「私学教育の特色と人材育成」

和田 孫博氏・清水 優氏・岩井 一氏・佐脇 洋一郎氏・川東 義武氏


個性豊かな学園生活

和田孫博氏

川東 第一部の講演では灘の理念についてお聞きしましたので、東大寺学園と高槻の教育理念について、ここでお聞かせいただけますか。

清水 本校は、働きながら学びたいという若者のために東大寺の僧侶が境内に開いた夜間学校が起源です。「基礎学力の重視」を第一に、「進取的気力の養成」「豊かな人間性の形成」を通じて次代をリードする真のエリート育成をめざしています。

岩井 本校は創立70年を迎えて「Developing Future Leaders With A Global Mindset」という新しい理念を定めました。卓越した語学力と国際的な視野を持ち、世界で活躍できる次世代リーダー育成を使命としています。

川東 学園生活はいかがですか。

和田 一方的に教えるだけでなく、発表や実験の機会を増やし、生徒が主役になれる授業を工夫しています。文化祭などの行事はもちろん、OBを招く土曜講座の企画や交渉にも生徒自身が取り組むなど、さまざまな場面で自主性を発揮しています。

清水 本校も自主性を大事にしており、たとえば修学旅行の行き先は生徒の投票で決まります。「観賞魚研究会」「ルービックキューブ研究会」「ドラえもん研究会」など、生徒自身が立ち上げた同好会が多いのも特色です。

岩井 私たちは生徒を「高槻ファミリー」と考え、入学直後のオリエンテーション合宿を皮切りに、さまざまな行事を通じて家族的な雰囲気を作っています。この学校で、何十年もつきあえるような、あたたかい仲間をつくってほしい、勉強にきちんと取り組みながらも楽しい学校生活を送ってほしいと願っています。

川東 進路指導の特色や卒業生の進路はいかがでしょうか。

和田 本校は進路指導部がなく、生徒のことをよく理解している担任団の先生が進路指導を行います。医学部志望者が多いなか、最近では海外の大学をめざす生徒も出てきました。大学卒業後にミュージシャンや落語家など、個性的な進路を選ぶ生徒もおり、その活躍を応援しています。

清水 1学年約220名のうち150~170人は理系、そのうち半分は医学部をめざしています。大学は本人の希望を優先しており、「不本意な入学をするぐらいなら、浪人してがんばればいい」という方針のため、浪人生もたくさん出しています(笑)。

岩井 中1から進路指導を始め、東大・京大だけでなく、自分の本当に行きたい大学を探すように指導しています。国立難関10大学に130人の合格をベンチマークにしています。1学年約260人のうち50~60人が医学部志望ですが、卒業生は多方面で活躍しています。

佐脇 多様な進路を実現するためには、在学中から多様な進路を意識することが大事です。OBから話を聞く一方、現場を見る機会をたくさん用意しているのは私立の、特に中高一貫教育の強みだと思います。

リーダーに求められる資質

川東 では、関西の男子私学を代表する3校が考える「時代を引っ張るリーダーの要件」とは何でしょうか?

和田 建学の精神の話につながりますが、自分の力をしっかりわきまえ、やるときは思い切ってやる。ただし常に他者のことを考える。それがいちばん大事だと思って教育しています。また、リーダーとして活躍するためには、答えのない問題にベターな解決方法を導き出す力が必要です。そのため、状況を見抜き、論理的に推論する力の育成にも力を入れています。

清水 学校行事や部活動のなかでリーダーシップが育まれると考えているので、部活動への参加を奨励しています。また文化祭の運営は、予算の管理も含めて、すべて生徒に任せています。失敗もありますが、こういう体験を通して学ぶことは多いと思います。

岩田 リーダーのいちばんの資質は「素直で優しい人間性」ではないでしょうか。水泳が得意な子、走りが得意な子、いろいろな子が輝くように、さまざまな行事を通じて自信をつけてあげたいと思っています。

川東 グローバル教育の取り組みはいかがでしょうか。

和田 この分野に関しては、教員よりも生徒のほうがはるかに進んでいます。新しいメディアを使いこなして、さまざまなことにチャレンジするなかで、自然とグローバルな人材が育つと楽観的に考えています。

清水 本校でも、地理オリンピックや化学オリンピックなどに参加する生徒が増えています。また、グローバル化した世界では、宗教や哲学などの大きな問題に対して、自分の考えをはっきり語れなければなりません。そのために「国語」をとても大切にしており、理系の生徒が多い学校ですが、国語の授業は週6時間設定しています。

岩井 これからは何をするにも英語が必要です。本校では、オールイングリッシュの授業を始めたり、中3で学年の半分の生徒に英検2級を取らせたり、さまざまな取り組みをスタートしており、今後は海外の大学への進学も視野に入れた指導を強化する予定です。

「中学で伸びる子」の条件

パネルディスカッション

川東 入学後に伸びる子の特徴はありますか? また、どのような生徒に入学してもらいたいとお考えでしょうか。

和田 「素直な生徒」は伸びますね。小学校までの初等教育と、中学・高校の教育は似て非なるもの。たとえば、算数と数学もまったく体系が違う学問です。ですから、算数が得意だった子も、授業をいい加減に聞いていると、あっという間に遅れてしまいます。入学後は頭をまっさらにして素直に教育を受ける姿勢が大事です。

清水 興味・関心の強い子、また、一つのことに一心不乱に取り組める子を求めています。集団の中で少し浮いているような子ほど、後でぐっと伸びるようにも思います。大人の理解を超えている少年を、保護者の方は粘り強く見守ってあげてほしいと思います。

岩井 わたしが考える「伸びる子」は「高槻が好きな子」です。「高槻に入学してよかった」と思ってくれる子はどんどん伸びていく。わたしはそう思っています。

川東 では最後に、受験生へ、そして保護者へのメッセージをお願いします。

和田 しっかり復習して、できなかった問題を克服してください。わたしは、これを「地に足をつけた勉強」と呼んでいます。できなかった問題は復習して「学習ノート」の形で残し、通学中にぱらぱら見るような工夫をするのがお勧めです。お父さん、お母さんが「本当に大丈夫?」なんて聞くと、子どもまで不安になります。息子さんを信じてあげてください。

清水 大切なのは基礎・基本です。さらに、机上の勉強以外にもアンテナを張ってほしいと思います。漢字の問題で「前頭」「名代の老舗」といった問題を出したことがあります。これらのことばはあまり問題集には出てきませんが、日常の古いことばなどにアンテナを張っていれば、わかる可能性が高いと思います。そして、保護者の方、とりわけお母さんにはでんと構えていただきたいですね。親の不安な表情を、子どもたちは敏感に察知します。ぐっと我慢して、笑顔でごはんを作ってあげてください。

岩井 入試では、話題性のある問題をよく取り入れています。ぜひ新聞を読んでおいてほしいですね。高槻は「Mission」「Vision」「Passion」を大事にして、日本一の学校をめざしています。学校をよく研究していたいだて「高槻が好きや!」という諸君の入学を期待しています。

佐脇 サピックスでは、勉強の仕方を学んでもらうことを一つのテーマにしています。そのために国語を非常に重視していて、記述力・表現力を鍛えています。受験勉強中で、中学校に進学してから困らない勉強の仕方を学んでもらいたいと思っています。

川東 各学校が、リーダーの育成やグローバル化に一生懸命に取り組んでいることがわかりました。お子さんが描いている夢が、私学で実現できうることを心より願っています。本日はありがとうございました。