様々な体験が
言葉にリアリティを与え
文章理解を助ける

高宮 先生はリーディングスキルをテーマにした講演会などで、「リアリティ」という言葉をよく使われます。たとえば、昔は兄弟が多く、何でも兄弟で分ける生活が当たり前だったので、「分ける」ことのリアリティがあって分数を教えやすかった。でも、今はそうではない。そんなお話を伺ったことがあります。五感も同じで、肌でリアリティを感じることは読解力を高めることにもつながりますね。

新井 まずは書かれていることを正確に読み取る。次いでリアリティをもって意味をイメージし、そこから「こう言っている」と推論する。それが読解の基本的な流れだと考えています。

高宮 子どもにリアリティを伝えるのは難しいことですね。都会に住んでいる子に「田んぼ」と言ってもわからない。実際に見に行くほうがいいのでしょうが、そういうときは「田んぼとは、こういうものだよ」とタブレットで見せることもできます。リアリティを伝えるために、これからは情報機器を上手に使うことも必要ではないでしょうか。

新井 田んぼを知らない子に、タブレットを使って教えるのも一つの方法でしょう。でも、歩く経験はたくさんさせたほうがいいと思います。最近は平らなところしか歩けない子がけっこういます。山道を歩かせると、すぐに転びます。砂浜を歩かせても、すぐに転ぶ。足の裏の感覚が弱くなっているのですね。二足歩行は人間の基本ですから、歩くことはとても大切です。私たちは生活が便利になると、便利になったことは喜びますが、それによって失われたことには目を向けません。便利になって失われたことのなかに、実は大事なものがあるのではないか。そう気づくことが大切だと思います。

高宮 読解力の話で言うと、本当に正確に読み取る力をつけるためには、単に文章を読むトレーニングをするだけではなく、実感を伴った理解ができるように、生活を見直すことも必要だということですね。
 本日は、ありがとうございました。

国立情報学研究所
社会共有知研究センター長
情報社会相関研究系教授

新井 紀子さん

一橋大学法学部および米国イリノイ大学卒業。イリノイ大学大学院数学科博士課程を経て東京工業大学より博士(理学)取得。国立情報学研究所助教授を経て現職。2011年よりAIプロジェクト「ロボットは東大に入れるか」を率いる。16年より読解力を診断する「リーディングスキルテスト」の研究開発を主導。著書に『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』『AIに負けない子どもを育てる』(いずれも東洋経済新報社)など。

SAPIX YOZEMI GROUP
共同代表
(代々木ゼミナール 副理事長)

髙宮 敏郎さん

1997年慶應義塾大学経済学部卒業後、三菱信託銀行(現三菱UFJ信託銀行)入社。2000年、学校法人高宮学園代々木ゼミナール入職。同年9月から米国ペンシルベニア大学に留学して大学経営学を学び、博士(教育学)を取得。2004年12月に帰国後、同学園の財務統括責任者として従事し、2009年から現職。SAPIX小学部、SAPIX中学部、Y-SAPIXなどを運営する株式会社日本入試センター代表取締役副社長などを兼務。