夏野 剛さん
VOL.
02
興味を持ったことに
純粋に打ち込もうそれが人生の土台になる

慶應義塾大学特別招聘教授
夏野 剛さん

    • 日本のインターネットビジネスを黎明期から牽引してきた夏野剛さん。中学生の頃に熱中したSF小説やパソコン、ラジオ製作などがその原点になっていると語ります。ご自身の思い出を振り返っていただきながら、中高時代にどのような意識を持ってすごすべきなのか、メッセージをいただきました。


      TOPIC⁻1
      SF小説の読書体験が科学に興味を持つきっかけに

      夏野 剛さん ──中学時代に興味を持ったことを教えてください。
      夏野 小学校6年生頃からSF小説を読みふけっていました。最初は星新一で、次にアーサー・C・クラーク、E・E・スミスなど、海外の作家にも手を広げていきました。気に入った作家は全作品制覇を目指すのが私の読書スタイルで、新作も含めてすべての作品を読破することで、達成感を求めていた気がします。マンガではなく、SF小説に夢中になったのは、その方がリアリティーを感じられたからです。ですから、ファンタジーSFは好みではなく、物理学の法則を大切にしたハードSFを中心に読んでいました。この読書体験を通じて、「科学の力によって、こんな未来が出現したらいいな」と空想するようになったことが、その後の人生に大きく影響していると思います。
       科学好きが高じて、雑誌『ラジオの製作』を定期購読し、ラジオも自作しました。国家試験を受けて、アマチュア無線技士の資格を取得したのも中学時代です。さらに、ちょうど売り出され始めたパソコンを買ってもらい、バイオリズムのプログラムなどを作って悦に入っていました。

      ──趣味は何でしたか。
      夏野 中学に入った頃から、クラシック音楽に凝りました。レコードは高いので、FMのクラシック番組をカセットテープに録音していました。SF小説と同じように、こちらもまた全制覇を目指したくなり(笑)、チャイコフスキーに始まり、ベートーベン、ブルックナーなどの全作品を録音することを目標にしていました。雑誌『FMファン』を毎号買って、番組表をチェックして、コレクションを増やしていくのですが、できれば同じ指揮者とオーケストラの組み合わせで揃えようと思っていたので大変です。何年もかけて、ようやく揃ったときの達成感は忘れられません。

      TOPIC⁻2
      予備校時代は慢心せず一所懸命受験勉強に取り組む

      ──高校は都立に進まれたのですね。
      夏野 自由な校風の高校で、勉強は怠けていたので、あまり参考になる話はできません(笑)。 同級生の一人が「爆笑問題」の田中裕二で、よく連れ立って新宿などで遊んだことを覚えています。当然、成績はひどいもので、高3の夏休み頃になって、「このままではまずい」と焦り、勉強に取り組みました。田中には「自分だけ急に勉強を始めるなんて、裏切り者」といわれたほどです(笑)。
       3~4カ月ほど勉強を続けたところ、12月の模試で志望校のA判定が出ました。たまたま運良く高得点があげられただけだったのですが、自分の実力を過信して、再び遊び始めてしまいました(笑)。結局、合格できず、予備校に通うことになりました。それからの1年間は必死で勉強しました。

      ──受験勉強で自分なりに工夫したことはありますか。
      夏野 しっかり睡眠時間を確保した上で、勉強に集中しました。勉強中はあえて音楽を流していたのですが、集中力が極限まで高まると、その音楽が聴こえなくなる瞬間があります。それが今、集中できているかどうかを確認するバロメーターになっていました。
       一所懸命勉強した結果、全国模試でトップクラスの成績をあげられるようになりましたが、1回目の失敗がありますから、今度は慢心することなく、最後まで粘り強く勉強を続けました。

    • TOPIC⁻3
      アメリカ留学でインターネットがリアルビジネスを変えるという夢が膨らむ

      夏野 剛さん ──早稲田大学政経学部を志望された理由は何ですか。
      夏野 大学受験を迎えても、自分が将来何をやりたいのか、明確になっていませんでした。当時、文系で最も偏差値が高かった上智大学法学部国際関係法学科を第一志望にしていたのですが、いざ合格してみると、別に国際関係法に関心があるわけでもないと、迷いが生じました。それならば、早稲田大学政経学部に入学した方が、学ぶ内容が幅広く、将来の選択肢も広いのではないかと考えたのです。

      ──大学卒業後、いったん企業に就職されたのですね。
      夏野 大学で4年間学んだ後も、自分が進みたい世界は見えないままでした。幸い、売り手市場で就職先に困ることはない状況でしたが、まだ方向性に迷っている私にとっては、多様な業務が経験でき、自分の道を限定しなくてもいい会社が望ましいと考えました。もう1つ、基準にしたのは、自分が目立てる会社を選ぼうということです(笑)。大学時代に短期留学を経験し、英語力には自信がありましたが、商社に入ればもっと英語ができる社員がいます。東京ガスなら、英語力で目立てるし、さまざまな業務に携わることができ、世界が広がると考えたのです。

