中学受験と子育てを考えるフォーラム title img

武蔵中 武蔵中学校校長 山﨑 元男氏

自主性を育む男子校/武蔵中の教育の特色

旧制7年制高校以来の「アカデミズム」の校風を堅持

武蔵中 武蔵中学校校長 山﨑 元男氏 本校は1922年、日本で最初の7年制高校として出発しました。戦後の学制改革で、他の多くの旧制高校が大学に組織替えした中で、本校だけが新制高校に移行しました。日本で唯一の旧制高校の流れをくむ高校といえるわけです。

当初は、旧制高校の教員がそのまま教壇に立つケースが多く、自ずと「アカデミズム」の校風が形成されていきました。私が本校に赴任した時、先輩方からいわれたことは「まず君自身が勉強しなさい。自分で勉強して面白いと思ったものを生徒に教えるようにしなさい。それが生徒に伝わる最大の条件だ」ということでした。現在でもそうしたアカデミズムの精神は脈々と引き継がれています。

たとえば、高1では総合講座を開講しています。今年度は「みえないものをみる~電子顕微鏡やハイスピードカメラを用いて」「古文書を読む会」「布と糸のアート」「株式入門」など25講座を設けています。「国境の島『対馬』を体験」「八王子水田稲作実習」など、体験型の講座も豊富です。

中3では、第二外国語(ドイツ語、フランス語、中国語、韓国語)が選択必修になっています。本校の三理想には「東西文化の融合」「世界に雄飛」があります。東西はもちろん、南北も含めた融合、さらにはアジアの中の日本という視点を獲得するためには、日本語、英語に加えて、もう1つの言語を学び、3点の機軸から偏りなく世界を見ることが大切で、それが将来の世界への雄飛につながります。そんな思いで第二外国語の開講を堅持しています。

「自調自考」の姿勢を持つ人材を育成する

武蔵中 武蔵中学校校長 山﨑 元男氏 本校の三理想には、もう1つ「自ら調べ自ら考える力ある人物」というものがあります。

最近の生徒には、すぐに答えをもとめたがる傾向が顕著です。「これは答えが出ない問題かもしれないよ」といっているにも関わらず、「それで結局答えは何ですか」と質問してくることもあります(笑)。けれども、たとえば数学の難問を、長い時間をかけ苦労して自分で解ききれば絶対に忘れませんが、それを教員に解説されたのでは、どんなに分かりやすい解説であっても、すぐに忘れてしまいます。自分で調べ、考え抜こうとする思考回路への転換に力を注いでいることは、本校の最大の特色です。

もちろん、「自調自考」の姿勢を養うには時間も手間もかかります。正直なところ、最初から答えを教えた方がはるかに楽だとも感じます。けれども、その姿勢こそが社会に進出してから最も求められる能力でもあると、私たちは確信しています。そこで、6年間のカリキュラムを再構築し、学年ごとの教育の柱を明確にすることによって、「自調自考」の姿勢を体系的に養うようにしています。

6年間のカリキュラム体系を再構築

具体的に各学年ごとの教育の柱を紹介しましょう。

中1では夏に赤城山で山上学校を実施しています。事前に約10名の生徒でグループを編成。現地集合ですから、最寄りの前橋駅までのルートや、当日の行程は生徒たち自身が調べ、計画を立てます。教員は生徒たちの一番後ろから付き添うだけですが、中には道に迷うグループも出てきます。間違った道を一緒に歩くのは教員にとってつらいことですが(笑)、地図と磁石を頼りに、自分たちで解決を図るまで、教員は無言を貫きます。

武蔵中 武蔵中学校校長 山﨑 元男氏 中2では、勝浦で海浜学校を実施。この時だけは安全面に配慮して規律を重んじ、バディと呼ばれる2人組で、相手の所在・無事を確認させるようにしています。能力別の遠泳のほか、船が転覆した場合でも対応できるように、日本の学校で初めて着衣泳も取り入れています。

中3では先述した第二外国語、高1では総合講座を履修します。

高2では、キャリアガイダンスを重視。OBを招いて、現在の仕事の内容や、大学・高校時代の体験談を語ってもらう機会を設けています。自分の将来像を考えさせることによって、志望大学・学部を明確にさせることが目標です。

高3では特別な教育は用意していません。それまでに身につけたことを生かして、それぞれの目標に向かって「自調自考」する学年だと捉えています。

中高6年間は思春期の大切な時期です。大学進学は重要なテーマではありますが、1つの階梯にすぎず、それ以上に重要なのは、豊かな人生の基盤を作ることだと考えており、それに寄与することを第一義とする学校であり続けたいと思っています。