• 「なぜ医師めざすのか」
      自分見つめ直す
      機会を設けよう
      近畿圏の私立中高一貫校では、他地区以上に医学部人気が過熱しています。 中高時代にどんな意識を高めて、医学部をめざす必要があるのか、アドバイスします。

      ますます過熱する 近畿地区の医学部人気

       全国的に医学部の人気が続いていますが、とりわけ近畿地区の私立中高一貫校では、過熱と呼んでも過言ではない状況になっています。医学部の合格者上位校を見ると、一貫校がズラリと並んでいるのです<下表参照>。
       これは「実」を重視する風土も関係していると思われます。かつて一貫校の上位層がこぞって進学していた旧帝大を卒業しても、希望通りの就職が実現するとは限りません。医学部ならば、卒業して国家試験に合格しさえすれば、収入も社会的地位も高い医師という職業が保証されます。そこに魅力を感じているのでしょう。また、国立理工学部に進学しても、有力企業に就職するためには、大学院修士課程修了が条件のようになっています。同じ6年間の学びが求められるのなら、医学部に行こうという考え方もあるようです。
       首都圏の中高生は、地方に出ることを敬遠する傾向があり、そのため最初から私立医学部をめざすケースも相当数にのぼります。それに対して、近畿圏の中高生は、首都圏ほど多くの私立医学部が設置されていないこともあって、国公立医学部志向が強いのが特徴です。あまり進学する地域へのこだわりもなく、自分の学力に応じて、合格可能性の高い国公立医学部を探して、遠方でもどんどん受験します。保護者にも、仕送り額がプラスされても、私立医学部に進学するよりも安くすむという意識があるようです。
       もちろん、こうした「実」の面だけでなく、より純粋な気持ちで医学部をめざす中高生もたくさんいます。大きな震災が頻発したこともあって、最近の若者には「困っている人を助けたい」という社会貢献の意識が高まっています。それが医学部に進みたいという目的意識につながることは、とても望ましいことだと感じています。

      2017年 近畿圏 国公立・私立医学部医学科合格者数ランキング

      国公立大医学部医学科合格者数ベスト20
      順位設置高校所在地国公立大医(医)
      合格者数
      1兵庫83
      2洛南京都81
      3甲陽学院兵庫54
      3東大寺学園奈良54
      5四天王寺大阪50
      6洛星京都42
      6大阪星光学院大阪42
      8白陵兵庫41
      8智辯学園和歌山和歌山41
      10西大和学園奈良36
      11清風南海大阪31
      12 北野大阪24
      13 堀川京都23
      14 膳所滋賀22
      15 天王寺大阪21
      15高槻大阪21
      17須磨学園兵庫20
      18六甲学院兵庫19
      19大阪教育大学附属池田大阪14
      19帝塚山奈良14
      ※は国立、◎は私立、無印は公立校を表す

      私立大+防衛医大医学部医学科合格者数ベスト20
      順位設置高校所在地 私立大+ 防衛医医(医)
      合格者数
      1四天王寺大阪76
      2洛南京都72
      3白陵兵庫55
      4帝塚山奈良49
      5大阪星光学院大阪48
      5清風南海大阪48
      7智辯学園和歌山和歌山47
      8高槻大阪45
      9明星大阪43
      10洛星京都40
      11東大寺学園奈良33
      12六甲学院兵庫32
      13兵庫31
      14甲陽学院兵庫29
      15神戸海星女子学院兵庫24
      16 膳所滋賀23
      17西大和学園奈良22
      18大阪桐蔭大阪17
      18金蘭千里大阪17
      20帝塚山学院泉ケ丘大阪16
      ※大学通信調べ(大学発表数を考慮するため、高校発表数と異なる場合があります)


