三浦 瑠麗さん
VOL.
01
豊かな読書体験が
思春期の悩みから解放してくれる
国際政治学者 三浦 瑠麗さん

    • 気鋭の国際政治学者として、テレビの討論番組などで、シュアな言論を展開されているのが、東京大学政策ビジョン研究センター講師の三浦瑠麗さん。内向的で読書に熱中していたというご自身の中高時代を振り返っていただきながら、どのようなことを大切にして学校生活を送ればいいのか、アドバイスしていただきました。


      TOPIC⁻1
      ファンタジーを中心に、幼い頃から読書に熱中

      三浦 瑠麗 ──中学は公立校に通われたのですね。
      三浦 5人子どもがいる家庭で、経済的な面からも中学受験はしない方針でした。周りに田んぼや畑しかない田舎暮らしで、小学生の頃は通学の際、本を読みながら歩いていました。両親からはしかられましたが、通学路は車も通らず、信号もない農道でしたから、それほど危ないわけでもありませんでした。読書が大好きになり、週1回、父に図書館に連れて行ってもらい、本を借りるのを楽しみにしていました。『ナルニア国ものがたり』『指輪物語』『ゲド戦記』など、叙事詩的なファンタジーをよく読んでいました。現実離れした物語ばかり読んで大丈夫なのかと、両親は心配していたようです。
       あまりにも内向的なので、中学に入学したとき、私自身はブラスバンド部がいいと思っていたのですが、両親から運動部を強く勧められ、陸上競技部に入りました。長距離走部門に配属され、市の大会にも出場し、結局、高校でも続けました。体が鍛えられたことは良かったのですが、長距離走は孤独に走る競技ですから、社交的になることはなく、両親のもくろみは外れたことになります(笑)。


      TOPIC⁻2
      知識の多さよりも、自分で考えることが大切

      ──どんな中高生活を送られたのですか。
      三浦 今、振り返ると、外の世界から隔絶された生活を送っていましたね。まだインターネットもない時代で、父が新聞を持って出かけるので、新聞を読んだ記憶もほとんどありません。テレビも禁止で、大河ドラマしか見ることを許されませんでした。

      ──テレビ禁止だったのですか。
      三浦 ええ。ニュースすら見ていませんでした。大学教授の父には、ビジネスマンのように日々の社会の動きを把握しなければならないという意識が希薄だったように思います。自宅ですることがありませんから、いきおい読書にのめり込むことになります。そうすると同級生と話が合わなくなってしまいます。周囲からちょっと浮いた存在になり、自分で考え、一人で行動するようになっていきました。

      ──友だちがほしいとは思わなかったのですか。
      三浦 一人だけ親しい友人がいればいいと考えていました。湘南高校時代入学してできた友人は男子でした。イギリス、インドネシア、日本と、3つの民族のオリジンを持つ生徒で、私と同じように変わったタイプだったことが、仲良くなった理由かもしれません。本や映画の趣味も共通していました。とはいえ、映画の感想でも、単にどこが面白かったといったレベルではなく、登場人物に感情移入した上で、人間や恋愛について自分たちなりに深く考察したことを語り合っていました。もともと湘南高校は旧制中学の流れを汲むバンカラな校風で、知識のひけらかし合いを好まず、自分で考えることが重要だという意識が強かった気がします。

    • TOPIC⁻3
      抽象思考の壁を越えるには、ゼロベースで考えることが大切

      ──学習面で力を入れたことはありますか。
      三浦 東大入試の現代文では、「抽象的な論理構成能力」と「筆者の思いを忖度し、汲み取る力」の両方が要求されます。私は比較的得意にしていたのですが、多くの女性が抽象思考を苦手にしがちです。女性はさまざまなことに配慮しながら生きていますから、相手の意思を汲み取る力は優れているのですが、日本を含めた先進国では男性的な表現が正しいとされており、女性は論理的に考え、伝える能力が不足しているケースが多いのです。入試問題の素材文に男性が書いた文章が多いのも問題だと思いますが……。

      ──女性は抽象思考が苦手ということでしょうか。
      三浦 女性だからというジェンダーの問題ではなく、女性自身が抽象思考を選んでいないのです。女性はもともと抽象思考ができるのに、主流になっている男性的な言語体系に一生懸命合わせるのが辛く、具体的な思考に逃げてしまうわけです。