      ──どんな部署で仕事をされたのですか。
      夏野 東京ガスの5年間は本当に充実していました。地域冷暖房とコージェネレーションシステム(排熱を利用したエネルギー供給システム)という新規事業を立ち上げる部署に配属され、新しいシステムの設計から、免許・料金の認可、会社の設立・運営まで、一連の作業を経験しました。
       仕事の上で大きな武器になったのは、英語力ではなく、パソコンに習熟していたことです。私は中学時代からパソコンを趣味にしていましたし、大学でも経済分析のゼミに入り、フォートラン言語を習得し、研究にパソコンを活用していました。そのため、それまで大変な手間をかけていた表の作成なども、表計算ソフトを使えば簡単にできることが分かっていたので、新人でありながら、業務の効率化を図る役割を担うことになったのです。巨額の予算をかけて外部に発注していたシミュレーションソフトを、私が一人で作り替え、はるかに速いソフトに改善したこともあります。まだITという言葉は生まれていなかった頃ですが、テクノロジーでビジネスを変えられるという思いが芽生えました。

      ──アメリカの経営大学院で学ぼうと思った経緯を教えてください。
      夏野 業務の効率化に貢献したご褒美として、会社から派遣されることになりました。もともとMBA(経営学修士)には興味があり、社員の海外留学制度があることも、東京ガスを選んだ理由の1つでした。この留学経験が、私にとって大きな転機になります。

      ──留学先でどんな収穫を得られたのですか。
      夏野 私が留学したのは1993年からの3年間ですが、94年12月にヤフードットコムがスタートするなど、アメリカのインターネットビジネスの勃興期に当たります。留学先のペンシルバニア大学ウォートン校には、「インターネットがリアルビジネスに及ぼす影響」を議論するコースが設けられており、テクノロジーオタクの私は当然、飛びつきました。このコースでシミュレーションしたのは航空会社の予約システム、銀行のATM、ナスダックの証券取引システムなどがインターネットにつながったら、どのようなビジネス転換が起こるかということです。それらを考えることはワクワクする体験でした。これまで趣味の世界だったパソコンが、いよいよリアルなビジネスに使える時代が到来するという夢が膨らんだのです。
       帰国すると、日本のインターネットビジネスはまだ何も始まっていません。先駆者利益が得られると感じ、新しいビジネスを構想していた経営者と出会い、会社を立ち上げました。当初は東京ガスと兼務していたのですが、だんだん忙しくなり、退職して専念することにしました。ところが、残念ながら、この起業は早すぎ、時代が追いついていませんでした。大企業でもインターネットにつながっていない頃で、まずはインターネットを普及させるために営業をしているようなものだったのです(笑)。アジア経済危機の影響もあって、倒産してしまいました。失意の中で、NTTドコモから、携帯電話とインターネットをつなぐ新たな事業の話をいただきました。「そうだ。携帯電話があったではないか。なぜそこに気づかなかったか」と心が踊り、iモードの開発に参画することにしました。

    • TOPIC⁻4
      保護者には子どもの興味を伸ばす機会を与えてほしい

      ──今後の目標をお聞かせください。
      夏野 これからは脳に直接電気信号を伝える「電脳通信」の時代になっていくでしょう。その研究の支援をしていきたいですね。また、これだけITの世界が進展しているのに、まだ全然普及していない業種、地域がたくさんありますから、もっとテクノロジーを使えば人々ハッピーになれるということを啓発する活動にも力を入れたいと考えています。

      ──新中学生へのアドバイスをお願いします。
      夏野 中学時代は自分の自由になる時間が多く、しかも、お酒や性的欲求などの誘惑から距離があり、すごく純粋に物事を突き詰めることができる時期です。自分の好きなことに没頭してください。それも、周りの友人たちよりもずっと上のレベルまで到達しようと努めることが大切です。私の場合はそれがSF小説から始まったテクノロジーへの興味と、趣味のクラシック音楽でした。いずれも私の人生の土台になっています。SF小説で読んだような世界を、まさか自分で作る立場になるとは思ってもいませんでしたが、中学時代に夢中になったことは、人生のどこかでつながってくるのです。

      ──最後に、保護者へのメッセージをお願いします。
      夏野 子どもが何に興味を持つか、保護者がコントロールできるものではありません。子どもが好きなことができたら、トコトンやれる機会と環境を与えてほしいですね。私の両親は、それほど裕福でもないのに、SF小説、パソコンなど、私が関心を持ったことに打ち込める機会をくれました。そのことに今、とても感謝しています。

      夏野 剛さん
      夏野 剛さん(なつの・たけし)
      1965年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、東京ガスに入社。1993年、ペンシルバニア大学ウォートン校経営大学院に留学。MBA(経営学修士)を取得。帰国後、NTTドコモでiモードの立ち上げなどに参画。現在、慶應義塾大学政策・メディア研究科特別招聘教授。ドワンゴなど、数多くのIT企業の取締役も務める。

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