中学受験と子育てを考えるフォーラム title img

パネルディスカッション

モデレーター、パネリスト

自主性の尊重と自由放任はイコールではない!

パネルディスカッション森上 広野先生はこの両校の教育について、どのような点を評価されていますか。

広野 昨今のような先行き不透明な社会情勢の中で、何が求められるのかを考えた時、やはり自立できる人材ということが大きなテーマになると思います。それが将来の成長につながるのではないか。その意味で両校の自主性を育む教育に大いに注目しています。

森上 日頃、受験生の保護者と接していらっしゃって、両校の教育についてよく質問されることは何でしょうか。

広野 最も多いのは、自主性を尊重するあまり、自由放任になり、面倒見がよくないのではないかということです。アカデミックな授業が展開される反面、基礎力養成がおろそかになっているのではないか、数学の公式も教えないのではないか(笑)という印象もあります。

片岡 それは完全な誤解で、基礎力の養成には十分に配慮しています。もちろん、公式も教えます(笑)。むしろ数学では代数と幾何に分化させた授業を実施し、当たり前と思われているような定理もすべて、その成り立ちから解説していきます。また、学力の定着を図るために、小テストも頻繁に行い、成績が悪かった生徒は昼休みに呼んで追テストや個別指導、それでも結果が出ない場合は早朝や放課後に補講なども実施しています。そのため、教員の多くが昼休みも満足にとれていないのが実情です。

山﨑 面倒見の良さ、イコール生徒を管理することではないと、私は考えています。本校では、様々な学習活動の企画・運営を生徒主導で実施していますが、当然、うまくいかないケースも出てきます。そんな時、「こうしたらどうか」と教員がリードするのではなく、あくまでも悩みを聞き、相談に応じるといったスタンスで生徒に関わっていきます。当然、大変な時間がかかります。その意味では、他校以上に教員が生徒と関わる時間は長いと自負しています。

志望校の最終決断は本人が下すべきである

広野 両校とも比較的浪人率が高いわけですが、志望校選びに関する指導についてはどのような方針を持っていらっしゃいますか。

片岡 本校では「在卒懇」という行事において、第一線で活躍しているOBの話を聞くとともに、高1の夏休みには「私の将来」と題する作文を書かせています。それによって、将来の職業を念頭に置いた上で大学を選ぶように指導しています。高3では本校教員が問題を作成する校内模試を実施。数十年の蓄積がありますから、この成績が合格可能度を測る有効な資料になっています。けれども、たとえ多少届かない成績だと分かっていても、アカデミックな授業を通して、学問の面白さに目覚めた生徒たちは、なかなか志望校を変更しようとはしません。教員側も、その生徒が学びたい分野は他の大学でも可能だという情報は提供しますが、最終判断は本人であり、志望校変更を指導することは一切ありません。

パネルディスカッション山﨑 7年前に進路情報部を発足させ、担任と協力して進路指導を行う体制にしました。また、来年度、高3で幅広い科目選択が可能なカリキュラムに改定する予定で、従来以上に大学受験を視野にいれた教育を強化しています。とはいえ、本校の生徒も志望校を変更することは少なく、1年目は単願もめずらしくありません。そこには生徒だけの意向ではなく、保護者の圧力も感じられます(笑)。ただし、一言申し上げておきたいのは、中学受験は生徒と親が二人三脚で乗り切るのもいいと思いますが、中高6年間では徐々に、いい意味で子どもへのあきらめを持ってほしいのです。大学受験まで手取り足取りでやっていたら、その子は伸びません。これからの6年間は親子関係を変えていく時期でもあると考えています。

広野 ブランドにこだわりすぎるのは考えものですが、やりたい学問分野が決まっている場合、特定の大学に進学しないと研究できないこともありえます。両校とも、生徒本人の前向きな姿勢を大切にし、悔いのないようにさせたいという強い思いが感じられますね。

記述式の答案を丁寧に時間をかけて採点

広野 両校の入試問題は記述式が多いのですが、字が下手な答案の場合、どこまで判読してくださるのか不安もあります。また、算数では解法のプロセスを記入させる欄が設けられています。途中式はどの程度重視されているのでしょうか。

パネルディスカッション片岡 字が丁寧でないからという理由で読まないことは絶対にありません(笑)。受験生の立場に立って、時間がかかってもしっかり読みます。また、社会では現実の問題についての論述問題をよく出します。小学校の授業で十分に教えられていることではないことは理解していますが、テレビのニュースを見たり、日常の生活をおくる中で、人権感覚を磨き、不平等な出来事への疑問を持ってほしい。その素地を養ってほしいと考えていることから、そうした問題を出しています。それから、算数では実際に、答えが間違っていても、途中までの考え方のプロセスがあっていれば、部分点が与えられますから、ぜひ分かったところまででいいから書くようにしてください。

山﨑 入試問題にはそれぞれの学校のメッセージが込められています。本校が字数制限のない自由記述問題を重視しているのは、本当の理解力と表現力を問いたいと考えているからです。私たちはその答案をきわめて時間をかけて丁寧に採点していきます。算数も自由記述式です。きちんとした式になっていなくても、計算をした跡があれば、その計算はどういう意図で行ったものか、類推するといったところまで踏み込んで採点し、部分点を与えます。ですから、私たちへの手がかりをなくさないためにも、すべて消さないで残しておいてほしいと思います。

パネルディスカッション広野 なるほど。両校とも、単なる現状の学力だけでなく、今後伸びる発想力を備えているのか、可能性をも重視した採点をしていらっしゃるわけですね。自由放任といわれる両校ですが、そうした採点の姿勢を見ただけでも、子どもに大人として接し、手厚く見守っていこうという思いが感じられるところです。