医学部をめざす新中学生へのアドバイス 存在感が増す私立中高一貫校 難化可能性のある医学部入試 英語や記述力の教科を忘れずに

大学入試では最難関の医学部入試。その現状と将来展望について、また医師になるには中高時代に何をしておけばいいのか、大学受験に詳しい安田賢治さんに聞きました。

志願者減少傾向は続くが超難関入試のまま推移

 首都圏の医学部の志願者数は、国公私立大ともに、ここ数年は減少傾向が続いています。入試の難易度が高くなり過ぎたため、「理系にいるのだから、一番難しい医学部を目指そう」という軽い気持ちで医学部を受験する層が減ったことが、大きな原因と考えられます。

 医学部人気が上昇したのは、2008年に起きたリーマンショックによる経済状況の悪化が引き金でした。ほぼ同じタイミングで、医師不足への懸念から医学部の定員増が行われたことにより、医学部の志願者数はうなぎ登りに上昇していったのです。ただ、近年は景気の上向き感から大学生の就職が好調なこともあって、医学部人気が下火になってきたのです。志願者が多く集まり過ぎ、 "高値安定"の状態になってしまいました。受けても受からないのではないか、との考えが広がり、敬遠されるようになってきました。そのうえ、私立大医学部で女子受験生や多浪生を合格させない不適切入試が明るみに出て、大学の姿勢に対する不信感によって、ますます人気が下がっていました。

 ところが一昨年のコロナの感染拡大で、未知のウイルスということもあって受験生の関心が高まりました。今の高校生は苦しんでいる人たちを助けたい気持ちが強く、成績優秀な理系受験生に医学部人気が高まってきました。21年入試では国公立大前期試験の志願者が20年を上回りました。私立大は全体で志願者が12%も減りましたが、その中で減少の割合が抑えられたのが医学部です。医学部人気の復活が見られます。

 コロナによる不況がじんわり進んでいますが、不況時に強さを発揮するのが医療系学部で、中でもトップ層では医学部になります。今年も医学部人気が高まる可能性が、十分考えられそうです。

 皆さんのお子さんが医学部受験を迎える頃には、団塊の世代の医療需要が下火になっています。そうなると、現在、各大学に認められている臨時定員増が延長されない可能性もあり、さらに恒常的な定員も減る可能性もあります。そうなれば、逆に、医学部入試は一気に難化します。

 また、AIがどんどん進化していくと、医師の仕事内容が変化していくことも考えられます。簡単な診断をAIがこなしたり、基本的な手術をロボットがこなしたりするようになれば、必要な医師数が減少することもあるでしょうし、医師の仕事内容に魅力を感じなくなる人も出てくるでしょう。

 医学部入試は、このように時代の変化に大きく左右される可能性があるということは、皆さんも心に留めておくといいでしょう。

医学部医学科 募集人員・志願者数推移

私立大医学部人気で中高一貫校が有利に

 首都圏の場合は、私大医学部の人気が高いことが大きな特徴です。国公立大医学部は、東京大学、東京医科歯科大学、千葉大学、横浜市立大学など、限られた大学しかなく、しかも入試偏差値が非常に高いのが実情です。ところが、私大医学部は、1都3県に全国の約半数に相当する16大学が集中しており、様々な大学を選択することができるため、私大医学部を専願にする人が多いのです。

 私大人気が高まった背景には、相次ぐ学費値下げの影響も少なくありません。08年に順天堂大学が6年間の学費を880万円下げたのを皮切りに、13年には昭和大学が一般入試合格者を対象に450万円、東邦大学が600万円と値下げが続きました。以前は、初年度1000万円かかっていた学費も、現在では750万円程度にまで下がり、一般のサラリーマン家庭でも手が届くようになりました。今では女子受験生を中心に、地方の国立大を蹴って、首都圏の私立大に進学するケースもあります。

 首都圏のもう一つの傾向として、私立中高一貫校で医学部人気が高いことがあげられます。トップレベルの公立高校や国公立中高一貫校などの成績優秀者は、東京大学など難関総合大学を目指すケースが多く、医学部人気は関西ほど高くありません。ところが、私立中高一貫校では医学部人気が年々高まっています。

 私立中高一貫校では、6年間かけてじっくりと学力を高めることができるのはもちろん、OBなどを中心に、医師の話を聞ける機会を数多く用意するなど、医学部受験に向けたサポートも充実しています。

 ですから、首都圏で医学部を目指すなら、医学部志願者の多い私立中高一貫校は有力な選択肢になるでしょう。一人で勉強していると、途中で医学部をあきらめてしまうかもしれませんが、一緒に医学部を目指す仲間が大勢いれば、励まし合って勉強を続けることができるに違いありません。

2021年 首都圏 国公立・私立医学部医学科合格者数ランキング

入試改革の動向により英語や国語の勉強を

 大学入試改革は紆余曲折の末、民間英語試験の活用も、記述式問題の導入も中止されました。しかし、この二つについては、大学入学共通テストで出題されないとしても、今後の社会に出てからは必要な能力であることは間違いありません。

 2020年から小学校1年生にプログラミング教育が必須となりました。さらに、政府は24年度までに、公立の小中学校で、タブレットやパソコンを一人1台使える環境を整備するとの計画を発表しています。将来の大学入試は、タブレットやパソコンで解答する入試になっている可能性もあります。ただ、今年中学1年生になる皆さんにとっては、6年も先の話です。今年の高校1年生から新しい学習指導要領の入試が実施される予定ですが、対策する時間は十分にあります。

 グローバル化が進む日本では、これからは医師にも高い英語力が求められます。最新の医療情報は英語で発信されますし、今後は国の政策もあって外国人労働者も確実に増えます。そう考えると、中高6年間で英語の力を伸ばしておくことはとても重要です。

 また、患者さんの希望を聞いたうえで必要な情報を伝達し、互いに納得できる方法で治療していくためには、高い言語能力が求められますから、国語力や記述力も極めて重要です。そう考えると、私大医学部だから、数学と理科だけをしっかりやっていればいいということにはなりません。

 さらに、大学入試改革により、国公立大医学部でも、学校推薦型選抜や総合型選抜の割合が増えることも予想されています。こうした入試に挑むには、学校行事に積極的に参加したり、スポーツやボランティア活動なども含めた高校生活全体を充実させる必要があります。つまり、国語や地歴・公民も含め、高校の全教科をしっかり勉強しておくことが重要になるのです。

 医学部を志望する動機は、それぞれでしょうが、基本的には「困っている人を助けたい」という気持ちがあるはずです。それを忘れずに、中高時代を充実したものにしてほしいと思います。

プロフィール

大学通信 情報調査・編集部
ゼネラルマネージャー
安田 賢治(やすだ・けんじ)さん

1956年、兵庫県生まれ。灘中高、早稲田大学政治経済学部卒業後、大学通信入社。サンデー毎日の年間を通しての教育企画、週刊朝日、AERA、東洋経済、ダイヤモンド、プレジデント、プレジデントファミリー、エコノミストなどの中高一貫校や大学、就職特集への情報提供と記事執筆を行う。著書に『中学受験のひみつ』(朝日出版社)、『笑うに笑えない大学の惨状』(祥伝社新書)ほかがある。