    • 多様なジャンルの本を読み 視野を広げよう

       医学部をめざすのなら、中高時代にぜひやっておいてほしいことがあります。それは、「なぜ医学部をめざすのか」「自分は本当に医師に向いているのか」、自分を見つめ直す機会を設けてほしいということです。
       医学部人気の高い近畿圏では、中学受験の段階から、医学部志望を固めているケースが少なくありません。一概に否定するわけではありませんが、家族や親戚に医師が多く、学校の仲間も医学部志望ばかりの環境で過ごすと、周りに流されて、何も考えないまま医師になってしまう可能性があります。医師が本当に自分のめざしたい職業なのか、自問自答して、自分の気持ちを確認することが大切です。
       というのも、実は、多くの大学教員から、「成績がいい」「偏差値が高い」という理由だけで医学部をめざす人が増え、医師としての適性が不足している場合があるという声が聞かれるのです。
       大学サイドでも重要な課題と捉えており、近年は、より面接や小論文などを重視する動きが見られます。2018年度入試からは、東大理三でいったん廃止されていた面接が復活します。目的意識や適性を明確に示すことができなければ通用しませんから、中高時代にじっくり考えておくことが大切になります。
       自問自答の方法としてお勧めなのが読書です。医療関連だけでなく、できるだけ多様なジャンルの本を読みましょう。また、学校の授業も、受験に直接必要な教科だけでなく、すべての教科の授業を真面目に受けるようにしましょう。そうして視野が広がる中で、自分がどんな分野に興味があるのか、見えてくるはずです。
       中高時代から、医師の生の声を聞く機会を設けるのもいいと思います。私立中高一貫校の多くでは、キャリア教育の一環として、現役の医師を講師に招いています。そんなときに、ぜひ積極的に質問するように心がけましょう。ハードな現場の状況を聞くこともあるでしょうが、純粋な中高生にとっては、それもまた医師をめざすモチベーションにつながります。
       医学部は、入学した段階で、将来の職業も決まる学部です。こうした自問自答の作業を通して、目的意識をはっきりさせ、覚悟を持って入学することが重要なのです。
       医学部志望が明確になったら、それを意識した中高生活を送りましょう。「きちんと挨拶する」「電車内では高齢者に席を譲る」。普段の心がけが患者さんを思いやる姿勢を育みます。NHK「総合診療医ドクターG」を見ていると、医師は患者さんの細かいしぐさや発言を観察して、病名を診断していることが分かり、感動します。将来の問診力につながるコミュニケーション力、観察力も高めましょう。

      地域枠の活用や 推薦・AO入試も視野に

       「なぜ医師をめざすのか」、目的意識を考える中で、地域医療に関心を抱く人もいると思います。その場合に活用したいのが地域枠です。卒業後、一定期間、指定地域の医療に従事することが条件になる入試です。自治体などから奨学金が給付されることもあります。近年、医学部の入学定員は増加を続けていますが、そのほとんどが地域枠に割り当てられています。しかも、いわゆる一般入試と比較すると、競争率やボーダーラインが低めになっていますから、地域医療に情熱があるなら、受験する価値は高いでしょう。
       ただし、義務づけられた期間を終えると、地域医療から離れ、都市部に移る医師も少なくないと聞きます。当然のことながら、各地域にとっては、長く診てもらえる医師が望ましいことは間違いありません。地域枠を活用するのなら、相応の覚悟を持つことが求められます。
       もう一つ、今後の医学部志望者が目配りしておく必要があるのが、推薦・AO入試の拡充です。2016年度は東大が推薦入試、京大が特色入試を導入しました。国立大学協会は、近い将来、推薦・AO入試の定員比率を3割に拡充する意向を示しています。私はそこまでの割合にはならないと考えていますが、拡充の方向にあることは確実です。
       もちろん、学力向上に専念して、一般入試オンリーで勝負するのもまた、一つの選択肢です。ただし、推薦・AO入試が拡充すれば、一般入試の定員は削減され、これまで以上に「狭き門」になると予想されます。推薦・AO入試の活用も含めて、柔軟な受験戦略を一考する意義は大きいと思われます。
       そこで重要になるのが、すべての教科の授業を真面目に受けて、定期テストも万全の対策を立てて臨むことです。ほとんどの推薦・AO入試で、評定平均値が応募条件になっているからです。また、高校から推薦を受けるためには、部活動や学校行事などにも積極的に取り組むことが必要になります。さらに自分の得意分野を磨くことも大切です。数学オリンピックなどのコンテストや、SSHの活動などで高い評価を得れば、大きな武器になります。

      安田 賢治さん
      大学通信 情報調査・編集部 ゼネラルマネージャー
      安田 賢治さん
      1956年、兵庫県生まれ。灘中高、早稲田大学政治経済学部卒業後、大学通信入社。サンデー毎日の年間を通しての教育企画、週刊朝日、AERA、東洋経済、ダイヤモンド、プレジデント、プレジデントファミリー、エコノミストなどの中高一貫校や大学、就職特集への情報提供と記事執筆を行う。
      著書に『中学受験のひみつ』(朝日出版社)、『笑うに笑えない大学の惨状』(祥伝社新書)がある。

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