特別座談会 親は思春期の子どもと、どのように接するのが良いのか

思春期は子どもが大人になる過程で、自分の心身の変化に漠然と不安を抱いたり、人間関係にストレスを感じたりする時期です。保護者にとっても、子どもの様子や考えが見えにくく、親子関係の問題に悩むことも少なくありません。思春期の子どもと、どう接するのが良いのか。3名のレジェンドに語り合っていただきました。

目先の試験にこだわらず、学びの面白さを味わう時期

新中1生に対して、どのような点に留意して見守っておられましたか。

清水 多くの新中1生が、過酷な受験勉強を潜り抜けて、疲れ果てています。私はそんな生徒たちに、これから6年間、とくに中学の3年間は、点数を取るための勉強ではなく、学びの面白さが味わえるチャンスなのだから、目先の試験にこだわらない勉強をしてほしいと語ってきました。入学時点でそういう意識を持っている生徒かどうか、とても気になるところです。
 それを判断するバロメーターになるのが、授業で試験とはまったく関係のない余談に耳を傾ける姿勢を持っているかということです。それから、いわゆる5教科以外の音楽、美術、体育、家庭科などの授業に興味を持っているか。そうした点に注意して見ていました。

林 厳しい受験を経て入学してきているので、親子ともに、競争では必ず勝者にならないといけないという意識を強く持っています。ところが、中学に入学すると、周囲の生徒の多彩な才能に圧倒されて、とても勝てないと、不安感を抱くケースがあります。中高の多感な時代には、勝負にこだわる必要はなく、もっと肩の力を抜いて、のびのびと過ごすことが大切です。
 不安感を取り除くには、身近にロールモデルが存在することが有効になります。そこで、神戸女学院では、入学直後に、新入生と上級生が交流し、話し合う場を設けています。「あの先輩のようになりたい」という目標ができれば、学校生活が豊かになっていきます。
 また、入学前のオリエンテーションでは、クラスごとに、ちょっとユニークな作業を行います。まずクラス全員でディスカッションして、教室の壁に貼る大きなジグソーパズルのデザインを決めます。その後、あらかじめ切り取られたピースを一人一つずつ受け取り、そのピースに一人ひとり、自分の中高部6年間の目標を具体的に書き込み、再度貼り合わせます。毎年、私も事前に読んで、入学式の式辞で、皆がどんな目標を持っているのか、紹介するとともに、中学部や高等学部の卒業式では、「あのとき、ピースに書いた内容を覚えていますか?目標は達成できましたか?」と問いかけ、振り返りをしてもらっていました。おそらく生徒たちにとっては、大切なピースになっていることでしょう。常に振り返り、自分と対峙する時間を持つような中学生活を過ごしてほしいと願っています。

「皆が変わり者」という環境が、安心感や仲間意識を醸成する

大森 本日集まった先生が教えていた3校の生徒は皆、自分ができると思って入学してきます。けれども、皆が優等生ですから、悲しいかな、その中でトップから最下位まで、順位が出ます。すごい世界に入ってきたのだから、いつまでも自分がトップと思わないようにしてほしい。その点が、新中1生で最も気を遣うところです。
 一方で、灘の生徒がよく口にするのは、「小学校で変わり者と言われてきたが、灘に入ったら、全員変わり者だった」ということです(笑)。個性的な生徒が集う環境で、安心感や仲間意識が醸成されている気がします。

清水 確かに、小学校時代は善くも悪くも浮いた存在だった生徒が多いでしょうね。そのために、人間関係がうまく取り結べなかった生徒もいるかもしれません。そんな生徒たちに、私がよく言っていたのは、「皆が奇妙な存在と見られていたと思うけれど、奇妙なのは悪いことではなく、奇才で絶妙であるという意味なのだから、安心しなさい」ということです。そう言われると、ほっとするようです。

大森 もちろん、いじめについては、目を光らせて、芽を摘むように努めています。「灘はいじめがない学校」と言われることも多いのですが、その気配が皆無なわけではなくて、初期の段階で、「いかにいじめが許されないことなのか」、しっかり教えるようにしているのです。
 同様に、SNSにも注意が必要です。使い方を誤ると、後で様々な悪影響が生じてしまいます。私の場合、中学入学時に文集「初心」を作成し、約800字でいま考えていることを書いてもらっていましたが、印刷会社には「誤字脱字は校正せず、そのまま載せてほしい」と依頼していました。SNSも同じですが、ものを書くという作業には、責任が伴うことを知ってほしいからです。

