朝日小学生新聞特別増刊号 WILLナビNext

壁を乗り越えた向こうに新しい景色が待っている

やりたいことに取り組んだ中学・高校時代

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──中高時代はどんなお子さんでしたか。

海堂 自宅が千葉大学の近くで、子どものころは大学のキャンパスが遊び場。親は公務員で、公立の小学校、中学校で学びました。小学校時代は勉強しなくても成績はトップクラスで、クラスの中心としてみんなを引っ張っていくような子どもでした。中学でもそんな調子であまり勉強せずに乗り切りましたが、進学校として知られる県立千葉高校に進むと一気に「普通の人」になりました(笑)。負けず嫌いだったので、「これはおかしい」と思い勉強を始めたのですが、思うように成績は伸びない。「これが俺の力なんだ」と思い知らされましたね。
 だからといって、熱心に勉強に取り組んだわけではありません。高校で始めた剣道にのめり込み、高3の夏休みまでは部活中心の生活でした。引退後に受験勉強を始めたのですが、力不足は否めず、1年間の浪人生活を経て医学部に入学しました。

──医学部をめざされたきっかけをお教えください。

海堂 私はもともと人に興味があり、人間を物理的に学ぶ医学か、精神的に掘り下げていく哲学か、2つの進路を考えました。そのうえで自分の知識・技術を世の中に還元できること、6年間じっくりと学べることなどから医学部進学を決めました。

文系だからといって、医学部進学をあきらめる必要はない

──当然、理系科目は得意でいらっしゃったのですよね。

海堂 いいえ、私自身は文系人間ですよ。好きな科目は世界史と物理、苦手科目は数学でした。

──数学が苦手で、医学部という進路選択は意外ですね。

海堂 医学部=理系というのは誤解です。もちろんロジカルな考え方は大切ですが、これは理系の知識ではなく、論理学と言っていいでしょう。
 実際に臨床医として患者さんに接したときに必要なのは〝ことば〟。相手の話をじっくり聞いて症状を判断し、改善のための方法を探る。わかりやすいようにキーワードをちりばめながら患者さんに説明する。症状にあわせて適切なアドバイスを行い、納得してもらう。それができなければ医者として信頼してもらえません。
 ですから、「自分は文系だから」と医学部進学をあきらめる必要はないと思います。ただし、入試を突破するためには、数学をはじめとする理系の力は必要です。そして、受験勉強に取り組むことは決して無駄にはなりません。

──受験勉強のメリットとは何だと思いますか。

海堂 「勉強の仕方」を学べることですね。限られた時間の中で、どう効率良く知識を自分のものにするか。人の集中力には限界がありますから、がむしゃらにやったからといって、見当外れの努力をしても結果には結びつきません。やるべきことの優先順位と方法論を身につけ、手を抜くときは手を抜く。そうしたノウハウを身につけられるのが受験勉強だと思います。
 これは壁にぶつかったときの乗り越え方と言ってもいいと思います。生きていくうえで、人にはいろいろな壁が立ちはだかります。そのときの選択肢は、逃げるか、何とかして壁を乗り越えるかしかありません。そして、その先のステージに進むことで新たに見えてくるものもたくさんあります。イヤイヤながら壁に向かうのではなく、やるべきことを整理し、優先順位を決めてものごとに取り組む。こうしたスキルを身につけていれば、先に進むことも容易になるでしょう。そして、それは人間としての成長につながるはずです。

