子どもは失敗から学ぶ。我慢して見守ろう

いくつか具体的なケースについて、アドバイスをお願いします。まず、過干渉と思いつつ、親の責任として、つい口を出してしまうと悩む親も多いようですが……。

大森 口出しするのは、失敗する姿を見たくないからでしょう。けれども、子どもは失敗の中から学ぶのです。失敗の度合いにもよりますが、ある程度は我慢することが肝心です。
 それから、中学時代は親離れを始める時期であると同時に、親が子離れすべき時期でもあります。子どもにしか関心がないようでは、過干渉以前の問題です。親が子ども以外に興味のあるものを見つけて、充実した生き方をしていれば、子どもはその姿を見て、きちんと育っていきます。

家庭で子どもとの会話がなくなったら、学校に相談してほしい

子どもがほとんど話さず、何を考えているか分からないが、そのまま放っておいて良いのかという悩みも聞かれます。

清水 そうしたときのために学校があるわけで、信用して相談してほしいですね。ただ、これまで、小学校の先生ではなく、塾の先生を頼ってきた家庭が多く、学校の先生への頼り方が分かっていない場合もあるように感じます。我々が教えてきた3校は、少ないクラス数で、生徒一人ひとりを学年団で6年間見守っています。生徒一人ひとりのことを良く分かっているので、学年の教員だれかに相談すれば、じっくり向き合ってくれるはずです。家庭で話をしなくても、学校で友だちや教員と普通に会話を交わしているようなら、ほとんどの場合は大丈夫です。

大森 もっとも、学校への相談は程度の問題でもあります。毎日相談されても困ります。

林 実際に、極端な例になると、1日に10回も電話をかけてくる親もいます。そうなると、担任教員とすぐにつながらないケースも出てきます。もちろん、伝言しておいてもらえれば、必ず後で連絡しています。また、スクールカウンセラーも配置していますから、そういう専門家に相談するのも、ひとつの方法です。

大森 子どもは重大な問題を抱えているときにこそ、寡黙になるものです。学校の話題をよくしていたのに、急に何も話さなくなったなど、変化によっては、心の病につながるケースもありうるので、そうした場合はぜひ、学校と連絡を取り合ってほしいと思います。

林 以前は、固定電話だけでしたから、子どもが誰と話しているのか、分かっていたのですが、いまは部屋にこもって、そこにメールやラインが来る形です。親が心配するのも分かる気がします。対処方法のひとつとして、子どもの友だちの保護者とネットワークを築くのもお勧めです。そこから情報を得て、家庭同士で支え合っている例も見られます。

大森 私は、子どもにとっての最良のカウンセラーは、仲間だと確信しています。無事に学校生活を送れるか、教員が心配していた生徒が、友人たちの支えによって卒業していく姿を、たくさん見ており、感心させられています。

SNSなどの使い方のルールは、早めに厳しく決めよう

ゲームやSNSに気を取られ、学校生活にあまり集中していない様子だが、注意すると逆上されるといった相談も多いようです。

林 とくに中学低学年では、SNSのトラブルが多いですね。そのため、ほとんどの学校が、入学してすぐに、被害者にも加害者にもならないように、SNSのエチケットに関する教育を実施していると思います。家庭でも、入学前の春休みに、インターネットなどの使い方について、ルールを厳しく決めてほしいとお願いしていますが、それでも問題は生じます。昼夜逆転し、引きこもりがちになるとか……。そういう予兆が見られたら、親は怒りモードになるのではなく、現在の状態を自分でどう感じているのか、なぜゲームなどの時間が長くなったのか、子どもの考えをしっかり聞いてほしいですね。その上で、かなり深刻だと判断した場合は、できるだけ早めに専門家に相談すべきです。最近では、SNS断捨離のキャンプなども行われています。深刻なときは、そこまでやる必要があり、気がついたら、できるだけ早めに対応することが大切です。

清水 一方で、SNSによって救われる面もあります。何らかのコンプレックスがあって、なかなか周りと話ができない生徒が、SNSなら友だちとコミュニケーションが図れるといった例もあります。だからこそ、SNSの倫理面に関する教育は、小学校からやらないといけない時代になっている気がします。

大森 SNSは諸刃の刃ですね。便利なツールで、使いこなさないといけないけれども、使い方を誤ると問題を引き起こしてしまいます。スマホを使っているだけで、怒る親もいますが、どういう目的で、どのような使い方をしているかが問題なのであって、それを確認することが大切です。

清水 それから、子どもが逆上するのは、親の怒り方が誘発していることもあるでしょうね。『この間もそうだった』とか、『いつもそうでしょ』とか、そういう言われ方をすると、分かっていても腹が立つものです。

大森 逆上するのは、無視されるよりはマシです(笑)。そう認識して、子どもがなぜ逆上したのか、親は自問すべきですね。

他の子との比較は御法度。我が子に自信を持とう

最後に、保護者への応援メッセージをお願いします。

清水 おそらくこれまでは、小学校よりも塾の生活が中心だったと思います。それは迎える側の我々の責任でもあります。しかし今後は、学校の中で、勉強も、友だちや先生との関係も築けます。入学した学校に、わが子を安心して委ねてほしいと思います。

林 思春期は、子どもも悩みますが、親も子育てに悩み、辛い思いをします。常に理想の親の姿を見せる必要はなく、ときには腹を立てたり、涙を流したり、おろおろしたりする姿を、子どもに見せてもいいのではないでしょうか。
 また、中高時代には、子どもは何度か自信をなくし、落ち込むことがあるでしょう。そんなときに、家庭が無条件に安心できる基地であると、そう子どもが思える場になるように努めてほしいと思います。
 それから、子どもの行動範囲が広くなり、生活環境や考え方、価値観が異なる、多様な友だちができます。親がそうした異なる価値観の人々との付き合いを否定してはいけません。子どもを信用して、広い視野で自分のコミュニティを作っていけるように、サポートしてあげてほしいですね。

大森 保護者も、かつては子どもだったのですが、それを忘れている人が多いかもしれません。自分の子どもの頃を思い出せば、我が子がいかに良く育っているか、分かるはずです。そして、その子を育てたのは自分だと、もっと自信を持ってください。
 それと、子育てにおける最大の御法度は、目の前の子どもを、他の子と比較すること。子ども自身が誰かを目標にするのはいいのですが、親が「あの子はすごいから、目標にしなさい」と言うのは禁句です。自分の子どもに自信を持って、「すごいなぁ」と思いながら、子育てしていってほしいと思います。