェクトの一環として開発したAIが、センター試験の英語で200点中185点という高得点をマークしました。

新井 英語の成績がアップしてきたのは、主としてデータ量が増えたためです。第二言語として英語を習得する国は日本以外にたくさんありますから、問題のデータは山のようにあって、特に中国からたくさん出てきました。

髙宮 数学についてはどうですか。「東ロボくん」はセンター試験の数学より、東大の二次試験の数学のほうが好成績という傾向がありました。二次試験はピュアな数学問題が出題されますが、センター試験は誘導問題が多くて意味の理解が求められます。AIにとっては、そこが難しいところでしょうか。

新井 人間にとっての難しさとは違うところがありますね。新しい大学共通テストはよけいに難しいと思います。数学では英語と違って、文を正確に読まなくてはいけませんから。

髙宮 私の父は英文学者ですが、小さいときから父に「数学は大事だ、数学をやりなさい」と言われていました。でも、自分が父親の立場になってみると、子どもたちに数学の必要性をどう伝えたらいいのか、悩むところがあります。

新井 数学は大切です。これからは、数理的な理解について苦手意識があると仕事がしにくくなり、活躍の場が狭まってくると思います。
 「リベラルアーツ&サイエンス」とよく言われるように、リベラルアーツを理解していないプログラマーは困りますが、文系の人にサイエンスのリテラシーがないのも問題です。近代科学としてのサイエンスとは、「数学を正当性の説得の上で用いる」分野です。数学を共通言語として用いる分野といってもよいでしょう。物理学などいわゆる理系分野だけでなく、経済学や社会心理学も含みます。
 たとえば何か新しいものをつくるとき、プログラマーに発注する前に、そのプログラムで何を実現したいかという仕様をチームで話し合うとします。そのときに、基本的なリテラシーがないと大きな疎外感を味わうことになります。新しいビジネスを始める前の調査段階では、コストパフォーマンスやユーザー数の伸びなど、いろいろな要素を統計的に見て、分析する必要があります。そのときに、統計学を知らないようでは仕事になりません。これからは、そうした業務がホワイトカラーの仕事の主流になっていくと思います。