      ──抽象思考の壁を乗り越えるためには何が必要でしょうか。
      三浦 問題を見たときに、ゼロベースで考えるタイプと、暗記した知識で対応しようとするタイプに分かれます。優等生が多い女性は暗記に走る傾向が見られます。けれども、たとえば数学や物理では、単純に公式に当てはめようとするのではなく、ゼロから考えるトレーニングを積んだ方がはるかに力がつきます。現代文も同じで、まっさらな状態で読むことが重要です。もちろん、そのためには相当な読書量が不可欠です。自分にとって違和感のある文章や、人間模様の入り組んだ文章も読み、多様な文章に触れていれば、どんな文章が出てきてもゼロベースで対応できるようになります。

      TOPIC⁻4
      自分の興味を大切にして、多様な分野を研究

      三浦 瑠麗 ──東大時代の思い出をお聞かせください。
      三浦 大学入学後の教養科目で最も興味を持ったのが、日本とイタリアの比較政治の教養ゼミでした。高校で物理や化学が好きだったので、理科1類を志望したのですが、実は私は目に見える分野の方に興味があると気づいた瞬間でもありました。そのため、3年次から農学部に進み、養分の高い土壌を作る方法などを勉強しました。完全に目に見える分野を選択したわけです。指導教員が、土木工学の権威でありながら、住民との合意形成など、文理横断的な研究をされている方だった影響を受けて、卒業論文では、土地改良事業に関わる環境影響評価をテーマにしました。それに伴って、共政策に興味が生まれ、東大の公共政策大学院に進みました。
       文転のため留年と決意した2003年には、イラク戦争が始まり、中高時代にテレビのニュースも見ていなかった私は、バグダッド空襲の映像に衝撃を受けました。この戦争についてもっと知りたいという思いが生まれました。そうして仕上げた博士論文をもとに、2012年に刊行された著書が『シビリアンの戦争-デモクラシーが攻撃的になるとき』(岩波書店)です。

      ──さまざまな変遷を経て、多様な分野を研究されてきたのですね。
      三浦 特定の学問を修めて学者を目指そうという目的意識はなく、自分の興味の赴くままに取り組んできた感じです。自分のために研究しているのですから、教授や先輩にほめられる必要もありません。優等生を目指さずにすみました。ただし、自分のために研究していると、どんどん楽しくなり、皆に伝えたいという欲求も生まれます。今後も、先の著書の続編も含めて、分かりやすい表現で本を執筆し、情報発信していきたいと思っています。

    • TOPIC⁻5
      親の基準を押しつけず、自分の基準で評価させよう

      ──新中学生へのアドバイスをお願いします。
      三浦 中学時代は恋愛に悩み、苦しむこともあるでしょう。その悩みを客観視できるのが恋愛小説、人間模様小説です。できるだけ長い年月、評価され続けてきた小説を読むようにしましょう。きっと救われる面があると思います。自分の頭の中は幻想でいっぱいなのに、現実に出会う男子生徒は即物的で、夢をどう現実に接合していくか、難しい時期ですが、私にとっては読書がとても役に立ちました。「夢への失望」は思春期の大きなテーマですが、夢があったからこそ、現実世界が豊かにもなるのです。また、女性は実家に執着心があり、そこから独立して大人になりたいという気持ちと、逆に大人になるのは怖いというせめぎ合いで悩むこともあります。保守的な生徒は、モンゴメリの『パットお嬢さん』などに助けられる部分があるかもしれません。自分のダークな部分に苦しんだときは、ドストエフスキーなどの人間心理的な小説を読むといいと思います。私は学生から悩みの相談を受けることも多いのですが、読書をしていれば、もっと楽に自身で教えを深められただろうにと感じることは多いです。それぐらい若い時期の読書体験は大切なものなのです。

      ──最後に、保護者へのメッセージをお願いします。
      三浦 反抗期の子どもに対して、「なぜ、できないの?」という問いは厳禁です。これは答えを求めていない問いです。答えを知りたくないのなら聞かないこと。自分が発散したいだけなら言わないことです。私の姑は、息子に対して常に「それで自分は満足しているのか」と問いかけていたそうです。親や世間の基準を押しつけず、自分の基準に照らして、自分で判断させることが大切です。
       それから、中高時代は自分なりの考えをまとめる時期です。とりとめのない話であっても、我慢強くひたすら聞いてあげる姿勢が求められます。その中で子どもの考えはまとまっていくからです。そういうサウンディングボードの役割が果たせるのは親だけなのです。

      三浦 瑠麗さん
      三浦 瑠麗さん(みうら・るり)
      1980年、神奈川県生まれ。東京大学農学部卒業。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了。現在、東京大学政策ビジョン研究センター講師。テレビの討論番組などに多数出演。著書に『シビリアンの戦争-デモクラシーが攻撃的になるとき』などがある。

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