
─私立 中高一貫校がいま、考えていること─

早稲田実業学校中等部・高等部は、早稲田大学の学風に基づいた中等教育の実現をめざし、1901年に大隈重信によって設立されました。校是に「去華就実」を、校訓に「三敬主義」を掲げ、「豊かな学識と表現力」「次世代のタフなリーダー」「伝統の継承」を柱とする“SOJITSU PRIDE”を持った若者の育成をめざしています。
このコロナ禍では、2年連続で文化祭がオンライン開催となりました。あらかじめ撮影しておいたクラブ発表やクラス発表の様子を、オンライン上に設けた2つのチャンネルで配信。登校した生徒たちは学校の教室やホールから、在宅中の生徒や保護者の方には自宅から視聴してもらいました。
この試みを実施して非常に良かったのは、グループによって「オンラインでしかできないことをやろう」という発想と、「従来やってきたことを、オンラインに合う形にしよう」という発想に分かれ、それぞれに工夫を凝らしてくれたことです。どちらの発表も秀逸でしたが、見ていてわくわくするのは、新しい試みに果敢に挑戦する生徒たちの姿です。オンライン開催という条件を前向きにとらえ、より良いものを作ろうとがんばってくれたグループに「校長賞」を授与しました。
一般的に、文化祭や体育祭のようなイベントでは、中心的な立ち位置で盛り上がる生徒と、彼らをサポートする生徒、というように、コミットの濃淡が分かれてしまうものです。しかし、この2年間は、いつもは支える側に回る生徒たちもそれぞれの得意分野を生かし、中心的な役割を担ってくれました。今年の文化祭からは、少しずつ従来の対面形式に戻していこうと考えていますが、そうした生徒たちの良い面を、いかに継続して引き出すことができるかが課題だと思っています。コロナ禍で得たものを、従来の慣習に織り込み、新しい形に変えていく―。これこそが、アフターコロナと呼ばれる新しいフェーズに必要なことだと考えています。

イギリスのラグビー校、スタムフォード校での1年間の海外研修については、コロナ禍にあっても滞りなく生徒を送り出すことができました。しかし、短期の海外研修や、海外での単独研究旅行を希望する高等部生に補助金を付与する「寺岡静治海外交流補助」、一昨年からスタートする予定だったイギリスのイートン校・ハロウ校のサマースクールは中止に。その代わり、オンライン上で代替のプログラムを用意するなどして対応しました。今年は、予定より2年遅れてしまいましたが、イートン校のサマースクールを開始するほか、チェルトナムカレッジとラグビー校で学ぶサマーコースも再開します。コロナ前の規模に戻すには時間がかかるかもしれませんが、ほかの研修も徐々に再開していきたいと思っています。
本校では、今年度から、中等部・高等部の生徒全員が1台ずつ、タブレット端末を持つようになりました。ICT環境の充実により、課題の配信や提出などの利便性が向上する一方で、これまで対面で培ってきた人間関係のノウハウを、コロナ禍以後に入学した生徒たちの中でどう再構築していくか、難しい点があると感じています。本来、中高時代とは、友人と自由に語り合い、スキンシップを取り、互いの距離を探りながら成長していくべき時期です。この2年間で、そうした機会が失われてしまったことは、学校教育としては大きな痛手でした。しかし、コロナ禍という特殊な環境にあっても、生徒たちは確実に成長しています。その成長を温かく見守り、今まで以上に生徒たちと向き合うことが必要だと感じています。

もう一点、今年度からの試みとして、「学習支援室」を設置しました。これは、環境の変化についていけない生徒や、対人関係の悩みを抱えている生徒など、大勢のクラスメイトと同じ教室で学ぶのが難しい生徒を支援していくための取り組みです。もちろん、中等部から高等部に進級する際には、一般の生徒と同様に、一定の水準をクリアする必要がありますが、どんな事情を抱えた生徒であっても、一人ひとりが居心地の良い環境で学習できるように、学校全体でサポートしたいと考えています。
また、今年度の高等部入学者から、高2・3で、少人数ゼミと卒業研究がスタートします。探究型の学びをとおして自分の興味を掘り下げ、自分の進みたい分野を明確にしたうえで、大学に進学してもらうことが目的です。生徒たちは、部活動や委員会といった日々の課外活動の中で、試行錯誤を繰り返しながら、現状を改善する努力をしています。それと同じサイクルを、少人数ゼミや卒業研究という場でも実践してもらおうというわけです。正規授業と課外活動の両輪で、何事にも臆せず立ち向かっていくチャレンジ精神と、その土台となる豊かな知識を養いたいと思っています。
先行き不透明な時代において、私たちが育てたいのは、たくましい心を持った若者たちです。長い人生、いつどんな困難に直面するかわかりません。今回の新型コロナウイルスの猛威のように、予測できない問題が突然降りかかるものです。大切なのは、困難な状況におかれても挫けることなく、問題としっかり向き合い、多くの人と協力して課題を解決できる力を身につけておくこと。生徒たちにはそういう人になってほしいですし、そういう人を一人でも多く育てることが学校教育の責務だと考えています。
中学受験に関しても、できる限り子どもが主体となって問題を解決していくのが理想といえます。子どもたち自身が納得して自分の進路を切り拓いていけるように、保護者の皆さんは、手を貸したい気持ちをぐっと抑え、お子さんのがんばる姿を静かに見守っていただきたいと思います。

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