朝日小学生新聞特別増刊号 WILLナビNext

ひとつの分野だけに特化しない「ルネッサンスマン」をめざそう

知的意欲を満たすために多彩な課外活動に参加

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──アメリカの中高時代の思い出をお聞かせください。

パックン アメリカの小学校は、4年生まで全員同じクラスで1日を過ごしますが、5年生からは一部でレベル別の授業がスタートします。中学校ではそれがより本格的になり、1時限ごとに先生も教室も変わり、自分に合ったクラスで授業を受けます。また、中学校では、2~3科目だけですが、興味のある科目を受講できる選択制の授業も加わります。
 僕は幅広い分野に興味があり、選択科目が2~3科目しか受けられないのが不満でした。自分の知的意欲を全部満たしたいと考えて、課外活動にも積極的に参加しました。言語はフランス語、ドイツ語、スペイン語を勉強しましたし、選択授業は吹奏楽を受講しました。さらに、その裏コマに設けられていた合唱の授業も受けたくて、昼休みをつぶして合唱団に参加したほどです。スポーツも大好きで、最も興味があったのが体操でした。しかし、学校には体操の授業がなかったので、街の体操クラブに所属しました。クラブの活動費は新聞配達のアルバイトをして捻出していました。

──いろんな分野を貪欲に学びたいタイプだったのですね。

パックン そうです。フィクション、数学、科学などのコンテストやコンクールにも積極的に応募して、入賞したこともあります。とても忙しい学校生活でしたから、現在の仕事のスケジュールは楽に感じるくらいです。

──多様な分野に興味が生まれたのには、何かきっかけがあったのですか。

パックン 小学校3年生のとき、「Talented & Gifted」という、いわば優等生特別学級に参加したことがあります。近隣のいくつかの小学校の優等生が集まって、パズルゲームや、パソコンのプログラミングなどを楽しむ活動です。その際、先生に「ミケランジェロやダ・ビンチなど、ルネッサンス時代に世の中を変えた偉人たちは、ひとつの分野だけに特化していたわけではなく、芸術、哲学、科学すべてに精通していた。複数の言語も操れた。そんな何でもできるルネッサンスマンが最高だ」と教えられ、衝撃を受けました。それからは「自分もルネッサンスマンをめざそう」という思いを心に刻み込んできました。それを伸ばしてくれるアメリカの教育制度も、僕には合っていたと思います。

──学校の成績はどうでしたか。

パックン 中学・高校を通して「オールA」です。どの教科も好きでしたが、とくに数学は得意で、日本のセンター試験に当たるSATでは1問ミスしただけでした。

課外活動の実績も評価されるアメリカの大学入学制度

──ハーバード大学をめざした理由は何ですか。

パックン アメリカの大学入試は、「高校の成績」「SATのスコア」「面接」「課外活動の実績」の4つで総合評価されますが、僕は成績もSATのスコアも悪くなかったし、課外活動の実績が強みでした。吹奏楽団、合唱団、ジャズバンド、板飛び込み部、陸上部、バレーボール部、模擬裁判クラブ、模擬国連クラブ、スペイン語クラブと、課外活動の実績が圧倒的に高く、どの大学にも入れる自信を持っていました。ボランティア活動も評価の対象になるので、週1回、ホームレスに無料で焚き出しを行う「スープ・キッチン」にも参加していました。ですから、どこでも入れると思ってネームバリューのある大学4校に出願することにしました。結局、受かったのがハーバード大学だけだったんですけど。

──日本の大学のように学科試験だけを重視するのではなく、日頃の活動歴を評価するアメリカの入学制度は良いですね。

パックン そう思います。もちろんSATの点数がかなり高ければ、課外活動はそれほど要求されません。けれども、同程度の点数ならば総合力を評価すべきです。

新しいものに生まれ変わらせてアウトプットする力が重要

──ハーバード大学時代は、どんな学問を学ばれたのですか。

パックン 比較宗教学部に入り、5大宗教と呼ばれるユダヤ教、キリスト教、イスラム教、仏教、ヒンズー教の基礎を学んだ後、イスラム教とキリスト教に絞って専門的に研究しました。最終的には「クー・クラックス・クラン」という白人至上主義団体の宗教的象徴の操り方をテーマとした論文を仕上げました。ただし、テーマがたまたま宗教だったというだけで、ハーバード大学の学びの本質は、インプット、アウトプットの技法を身につけることにあったと感じています。単に情報を収集してインプットするだけでなく、自分の中で処理・消化して、新しいものに生まれ変わらせてアウトプットしなければ、アメリカの大学では評価されません。既存の知識の内容をまとめるだけでは、せいぜいBの評価しかもらえず、A評価を得るためには、知識をもとに自分はどう考え、発展させることが重要なのです。