「いつか書ける」と挑み続けた結果がひとつの物語に

──小説を書くきっかけや経緯をお教えください。

海堂 「人は誰でもいつか、1冊の本を書くことができる」ということばがありますよね。誰にでも人と違う経験が必ずあるはずだから、それを題材に物語を書けると。テレビかラジオだったでしょうか、小学生の頃にこのことばを聞いて、「自分もそうしたいな」と思ったのがきっかけでした。高校や大学時代にも物語を書こうと思ったのですが、4~5枚書いては行き詰まるといった状態。だからといって「あきらめよう」ではなく、「まだ書けない。〝いつか〟が来ていないんだ」と考えていましたね。もちろん、ものを書くことを職業にしようとは思ってもいませんでしたから、医師の仕事にも責任を持って取り組みましたし、仕事に追われているときには、「書いてみよう」という余裕もありませんでした。
 大学院に戻り研究にいそしんでいるときも、書くことを何度か試みたのですが、やはり5枚くらいまでで進まない。一方、当時私はAi(死亡時画像病理診断)の概念を提唱し、その適切な社会導入を訴えていたせいか、ふと、この新しい診断技術を活かしたトリックを思いついたのです。Aiの重要性を社会に広く知ってほしいという思いも強く、「これを使えば小説になるな」と。この2つが潜在意識の中にあったのでしょうね。そうしているうちに、自分でもなぜだかわかりませんが、ある日突然、小説が書けたんですよ。そのときは「ひとつの物語が書けた」ことで満足したのですが、その後もどんどん書けるようになって・・・・・・。多分自転車に乗るのと同じで、一度乗れたらその後は特に意識しなくても乗り続けられるようなものなのかもしれません。そのことを身を持って体験したというのが実感ですね。

──作家と呼ばれることに抵抗がおありになるそうですが・・・・・・。

海堂 若い頃から作家をめざして・・・・・・というわけではありませんでしたからね。自分はずっと〝物書き〟だと思っていました。自分の伝えたいことをどうやったらより多くの人に伝えられるか、その方法のひとつが物語だったわけです。実際、医師として働いている中で広く伝えたいこと、知ってほしいことはいくらでもありますし、文章を書けない人はいませんから、特別なことをしている意識はありません。といっても、なかなかわかってもらえないので、周囲の方たちが、もう立派な作家ですよと言うので「10冊書いたら作家と名乗ります」と公言しました。デビュー3年目で、10冊を超えてしまったので、以後は照れずに作家と名乗っています(笑)。

ことばを大切にしながら真摯に人と向き合う

──医師と作家の共通項があればお聞かせください。

海堂 「ことばを大切にする」ということですかね。どうすれば言いたいことが相手に伝わるかを意識することが大切です。医者として患者さんに接する場合は双方向のコミュニケーションになり、小説の場合はタイムラグや人によって受け取り方が異なるといった違いはありますが、自分の発したことばに責任を持つという点は同じですし、やってきたことを社会に還元したいという気持ちも共通していると思います。

──医者に必要な資質とは、どういうものでしょうか。

海堂 かなり大きな言い方をすると〝人類愛〟。人が好きで、困っている人を助けてあげたいという気持ちですね。医者は責任が重く、残業も多い厳しい仕事ですから、強いアイデンティティがなければ続けられないと思います。
 一方で完璧な人間はいませんし、人それぞれ大なり小なり問題を抱えているはずです。自分の弱点・欠点を自覚し、それを改善しようという努力、常に進み続ける医療の現場で「患者さんのため」にどれだけ努力できるかが大切だと思いますね。

──最後に、これから中学に入学する子どもたちに向けてアドバイスをお願いします。

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海堂 医者は人間を相手にする仕事で、総合的な能力が問われます。小・中・高で学ぶこと、経験することで無駄になることはひとつもありません。ですから、しっかり勉強すると同時に、「やりたいことをやりたいようにやる」ことを心がけてほしいですね。
 私も、そのときにやりたいこと、やらなければならないことの繰り返しでここまできたような気がします。遊ぶときは徹底的に遊ぶ。勉強するときは集中して勉強する。壁にぶつかったときは、なんとかして乗り越えようと努力する。すべてが思い通りになったわけではありませんが、経験してきたことすべてが今の自分の糧になっていますね。ですから、皆さんも「こうだ」と決めつけないで、興味のあることにどんどん取り組んでみてください。そのときは無駄に思えたことも、いつかきっと役に立つことがあるはずですから。

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