
教頭
家に家風があり、子どもに個性があるように、学校にも校風があります。体も心も大きく成長する大切な6年間を過ごす学校ですから、知名度や進学実績だけでなく、校風を見極めて、ミスマッチのないように進学させたい学校を選んでいただきたい。そのためにも、学園のありのままの姿をお伝えしたいと思います。
本学園は今から87年前に「奈良の大仏さん」で有名な東大寺の境内で生まれました。「働きながら学びたい」という若者の志に応え、東大寺の若い僧が手弁当で教鞭をとった夜間学校が始まりでした。以来、「ささやかでも世の中に貢献する人材を育てたい」という創建の精神が脈々と息づいています。制服はありません。校則もありません、生徒手帳もありません。教員と生徒と保護者のつながりが非常に親密で、とてもアットホームです。「あくせくと戦い抜く」とか「隣の友だちより少しでも良い成績を取る」というような、ぴりぴりした雰囲気はなく「大学進学は大切な人生の節目だが、それが人生の目標であってはならない」と、教員が折に触れて語りかけています。
そのため、授業も大学受験だけに特化しない学究的な雰囲気を大切にしており、どの教師も「子どもたちに学問の扉を開いてやりたい」という気持ちで取り組んでいます。たとえば昨年度の中学1年生の理科・生物分野の授業は1学期で25回。そのうち22回が実験でした。まさに実験に次ぐ実験で、ブタの眼球、ニワトリの首、イカの…と、さまざまなものを解剖します。高校生になると、ノーベル化学賞を受賞した下村脩先生が発見した緑色蛍光発光タンパク質を大腸菌に埋め込んで光らせる、というような高度な実験も行います。中学受験を突破してきた子どもたちは知識こそ豊富ですが、実際の生体組織を触った経験や実感に乏しい。ですからわたしたちは、数字やデータでは図れない「実感」を大切にしています。
わたしは国語の教員です。中国文学を専攻しておりましたので、中学生の漢文の授業では「春眠暁を覚えず…」というような唐詩を「チョンミンブジュエシャオ…」と中国音で歌い上げ唱和させました。このような試みが果たして入試に役立つかというと、役立ちません。けれども詩の美しさをじっくりと味わうには、やはり実際の音に触れるのがいちばんなのです。
放課後になると、多くの子どもたちがクラブ・同好会活動にいそしみます。本校には運動系クラブが11、文化系クラブが14、同好会が20あり、複数の部を掛け持つ生徒がいるため、加入率は100%を超えています。長い受験勉強を通り抜けてきた子どもたちは、体を動かしたくてうずうずしています。入学後はそんな思いを一気に解放し、少年の心を取り戻してやりたい。そんな気持ちで積極的にクラブ活動を勧めています。

本校の特色は「とりとめもないことにこだわり続ける少年」が多いことです。たとえばJRの駅名や歴代天皇の名前をそらんじたり、円周率を100桁すらすらと言ったり…。およそ世の中の役に立たないことをこよなく愛する少年たちがそろっているのです。ですから、実に多種多様な同好会があります。登山同好会、マジック同好会などは普通ですが、MGA同好会とは一体何のことか分かりませんね。社会情勢研究会と世界文化研究会には思想の違いがあるようですし、ロケット同好会は校内でロケット発射実験を繰り返しています。西名阪自動車道にこだわりを見せる道路研究会、ドラえもんをこよなく愛するドラえもん同好会…。こうした風変わりな集団にも活躍の場、居場所を保証する。それが本校の校風を象徴していると思います。
また、修学旅行は学園生活最大のイベントですが、行き先は毎年、生徒の投票で決まります。今年の高校2年生はマレーシア・シンガポールに行き、来年は東北・北海道に行く予定です。かつては「修学旅行に行かない」という選択をした学年もありました。これも自由な校風の一端を示していると思います。
東大寺ゆかりの行事もあります。たとえば関西に春を呼ぶ行事として知られる「お水取り(東大寺二月堂修二会)」。「お松明」の火の粉をかぶりに全国から人が集まるこの行事で、いちばん大きな篭松明の根本を堂上で支えているのは本校の生徒です。また、夏休みには東大寺大仏殿内の授与所で、作務衣姿で働く本校の高校生の姿を見ることもできるでしょう。
東大寺学園の大らかな校風について、駆け足でご紹介しました。