TOPIC-5

いろいろな人と触れ合い、音楽性にも変化が

作曲の仕事はどのようにして見つけていったのですか。

ヒャダイン インターネットで探した作曲家事務所に登録し、注文に応ずる形で曲を作っては送っていました。しかし、ほとんど採用されることはありませんでした。また、送った曲についての感想ももらえませんでした。ただ、依頼がくればどんな注文でも受けました。結果的に、このときの経験が自分の曲のバリエーションを広げることにつながっており、決して無駄ではなかったと思っています。

作曲家になることを諦めることはなかったのですか。

ヒャダイン その思いが消えることはありませんでした。しかしフリーター生活を通じて作る音楽が変わってきたとは思っています。中高大といわばインテリの人たちばかりに囲まれて育ってきた自分が、自ら稼がなくてはいけない状況に追い込まれ、いろいろなバックグラウンドの人と一緒に働くようになりました。自分の常識は決して彼ら彼女たちの当たり前ではないのだということを痛感するようになり、それが音楽にも影響を与えるようになったと思っています。

どのような影響だったのでしょうか。

ヒャダイン 実は、大学時代に指導してもらった作曲レッスンの先生からも「独りよがりな音楽」とか「デパートで流れてるような、引っかかりのない音楽」と評されていました。しかし東京でいろいろな人と触れ合い、世界の広さを実感したことで、大勢の人たちに受け入れてもらえるにはどうすればいいのだろうかという発想で音楽作りをするようになり、自分の音楽性が大きく変わりました。その意味で、フリーター生活は自分の人生にとって大きな意味があったと思います。

TOPIC-6

心が鳴る方向に進んでいきたい

売れ始めるきっかけはいつ訪れたのですか。

ヒャダイン 上京して4~5年経つうちに、自分が作る曲が果たしてマーケットレベルに達しているのか不安になってきました。そこで2007年、動画投稿サイトへの投稿を始めました。昔やっていたゲームに歌詞をつけたり、曲をアレンジし直したり、あるいは自分で歌ったりして投稿したところ、ユーザーから直に感想をいただけるようになりました。あまり自信がない曲にもイケてるとの評価をいただくようになり、こうしたダイレクトな感想に接して初めて、自分の作り出す音楽に自信が持てるようになりました。

そこから本格的な音楽活動が始まるわけですね。

ヒャダイン すぐに事務所を変え、力のある音楽事務所に移籍しました。そのときは自分がヒャダインであることや前山田健一であることは隠していましたが、事務所の力や、動画投稿サイトでもらった自信や経験則などが生きてきて、しだいに楽曲提供の機会も増えてきました。アルバイトの数も減っていき、最終的に2010年5月5日、ももいろクローバーZの『行くぜっ!怪盗少女』がリリースされるタイミングで、自分がヒャダインこと前山田健一だと明かしました。

現在は幅広く活動されています。

ヒャダイン 作曲家としての活動するうちに、ありがたいことにテレビで使ってもらえるようになりました。自分の畑以外のエンタメ業界を当事者として見ることで、さまざまな刺激とアイデアをもらい、それを楽曲に移植することで、僕にしか出せない味を出せることにつながっていると思います。これまで人生で特定の目標とか夢を持ったことはほぼありませんが、40代になった頃からは、自分が楽しいと思った方向へ、心が鳴る方向へ動いていきたいと思うようになりました。ですから、自分がご一緒したいとか、売れていなくてもこの人のためなら曲を書いてみたいと思えるような人たちからのオファーを積極的に受けるようにしています。

TOPIC-7

スマホやSNSがなくても絶対に生きていける

新中学1年生になる生徒にメッセージをいただけますか。

ヒャダイン 新しい世界で良いスタートダッシュを切りたいと思っている人はたくさんいると思います。とてもいいことですが、たとえスタートダッシュに失敗しても取り返しはつきますよとは伝えたいですね。最初のキャラ付けに失敗したとしても絶対に取り返しはつきます(笑)。なるべく背伸びせず、無理せず、自分らしさを大切にしてほしいです。いろいろな人間関係のトラブルに巻き込まれたり、もしかしたらいじめられたりすることもあるしもしれませんが、必ず助けてくれる人がいることも忘れないでいてほしいと思います。

中高時代をどんなふうに過ごしてほしいとお考えですか。

ヒャダイン 今の中高生は、スマホが深く入り込んでいる分、僕らの頃に比べてずっと大変だと思います。どんな情報でもすぐに手に入るため、じっくりと考えを巡らす時間をとることができません。また、人間関係でも、複数のSNSグループに所属しながら、どっちの顔を立てるべきかなど、複雑に考えなければならないような生活を強いられていると思います。スマホもSNSも有用で役に立つ存在ですが、そこから離れた生活にも楽しいことはたくさんあるので、スマホやSNSの世界がすべてだとは思わないでほしいと思います。

保護者の方に向けて、何かアドバイスはありますか。

ヒャダイン まずは、お子様の受験お疲れ様でした(笑)。これまでは二人三脚で頑張って来られたと思いますが、中学生になったら、子どもは子ども、自分は自分という具合に、ご自身が本当にやりたかったことをするようにしたほうがいいのではないでしょうか。親である前に一人の人間だということを思い出していただくいいタイミングだと思います。

音楽クリエイター
ヒャダインさん

1980年大阪府生まれ。本名は前山田健一。大阪星光学院高等学校から京都大学総合人間学部へ進学。大学卒業後はアルバイトをしながら作曲の腕を磨き、2007年ヒャダインとして本格的な音楽活動を開始。2009年提供楽曲がオリコンチャート連続1位を獲得。2015年ヒャダイン=前山田健一をカミングアウト。多くのアイドル、アーティストへの楽曲提供のほか、編曲や音楽プロデュースなども手がける。テレビタレントとしても多彩に活動している。