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加熱する医学部人気への警鐘もう一度「適性」を見直そう

医学部の合格者上位に一貫校がズラリと並ぶ

近畿圏
順位設置高校所在地人数
1洛南京都88
2東大寺学園奈良82
3甲陽学院兵庫66
4兵庫63
5四天王寺大阪50
6大阪星光学院大阪44
6西大和学園奈良44
8白陵兵庫43
9洛星京都41
10知辯学園和歌山和歌山40
11膳所滋賀29
12大阪桐蔭大阪23
12高槻大阪23
14清風南海大阪21
15天王寺大阪20
16六甲兵庫18
17清風大阪17
18大手前大阪15
19堀川京都14
19三国丘大阪14

 近年、近畿地区の私立中高一貫校で医学部人気が加熱しています。医学部の合格者上位校を見ると、一貫校がズラリと並んでいるのです〈表参照〉。

 これは、「実」を重視する風土も関係していると考えられます。従来、一貫校の上位層が数多く進学していた東大、京大の理工系学部では、修士課程(2年間)まで進むのが〝常識〟のようになっています。けれども、長引く不景気の影響で、難関大学の修士課程を修了しても、厳しい就職戦線にさらされています。同じ6年間をかけて学ぶのならば、卒業して国家試験に合格しさえすれば、収入も社会的地位も高い医師という職業が保証される医学部の方がメリットが大きいと考える人が増えているわけです。医師国家試験の合格率が平均9割と高く、ドロップアウトの危険性が低くなっていることも、プラス材料になっていると思います。

 また、私立大の医学部では、ここ数年、学費の値下げが一つの潮流になっています。これも医学部人気を加速させる要因になっているのでしょう。

 しかも、近畿圏の受験生は、首都圏の受験生と比較すると、あまり進学する地域にこだわりがありません。自分のセンター試験の得点状況を見ながら、合格可能性の高い国公立大医学部を探して、遠方であってもどんどん受験します。保護者にも、仕送り額がプラスされても、私立大の他学部に進学するよりも安くすむという意識があるようです。

 こうしたことから、近畿圏においては、今後も医学部志望者が増加する可能性が高いと思われます。

医師には文系的な素養も求められる

 もちろん、医学部をめざしたいという気持ちは尊重しなければなりません。けれども、それが必ずしも望ましいことではないのではないかと懸念される問題も生じています。成績がいい、偏差値が高いという理由だけで医学部をめざすと、意外に適性がないケースが見られるようになっているのです。

 たとえば、大学の教員からは、パソコンを相手にしている方が得意なオタク的な学生が増え、患者とのコミュニケーション能力が不足しているという声が聞かれます。最近の医療では、「インフォームド・コンセント」といって、患者への説明責任が不可欠になっています。看護師、薬剤師、理学療法士などと連携を図って治療を進める「チーム医療」も進行しており、円滑な人間関係を構築する力も求められます。

 また、ある病院の医師からは、次のような笑えない話を聞いたこともあります。ほとんどのデータが正常値なのに、体温だけ高い患者を前にして、若い医師たちは「奇病」だと騒いでいたそうです。そこでベテラン医師がアドバイスしたのは「看護師の監視のもとで体温を測る」ことでした。つまり、その患者は仮病だったわけです。そのベテラン医師は「データ」だけを見て「人間」を見ようとしないから、こんなことになると嘆いていました。

 つまり、医師には、数学や理科が得意なだけではなく、コミニュケーション力やチームワーク力、人間を見る力など、いわば文系的な素養も必要になるわけです。

「患者を救いたい」という強い気持ちを持続できるか

 ほとんどの医学部では、入試で面接・小論文を課しており、医師としての適性がある受験生かどうかを見ようとしています。けれども、成績のいい受験生は、事前に面接・小論文に関する情報を入手して、対策を立てているため、大学がきちんと適性を評価しきれていないのが実情です。

 ですから、入試の関門に依存せずに、自分自身で本当に医師としての適性があるのか、改めてじっくり見直してみることが大切です。

 その際、最も重要なのは、心から「患者を救いたい」という気持ちを備えているかどうかです。京大の山中伸弥教授のような研究医は一握りで、大多数は臨床医になるわけで、患者への温かなまなざしが不可欠になるからです。最近の若者は、社会貢献への意識が高く、それは頼もしいことですが、現実の職業として、その意識を強固に維持することができるかが、重要なポイントになると思います。

生の声を聞いて「覚悟」を持ってほしい

 その意識を高めるためには、中高時代から、できるだけ医師の生の声を聞く機会を設けることが必要になります。

 おそらく私立中高一貫校の多くでは、キャリア教育の一環として、現役の医師を講師に招いていると思います。そんなときに、ぜひ積極的に質問するように心がけましょう。

 そうした講演では、医師のいい面だけではなく、救急医療や地域医療、夜間医療など、きわめてハードな現場の状況を聞くことができるはずです。それでも医師をめざそうという気持ちが堅持できるのか、自分自身を見つめ直し、十分な「覚悟」を持って、医学部をめざしてほしいのです。

 相応の「覚悟」ができたら、その思いをぶれないようにすることも大切です。その意味では、周りに医学部志望者が多い学校に入学していれば、お互いに刺激しあうことによって、学びのモチベーションは持続しやすいでしょう。

 一方で、医学部志望者がそれほど多くない学校に進学した場合は、医系専門予備校に通うのも一つの方法です。同じ志を持つ友人ができる効果は大きいからです。

 そのほかにも医系専門予備校を活用するメリットはあります。というのも、とくに私立大の医学部の入試問題は独自性の強いものになっているのです。単に各教科の総合的な学力を高めていただけでは、そうしたクセのある問題に対応できません。少なくとも、高校3年次以降は、志望校の出題傾向を踏まえた対策学習が不可欠になります。志望校が明確なら、入試問題の細かな情報を収集・分析している医系専門予備校に通い、早めに対策学習を進めることが大切になるでしょう。

 また、皆さんが大学受験を迎える頃、入試は大きく変わります。2020年から現行の大学入試センター試験に代わって「大学入学希望者学力評価テスト」が実施されます。教科別の試験だけでなく、複数教科にまたがる出題、今までのマークシートだけの解答から記述式の問題も導入され、受験機会も複数回設けられる予定です。この新テストでは、今までの点数だけでの評価を変えようと狙いがあります。そのため、今後、大学入試も多様化していきます。入試科目だけに絞って学ぶのではなく、中学1年から幅広く学んでおくことが大切になってくることは間違いなさそうです。

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