朝日小学生新聞特別増刊号 WILLナビFRONTIER

interview サピックス小学部 広野雅明さん 家庭の一体化が 中学受験で勝つ秘訣。

 これから中学受験準備をスタートさせる小学生の保護者に向けて、中学受験とは何なのか、保護者はどのような役割を果たすべきなのか。教育ジャーナリストの杉山由美子さんが、サピックス小学部の広野雅明さんにインタビューしました。

中学受験に向けての学びを通して幅広い教養が身につく

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杉山 私は、中学受験に向けての学びは、単なる知識の獲得や、解法テクニックの向上だけでなく、集中力、考える力、書く力など、様々な学力が身につく場だと考えています。広野先生はとくにどのような力の啓発を重視されていますか。

広野 最も大切なのは、目標に向かって一生懸命頑張る姿勢ですね。目標がないまま勉強しても、なかなか学力は身につきません。人間は明確な目標があると、勉強のモチベーションも自ずと高まるものなのです。中学入試は通過点とはいえ、1つの大きな目標になりえます。そのゴールから逆算して、今どの科目をどの程度勉強する必要があるのか、きちんとした方針を定めることもできるわけです。加えて、教養を高めることも重視しています。意外に感じられるかもしれませんが、中学入試では多様な知識を体系的に勉強することができます。算数では、順序立てて考えて結論を導き出す論理的思考力が鍛えられますし、国語では与えられた文章を客観的に読み解く力、自分の意見を分かりやすく表現する力が養われます。そうした基礎教養力は、将来、大学で高度な研究を行う際にも、社会で働く上においても、ベースとなる力であり、必ず役立つはずです。

杉山 確かに、近年の中学入試問題は、重箱の隅をつつくような知識問題が減り、幅広い教養を問う出題が増えている印象があります。

広野 教科書や問題集に掲載されている知識を単純に問う入試問題は急減しています。「社会の一員として生きるために必要なことを問う」という視点で問題が作成されるようになっており、とてもいい傾向だと思っています。

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お互いに認め合いながら学ぶ雰囲気づくりを重視

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杉山 最近の小学校では徒競走を廃止したり、能力別に走らせたり、できるだけ差を目立たせないようにする風潮が見られます。対してサピックスでは、むしろ子ども同士が競い合って学ぶことを大切にしているようですが、この狙いは何ですか。

広野 学力が伸びる過程において、競い合う仲間の存在はきわめて貴重です。たとえば、分厚い問題集を自宅で独力で仕上げようとすると、途中で挫折する可能性が大きいでしょう。けれども、周りの友人たちが一生懸命にこなそうとしている姿に接すれば、それが刺激になって、自分も頑張ろうという意欲がわいてくるのです。

杉山 しかも、教室の様子を拝見すると、子ども同士とても仲が良くて、ライバルを蹴落とそうという感覚はなく、競争を楽しんでいる感じです。

広野 それはお互いのすごさを認め合う関係が築かれているからです。4教科すべてが得意な子どもも、全部が苦手な子どももいません。トップクラスの子どもでも、必ず苦手な分野はありますし、中堅クラスでも特定教科に強い子どもがいます。小学校高学年にもなると、そうしたことを十分に認識するようになっており、多様な物差しで相手を評価するようになります。私たちは、そうしたお互いに認め合いながら学ぶ雰囲気づくりを心がけています。

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中学受験を契機に家族が一体化することは貴重な経験になる

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杉山 中学受験において、家庭が果たすべき役割は何でしょうか。

広野 近年、中高一貫校の新設が相次ぎ、選択肢が広がったこともあって、情報収集も含めて、家庭が一体となってサポートする必要性が高まっています。私は、中学受験をきっかけとして、家族そろって1つの目標に向かって支え合うこと自体が、貴重な経験になると考えています。当然、親子でコミュニケーションを図る機会も増えるでしょうから、円満な家族関係が築けるはずです。

杉山 問題は、とくに母親に多い気がしますが、テストの成績に一喜一憂してしまうことです。クラスが1つ下がると極端にナーバスになってしまうケースも見られます。

広野 意外に子どもの方は気にしていないものなのですが……。それに、たまたまテストで不調で、下のクラスに移った場合、ゆっくり授業が進む関係で、基本的な内容を再確認できることもあり、自信を取り戻してすぐに以前のクラスに復帰できることも少なくありません。そういうチャンスでもあると前向きに捉えてほしいと思います。

