中学受験と子育てを考えるフォーラム title img

桐朋中 桐朋中学校校長 片岡 哲郎氏

自主性を育む男子校/桐朋中の教育の特色

自由を愛し、自主性を尊重する校風

桐朋中 桐朋中学校校長 片岡 哲郎氏 本校を語る上で欠かせないキーワードが「自由を愛し、自主性を尊重する」校風です。戦後、新たなスタートを切った桐朋は、東京文理科大学学長だった務台理作を校長に迎えました。務台は教育基本法の原案作成者の一人であり、同法第1・2条に基づく「自主・敬愛・勤労」を教育目標に掲げました。つまり、新しい民主主義への移行を高らかに謳ったわけです。

本校では、この自由を人間らしく生きるために最も大切にすべきものだと考えています。自由とは何か。誰にも寄り掛からずに自分の足で立つ力であり、物事を自分なりに判断し、その判断の上に立って新しく何かを選び取る力です。その力を育むために、日々の教育活動のすべての場面で、生徒一人ひとりの自主性を尊重し、人格の完成をめざしていくという姿勢を徹底させています。

また、多彩な学校行事を通して生徒の人間性を育てるという考え方も浸透しています。遠足、林間学校では生徒による委員会が組織され、企画・運営を任せています。その1つの頂点といえるのが桐朋祭実行委員会です。毎回、各界の著名人が講演に訪れていますが、その折衝も生徒自身が行っています。勉強だけでなく、クラブ活動にせよ委員会活動にせよ、様々な活動に自発的、積極的に参加することが格好いいことだという意識が、生徒間に醸成されている点も本校の誇りとするところです。様々な活動を通して、校内に活力が生まれ、その中でお互いの個性を磨き合おうとする気質が根づいています。

学問の香りのするアカデミックな授業

第二のキーワードは「アカデミックな香りのする授業」で、各教科の専門性を有するスタッフの情熱と創意工夫によって練り上げられた授業を展開しています。授業の80%以上を専任教員が担当しているのも、長期的な視点でカリキュラムを検討し、水準を維持したいという意欲のあらわれといえます。

桐朋中 桐朋中学校校長 片岡 哲郎氏 授業の大きな特色は、単に大学入試のハードルを越えることを目的としてはいないことです。たとえば数学なら、正解かどうかよりも、美しい解答になっているかという視点での考察を求めます。それによって、将来の学問につながる奥深さを感じとってほしいからです。現在学んでいることが、将来の学問や職業とも結びついていることが体得できれば、自分の手でその道を切り拓いていこうという意識も高まるはずです。それが桐朋生のスタンダードだと考えています。

類まれな教育環境も大きな特色です。校地には四季折々様々な表情を見せる雑木林があり、生徒たちの心を和ませていますし、広大な土のグラウンドも有しています。この環境は、生徒たちの健全な発達を保障する上で不可欠な要素だと思っています。

じっくりと時間をかけて深く掘り下げる教育を展開

桐朋中 桐朋中学校校長 片岡 哲郎氏 本校では、効率を重視していたずらに進度を早めることはなく、多くの自主教材を使用して、むしろじっくり時間をかけて、内容を深く掘り下げる教育を展開しています。

たとえば国語の授業では、中1で宮沢賢治の「グスコーブドリの伝記」、中2で森鴎外の「高瀬舟」などを読みます。検定教科書の他に、実際に文庫本を手に取らせながら、深く読み込んでいきます。そのため、1作品に10時間以上をかけ、班ごとの討論とその成果発表も組み入れています。数学や理科でも、担当者は様々な問いかけを通じて、内容理解を深めよう、広げようと働きかけます。短時間で正解にたどりつくことだけが重要なわけではありません。こうした授業を通して、1つの問題を多角的に見る視点、異なる解決策を柔軟に発見できる感性を養いたい。私たちはそう考えているのです。

さらに、社会に対して開かれた目を養う教育にも力を注いでいます。中3では、東京地方裁判所の刑事裁判を傍聴する「社会科見学」を40年以上実施。高1・2では、OBを招いて、現在の仕事の内容や高校時代の思い出などを聞く「在卒懇」も開催しています。