マルチタレントの立場が僕のライフワーク

──大学卒業後、来日されたわけですが、どのような経緯からですか。

パックン 大学卒業後、広島に留学経験のあった中学時代からの友人が日本にまた行くことになり、一緒に行かないかと誘ってくれました。冒険心もあって、その誘いにのって来日し、福井で英語講師をしながら、アマチュア劇団にも所属しました。実は、父がアマチュアの演出家で、空軍アカデミー演劇部などで演出を務めていたため、僕も6歳で初舞台に立ち、小学校から大学まで演劇部に所属していたからです。映画スターになることがひとつの夢でしたが、ハリウッドには僕と同じような顔の俳優はいっぱいいます。目立つためには日本のほうがいいと思い、上京することにしました。しばらくはモデル、DJ、声優、エキストラなどをしていましたが、爆発することはありませんでしたね。1996年にマックンと知り合い、お笑いの間や言葉づかいは俳優の勉強にもなると考えて、コンビを結成することにしたんです。

──今後の目標は何ですか。

パックン これまでの仕事の流れは、とても恵まれていたと感じています。司会業、コメンテーターなど、新しいチャレンジの機会が与えられるたびに、楽しみながら全力で取り組んできました。今後もマルチタレントという立場が僕のライフワークになると思います。もちろん、映画の夢も捨ててはいません。これまで「名探偵コナン」で声優をやりましたし、ドラマでも大きな役をいただきました。いつかは映画にも出演したいと考えています。

英語を身につければ思考回路が増える

──最近刊行されたコミュニケーションのノウハウ本「ツカむ!話術」が好評を博しています。異文化の中でコミュニケーションを図る楽しさはどんなところにあるとお考えですか。

パックン 僕は学ぶことが好きなのですが、外国で活動していると、ずっと生徒でいることができます。生徒という立場はハードルが低く、少しできただけで「すごい」とほめてもらえます。来日してもう21年も経つのに、いまだに「日本語がお上手ですね」と言われることもあります。それほどハードルが低いので、皆さんもぜひ積極的に海外に出かけてほしいですね。異文化で過ごすと、日々新鮮な刺激があります。3日に1回はまったく知らなかったことに出会い、ずっと学び続けることができることが、外国で過ごす大きな魅力です。

──グローバルな社会で生きていくために、中高時代に身につけてほしいことをアドバイスしてください。

パックン まずは英語の習得が不可欠になります。英語を身につけることは、言葉を通してさまざまな人々と触れ合えるだけでなく、思考回路が増えるという点で意義が大きいのです。英語と日本語では、お互いに存在しない表現があります。たとえば、アメリカには「遠慮する」にぴったりはまる言葉はありませんし、「わび・さび」「切ない」なども日本独特の表現です。そうした言葉の概念を覚えると、脳のシナプスがひとつ増えていくと思います。

──英語講師のご経験もあるわけですが、有効な英語学習法はありますか。

パックン 友だち同士、英語でふざけ合うといいでしょう。外国人相手でないと英語の練習にならないと思い込んでいる日本人が多いようですが、それはナンセンスです。僕がよく使う例えは、「錦織圭選手が相手でないと、テニスの練習ができないというのはおかしい」ということです。テニスがうまくなりたいなら、同じレベルの仲間同士で練習すればいい。たまにプロと対戦するだけでいい。いつもプロが相手でないとダメということはないのに、英語になると相手がネイティヴでないと上達しないと考えるのはまちがいです。
写真2 もう一つ、外国人と接するときに重要なのは、恥を「捨てる」ことと「生かす」ことです。大胆さと謙虚さの両方が求められるのです。まずは積極的に話しかけてみましょう。それで間違ったら、もっと学べばいいだけです。僕もそうでしたが、中高生にありがちな「自分は知っている」といった思い上がりは捨てて、謙虚に学ぼうとすることが上達の近道なのです。

──最後に、保護者へのメッセージをお願いします。

パックン 僕には5歳と7歳の子どもがいますが、日頃から心がけているのは、子どもに対しても、自分に対しても「許し」の気持ちを大切にしようということです。子どもが明らかにまちがった行動をとったら叱ってもかまいませんが、大人の常識を押しつけてはいけません。早く許すことが肝心です。そして、怒りすぎた自分も許しましょう。自己嫌悪に陥って自分を責め続けていたら、家庭は暗くなるだけです。寛大な心で許し合って、楽しく明るく生きることが大切だと思います。

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