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連載コラム

2009年度の首都圏中学入試を総括する<PART 1> (09/2/25) new!
中学受験の裾野は着実に拡大
実力に見合った志望校選びが浸透
 2009年度の首都圏の中学受験を振り返ると、ひと頃の過熱ぶりから落ち着きを取り戻しつつあるようです。今年度は、一都三県の公立小学校の卒業生数が昨年度より2.6%増加するため、事前の予測では受験者数の増加が見込まれていました。ところが、ふたを開けてみると、2月1日の私立中学受験者数は、前年度比98.1%の41,631人。2年連続で微減傾向が続いたことになります。昨年度は母数(小学校卒業生数)が減ったことが要因でしたが、今年度は母数自体は増加する中での減少です。このため、受験率(公立小学校卒業生数に対する私立中学受験者数の割合)も、過去最高を記録した昨年度より0.7ポイント減の14.1%となり、10年ぶりに前年度を下回りました。

 チャレンジ志向もすっかり影をひそめました。2年前の入試では、偏差値60以上の学校で20%以上も受験者が増加するケースが多発していました。激しい競争を避けるために、昨年度は安定志向が強まりましたが、今年度はさらに手堅い入試になったといえます。自分の実力を見極め、レベルに見合った学校を絞り込んだ出願が浸透したため、と考えられます。ただし、気をつけておきたいのは、受験者数の減少で競争率が低下したからといって、必ずしも入試難易度が緩和されたわけではないということです。同じような実力をもった受験生が合格ラインに集中するため、合格可能性自体は変化しないと考えた方がいいでしょう。

 また、今年度の興味深い特徴として、大学付属の共学校の人気が極めて高かったことがあげられます。とくに早稲田、慶應、MARCH(明治青山学院、立教、中央、法政)などいわゆるブランド大学の付属校でその傾向が顕著に見られました。一般的に、付属校は建物がきれいで設備が整っているなど、ハード面で大きな魅力があり、これまでも一定数の受験生を集めてきましたが、今回はそうした層をはるかに上回る人数が受験したことになります。高校受験では以前から付属校人気が圧倒的に高かったのですが、中学受験でもそれに追従する動きが出始めたわけです。また、MARCHクラスの大学への合格実績を伸ばしてきた中堅私立中学の人気上昇も進行しています。

 このような安定志向や、大学までつながるルートの早期確保といった保守化傾向が強まったのは、2008年9月のリーマンショックに端を発する世界同時不況が最大の要因と考えられます。なぜなら、私立中学受験者が減少する一方で、国公立の中高一貫校を含めた受験者数は45,251人と、6%も伸びているからです。首都圏各地に公立一貫校が続々と誕生し、その存在が広く知られるようになった影響もありますが、不況の中でも、中学受験の裾野は着実に広がっているといえるでしょう。



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■森上展安氏
●プロフィール
株式会社森上教育研究所 代表取締役。1998年「森上教育研究所」を設立、私立中学入試状況の分析と情報提供を中心に、幅広く教育評論活動を行っている。
http://www.morigami.co.jp/