発言することは自ら選択し
目標や手段を具体化すること
それが「セルフマネジメント」

高宮 柳沢先生は東大でもハーバード大学の大学院でも教えていらっしゃいましたが、たとえばハーバード大の学生と、東大生の違いはどんなところにあるとお考えですか。

柳沢 一番の違いは発言量です。自分の〝内側〟から発する言葉の量です。それは100対1くらいの差があり、歴然と違います。自分は何者であるかがわかっていて、それをきちんとマネジメントできているのですね。
 リーダーシップというと、集団を動かすことだと考えられていますが、それだけではありません。集団の中には多様な意見や能力、可能性があり、それらをまとめ上げるのが、外から見えるリーダーシップです。一方、自分のなかの能力、可能性を見極めて、自分の人生を選択していくというセルフマネジメント力、つまり自分の人生に対するリーダーシップもあるのです。

高宮 言い換えれば〝自律〟というものが、リーダーシップには含まれているということですね。

柳沢 自らに対して律する、それはリーダーシップ以外の何物でもありません。中学に入ったときは、誰でも無限の可能性を持っています。みんな、何にでもなれると思う。でも、徐々に自分の得意、不得意がわかってきたり、未知であったものが既知になったりすると、そこに選択が生まれてきます。未知のときには無限の可能性があったのですが、既知になると有限の可能性になるわけです。しかし、今度はそこに具体性が増し、自分の将来の目標やそれを達成するための手段が見えてくる。そうしたプロセスをたどるためには、自分の人生に対するしっかりとしたリーダーシップが必要なのです。



学内・国内・海外を問わず
憧れの人の
「胸を借りる」大切さ

髙宮 私どものグループではハーバード大学で行われるサマープログラムに協賛していて、開成の生徒さんにも参加していただいています。昨年の夏も多くの生徒さんが海外プログラムに参加されたのではありませんか。

柳沢 参加者は年々増え、昨年の夏は70名以上がいろいろなプログラムに参加しました。出かけるのは中2から高2くらいまでですが、問題は日本の学事暦とのずれです。7月の初めからサマースクールに行ったのでは、開成の期末試験が受けられません。でも、サマースクールが開成で受ける教育に匹敵するか凌駕する内容であれば、生徒の成長に利することになります。そういうものであれば〝公欠〟にして、期末試験も工夫して成績がつけられるようにしました。

髙宮 開成高校では2013年から海外大学の合格実績を発表していますね。年度によって数字は上下しますが、合格者は確実に増えていて、それもハーバードのような総合大学から名門のリベラルアーツ系カレッジまでと多彩ですね。

柳沢 ちょうどその頃から、カレッジフェアを開くようになりました。いろいろな大学が説明させてほしいと言って来られるので、まとめて説明会を行うことにしたのです。今は7月と12月の2回開いています。12月は各大学が来て説明をします。7月は海外にいる卒業生が日本に戻って来て話をします。生徒にとっては、先輩の話が一番説得力があるようです。
 中等教育の年代は憧れを持つ世代です。その時期に、自分のロールモデルが目の前に存在してくれることはとても重要なことです。憧れの対象を自分の職業につながるようなところで見つけられれば、一番いいわけです。寮生活で縦の関係を築いているボーディングスクールの良さはそこにあります。日本でいうなら、特に中高一貫の男子校、女子校にそういう良さがあると思います。

髙宮 先ほど先生が指摘されたように、学校は知識を得る以上に、人と関係する力を養う意味で大切だということですね。

柳沢 本校としても、そういう憧れの対象が見つかるようにしています。高校3年生までは先輩がいますが、その先はいませんから、機会を見つけてはOBを招聘しています。カレッジフェアでも卒業後間もないOBに来てもらいますし、「ようこそ先輩」というキャリア教育でも金融、法曹、医療など、多様な分野で活躍しているOBを招き、話をしてもらっています。先輩たちはとても面倒見がいいので、個別にコンタクトを取るといろいろなことを教えてくれます。

髙宮 開成は卒業生のネットワークが幅広いですから、強力なサポートが得られますね。

柳沢 金融開成会、医学開成会、グローバル開成会など、さまざまなOBの会があります。グローバル開成会は海外で仕事をした経験のある人や現在海外に在留する人たちのOB組織で、SNSで質問をすれば世界各地の先輩たちが答えてくれます。