次世代の子育てと教育を考えるシンポジウム

慶應義塾湘南藤沢中・高等部 部長 会田 一雄 先生

会田 一雄 先生
慶應義塾湘南藤沢中・高等部
部長
会田 一雄 先生

 次世代を担う国際教養人の育成と題しまして、私からは、本校の教育への取り組みについてお話ししたいと思います。敷地面積約31万㎡を擁する慶應義塾湘南藤沢キャンパス(SFC)に大学ができたのは、1990年のこと。その2年後の1992年に中等部・高等部が設立されました。本校の最大の特徴は、大学と同じ敷地にあるため、大学のリソースをフルに活用できることだといえます。教室や運動場、食堂といった施設面はもちろん、人的な交流、大学からの講師の派遣や、大学生となった卒業生がクラブ活動の指導に通うといったことも頻繁に行われています。

 さらに、普通部や中等部と大きく異なるのが、中高6年間の一貫教育を行っている点です。湘南藤沢中等部を卒業した後は、原則、全員が湘南藤沢高等部に進学。中等部と高等部は共通の施設、共通の教員で学校を運営しています。男女共学で、その比率はほぼ半々です。また、帰国生の割合がとても高く、中等部では約20%、高等部では約25%が海外での生活体験を持つ生徒です。欧米はもちろん、最近では中国や東南アジアからの帰国生も増えており、少数ですが南米やアフリカの国から帰国した生徒も見受けられます。このように、帰国生やそれに準ずる生徒たちが、一般の生徒と一緒になり、互いに刺激を与えながら学校生活を楽しんでいます。また、1クラスを2人の教師で担当する「2人担任制」を敷いているのも特徴的といえるでしょう。担任は男女で組むこともあれば、日本人とネイティブスピーカーで組むこともあり、生徒は時々の状況に応じて、それぞれの担任にアプローチしています。また、部活や学校行事などは中高合同で行うものが多く、先輩の活躍や進路を、自分の近い将来像として感じているようです。

 教育面では特に語学と情報リテラシーを身に付けさせる教育に力を入れています。英語科の授業は、帰国生が中心のαクラスと一般生のβクラス、二つの習熟度別で行っていますが、ともに週2時間以上は、ネイティブ教員が担当するスピーキングとリスニングの授業となります。ネイティブ教員の出身地は、イギリス、アメリカ、オーストラリアとさまざまで、生徒たちは多彩な英語に触れることが可能です。もちろん、実践的英語力を養成する工夫もしています。多読やネイティブ教員へのインタビュー、英語でのポスター作製、日本の文化を紹介するプレゼンテーションを導入。続く高等部では、ディベートやシェークスピア劇の上演などを取り入れて、英語での表現力アップも目指します。

 また、海外との交流プログラムも充実しており、現在は6カ国10プログラム、そのうちいくつかは中等部生も参加できます。そのほとんどは、現地の家庭にホームステイをしながら、語学研修や異文化体験をするもの。また、留学生が本校生徒の自宅に短期滞在して本校に通うこともあり、生徒たちにとっては身近な国内留学の場となっているようです。さらに、2014年度からは、慶應一貫教育校の4高校の生徒を対象に奨学金を給付して、米国の名門ボーディングスクールに1年間派遣する「慶應義塾一貫教育校派遣留学制度」が導入されました。本校からもすでに数名が選抜されています。

会田 一雄 先生

 その一方で、国際的な場で活躍するために不可欠な情報教育にも力を注いでいます。早い段階で開始すべきとの方針から、中等部では独自科目「情報」の授業で、アプリケーションを用いてのスキル教育とプログラミング教育を展開しています。もちろん、他の教科でも情報スキルを積極的に活用。レポート作成やプレゼンテーションは言うに及ばず、調査やデータ分析、数学ではビッグデータの解析なども行っています。また、道徳やHRでは情報倫理を取り上げることも。さらに、高等部では情報倫理学として、情報に関する法律から、社会的な責任や対人関係に至るまでしっかりと学ばせます。弊害を恐れて、情報機器の使用を制限するのではなく、実際に使わせながら、現実に即した指導を行っていきたいと考えています。

 受験に向けて知識量を求める学びではなく、物事を客観的に観察して考える力を養成したいと考えています。そのためには感性を伸ばす教育も必要です。開校以来続けてきた取り組み「ゆとりの時間」では、教員および外部講師がそれぞれの専門性を生かした約40の講座を開講。1年から5年までの生徒が週2時間履修できます。物事を客観的に観察して考える力と、他者を理解して協調しながら物事に対峙できる力を養成することで、福澤先生の説いた「多事争論」を実現した学びの場にしたいと考えています。