杉山 その点を促すために、保護者にアドバイスされていることはありますか。

広野 結果だけを見るのではなく、それに至った過程をチェックすることが重要です。なぜテストの成績が下がったのか、様々な原因がありえます。成績結果だけを見て怒るのではなく、原因と改善策を子どもと一緒に考えて、それを納得させるようにすることです。納得すれば子どもは自然と自発的に勉強するようになるものです。

杉山 成績が下がる要因としては、どのようなものが多いのですか。

広野 インフルエンザで1週間勉強ができなかった、運動会の練習で疲れていた、苦手な問題ばかりが出題されたなど、様々な要因があります。それらは分かりやすい要因なわけですが、家庭では要因がつかめない場合もあるかもしれません。すると、とにかく勉強量を増やそうとするわけですが、そんなに単純なものでもありません。実は、伸び悩んでいる子どもは、難問に時間を費やしすぎて、他の勉強がおろそかになっているケースが少なくないのです。けれども、中学入試では満点は要求されていません。難関校でも合格ラインは6~7割程度。設問別の平均点を公表している学校もありますが、それを見ると、難問の正答率はきわめて低く、ほとんど差がつかない問題なのです。つまり、極論すれば捨ててもいい問題があるわけです。それにこだわりすぎて、時間をかけるぐらいなら、基本問題を確実に、ミスなく解けるような努力をした方がいいのです。

杉山 ただし、捨てていい問題というのは、親も子どもも見分けるのが難しいと思いますが……。

広野 その点は塾を十分に活用して、アドバイスをもらうようにしてほしいですね。とくに受験直前期には、難問に時間をかけず、基本・標準レベルの問題を確実に解ける力の養成に専念する戦略が不可欠になります。

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苦手科目を長時間続けて勉強する方法は避けてほしい

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杉山 中学受験においては、苦手科目の克服と、得意科目の伸長のどちらを優先する方がいいのでしょうか。

広野 両方のバランスを図ることが重要です。避けてほしいのは、苦手科目を克服するために、その科目を何時間も勉強し続ける方法です。子どもの集中力が持続するのは、小学校の授業時間が45分なのを見ても分かるように、せいぜい1時間弱です。バランスよく時間を区切り、苦手科目を長時間続けず、得意科目の勉強を合間にはさむようにすることがポイントです。スラスラ気持ちよく解ける時間がないと、子どもにストレスがたまり、勉強自体に嫌気がさしてしまうからです。

杉山 旅行など、様々な体験をさせることも大切なのではないでしょうか。

広野 受験直前期の6年生になったら、ある程度勉強に専念する必要があるでしょうが、5年生までは多様な経験を積むことが有意義だと思います。入試問題でも、理科では植物、昆虫などに実際に触れたことがあるという実感の有無で差がつく問題が増えています。社会の地理分野でも、その地域の様子がイメージできるかを重視する傾向が見られます。なお、最近は中学でオープンスクールを開催し、理科実験など体験型の講座を用意するところが増えていますから、それも積極的に活用してほしいですね。

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学校選びが「ベスト1」から「オンリー1」へ変化する傾向に

広野さん、杉山さん

杉山 最後に、今後の学校選びにおいて望まれることをお聞かせください。

広野 近年、保護者の考え方が多様化しており、「ベスト1」から「オンリー1」へと変化しています。以前は偏差値が1ポイントでも高い学校を目指そうとする風潮が顕著でした。それが、現在ではスクールカラーや、学校生活の雰囲気が子どもに適している学校を選ぼうという形に変わってきているように感じます。

杉山 それは望ましい傾向なのではないですか。

広野 そう思います。万一、第一志望校に不合格になった場合、とくに母親がなかなか立ち直れないケースが見られますが、それは偏差値にこだわりすぎた「ベスト1」の考え方に固執しているからです。けれども、大学受験、就職と、その先にいくらでもリベンジのチャンスは残されています。第二志望校であっても、入学が決まれば、その子どもにとっては「オンリー1」の学校であり、多角的な視点で見れば、その学校には優れた点はたくさん見つかるはずです。その中で子どもが学校生活を満喫できるようにすればいい。子どもにとってとても大切な6年間を過ごすのですから、ぜひそんな前向きな考え方を持ってほしいと願っています。

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【杉山由美子さん著書】

SAPIXカリキュラム

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なぜサピックスは驚異的な合格実績をあげられるのか

杉山由美子 著
発行:WAVE出版
定価:1,575円(税込)
中学受験SAPIXの授業

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有名塾では何を教えているのか?

杉山由美子 著
発行:学研新書
定価:798円(税込)

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