勉強以外のことへの子どもの興味を尊重しよう

子どもとの関わりにおいて、家庭で気をつけてほしいことはありますか。

林 中学受験に成功したのは、親がしっかり管理したからだという意識が強く、中学に入っても、同じようにすべてを管理し、うまくいかないことがあるとすぐに解決してあげようとする親がいます。中学生になったら、親がレールを敷くのではなく、子どもの意見を聞いて、話し合って方向性を決めてほしいと思います。問題が生じても、すぐに答えを与えず、ゆっくり待つ姿勢も重要です。
 その逆のタイプの親も見られます。中学に入学したからと、親子でほっとして、極端な放任主義になり、子ども任せになるケースです。スマホも買い与えて、子どもがスマホデビューすると、自室にこもって、親には何をしているのか分からない状況になることもありえます。家庭学習を怠けていることに気づかず、そのまま1学期を過ごして、夏休み前の成績表を見て、親子で愕然とすることも少なくありません。いっぺんに自由放任にするのではなく、親子でコミュニケーションを図って、生活のリズムを崩さないようにすることが大切です。とくにスマホデビューするときは、どういう使い方をするのか、家庭で細かくルールを決めるようにしましょう。
 それから、小学生の間は、受験勉強で忙しく、家の手伝いをほとんどさせなかった家庭が多いのではないでしょうか。そのため、中学校の教室の掃除の際、箒を掃除機のように滑らせて使ったり(笑)、雑巾が絞れなかったりする生徒がいます。中学入学前の春休みには、家事も手伝わせるようにしてほしいですね。

大森 灘でも、買い物など、家の手伝いをさせるようにしてくださいと、伝えています。入学前に「林檎の皮むき」を課題として出したこともあります。
 もうひとつ重視しているのが、人間関係の再構築です。これまでは、塾があるから、さっさと帰り、小学校の同級生と放課後に一緒に遊ぶことはなかったでしょう。そこで、中学入学までに、小学校の仲間と仲良くなって、「あいつも仲間だ」と認められて、小学校を卒業してきなさいという話をします。小学校でそういう人間関係が築ける生徒は、中学でも仲間を作れ、困ったときに助け合うことができます。
 また、私は保護者に「中学に入ったら、塾には通わせないでほしい」とも伝えています。なぜなら、学校の要素は、勉強だけではなく、多様な活動があるからです。子どもに勉強以外で一生懸命になれるものを発見させてほしいし、親は子どもが発見したものを尊重してほしいですね。「クラブ活動ばかりに夢中になっている」と、叱る親がいますが、夢中になれるものが見つかったのは素晴らしいことだと、そういう思いを持つことが大切です。

清水 同感です。これまでは中学入試に合格するために、効率的に点数が取れるようにする生活を続けてきたでしょう。親もそれだけが人生ではないと、理屈では分かっていても、いったん染みついた感覚は、なかなか拭えないかもしれません。大人から見ると無駄にしか思えないことに、子どもが興味を持っても、『そんなことをしても何の役にも立たない』という言葉は我慢して封印してほしいと思います。
 ひとつ具体的な例を紹介しましょう。私は入学前の生徒に、約40冊の課題図書を示して、その中から1週間に1冊ずつ読ませていました。読書感想文というと嫌がるので、何でもいいから書いておくためのノートを与えます。できれば、家族の誰かと、読んだ本について話し合ってごらんとも伝えていたのですが、親が受験に毒されていると、強く感じたのは、子どもが書いた文章に、親が誤字を訂正して提出してきたことです(笑)。もちろん、親のそういう関わり方を求めていたわけではありません。親子で同じ本を読んで、大人の視点ではその本にはこういうテーマがあると感じても、子どもはまったく異なるところにこだわって読んでいたりするものです。その違いを面白がって、食卓の話題にするだけでいいのです。読解力の養成などとは無縁に、時間と空間を超えられる本の魅力を純粋に楽しんでほしい。その読書の楽しさを、おそらく封じられてきた子どもたちなので、改めて味合わせてほしいわけです。

林 確かに、中学受験のときは、読解の意識でしか、活字を読んでいませんね。やっと時間がとれるようになった春休みに、自分が面白いと思う活字に触れる経験をスタートさせるのは、とても大切なことです。神戸女学院では、中1の1学期にビブリオバトルを開催しています。すると、生徒たちは、思いも寄らない新鮮な本を推薦してくれます。