WILLナビ:よみうりGENKI 次代を担う人材を育てる中高一貫校特集
次代のリーダーに求められる力とは
─私立 中高一貫校がいま、考えていること─
  1. 共に学び合う機会を重視。対面にこだわったコロナ禍2年目
  2. コロナ禍で失った生徒の輝く場。さまざまな取り組みでカバー
  3. 独自の「T-STEAM」プログラムで、未来を創る生徒の挑戦を後押し
共に学び合う機会を重視。生対面にこだわったコロナ禍2年目
1日の始まりとして毎朝行われる運針
 

 豊島岡女子学園中学校・高等学校は、1892年に設立された東京女子裁縫専門学校を前身に持つ女子の中高一貫校です。教育方針は「道義実践」「勤勉努力」「一能専念」。毎朝5分間、約1メートルのさらし布を赤い糸で黙々と縫い進めていく「運針」で集中力と努力の大切さなどを学ぶ特色ある女子教育で、「志力(しりょく)を持って未来を創る女性」の育成に力を入れています。
 コロナ禍では、対面授業や学校行事を従来と同様に実施することはできず、生徒たちは仲間と同じ時間を過ごす経験や、共に学び合う機会を失ってしまいました。私たちはそうしたことを重く受け止め、昨年度はオンライン授業という選択をせずに、対面での学びにこだわりました。友だちと毎日顔を合わせて、安心した様子で学習に取り組む生徒たちの姿を見ると、コロナ前の風景を少しずつ取り戻しているように感じます。
 本校が重視しているのは、生徒たちが社会に出たときに自信をもって活躍できるための学びです。社会に出れば、苦手な人ともチームを組んで、仕事に取り組まなければならない場面もあるでしょう。働くうえで、他人との協働を避けることはできません。そのため、本校では、あえて独りでは解決できないような難しい課題を与え、グループ内の意見交換を促すことで、意図的に「共に学び合う機会」を設けるようにしています。
 たとえば、高校1年生の情報Iの実習では、教員がランダムに生徒を指名して小グループをつくり、「豊島岡にイノベーションを起こそう」と学校生活で不便に感じる問題を、IoTにより解決するシステムを作成するというテーマを与えます。校内を歩き回りながら考察する生徒たちに、「このテーマ、少し難しいけど理解できた?」と話しかけてみると、ある生徒は「自分独りだったらあきらめていたけれど、グループの仲間と一緒に考えたから理解できた!」と答えました。私たちが伝えたいのは、まさにこうした経験の大切さです。「独りでは難しいことでも、誰かと一緒に協力すれば解決できる」ということを、身をもって学ぶには、対面の形で、同じ課題や時間を共有することが重要なのだとあらためて痛感しています。

コロナ禍で失った生徒の輝く場。さまざまな取り組みでカバー
東京芸術劇場大ホールで行われた「創立130周年記念演奏会」
 

 コロナの影響で、校外での大会やコンクールが軒並み中止になってしまったことも、生徒たちの学校生活に大きな影響を与えました。従来であれば、そういった外部のコンクールなどは、生徒たちの目標となるべきものです。しかし、そうした努力の成果を披露する場がなくなってしまったのです。「このままではいけない」と危機感を抱いた私たちは、代わりとなるさまざまな取り組みを考えました。
 その一つが、「創立130周年記念演奏会」です。本校は今年5月に創立130周年を迎えました。そのお祝いとして、楽器演奏やステージ発表などを盛り込んだ全員参加のイベントを企画したのです。それに合わせ、130周年記念グッズも生徒たちの手で制作。それぞれ自分の得意なことを生かし、一丸となって盛り上げてくれました。
 演奏会では弦楽合奏、吹奏楽、コーラスの三つのクラブで編成したオーケストラ演奏のほか、琴部や桃李(とうり)連(阿波踊り部)のステージも披露。それを客席から見ていた生徒たちは、「鳥肌が立った」と一様に感激していました。また、舞台に上がった生徒たちも、「こんな大勢の人前で発表するのは初めてだったので、貴重な経験になった」と振り返っていました。
 いくらオンラインで、いろいろなことが遠隔でできるようになったといっても、生演奏ならではの迫力や緊張感、そこから生まれる感動は、画面上では味わえません。この2年間、桃李祭(文化祭)は来場者を入れずに開催してきましたが、今年こそ、保護者の方や受験生などにも見に来てもらえる形にし、もう一度あの感動を味わえる場を工夫してつくりたいと思っています。

独自の「T-STEAM」プログラムで、未来を創る生徒の挑戦を後押し
今年の6月に行われた「T-STEAM:Jr」のようす。製作した落下物をいかに時間をかけて落とすかを競う
 

 本校は医学部をはじめ、理工系分野への進学を志す生徒が多く、今春の合格実績では理学・工学系に25.9%、医学部医学科に16.5%が合格。2018年度からスーパーサイエンスハイスクール(SSH)の指定を受けるなど、理数教育も充実させています。
 たとえば、「T-STEAM(ティースティーム)」と名付けた独自のSTEAM教育では、中学生向けの「T-STEAM: Jr」と、さらなる高みをめざす希望者向けの「T-STEAM: Pro」を設定。「T-STEAM: Jr」では「ゆっくり真っすぐ落ちるものを作る」「風力で走る車を作る」、「T-STEAM: Pro」では「水上で姿勢を制御する」など、それぞれのテーマに沿ったモノづくりをチームごとに行い、コンテスト形式で競います。
 ちなみに、「T-STEAM: Pro」の今年度のテーマは「筋電義手」。筋肉から受け取った電位で義手を動かす技術のことですが、どのように動かすかは生徒たちのアイデア次第。校内だけにとどまらず、男子校を含む近隣の学校のほか、関西の学校からもエントリーを募っており、生徒たちには、自分たちにはない新しい視点から、さまざまな刺激を受けてほしいと願っています。
 本校は生徒それぞれが好きなことを持ち、お互いにそれを認め合っている学校です。そんな雰囲気が、さまざまな学びに挑戦する生徒たちの背中を後押ししているのかもしれません。中学受験に挑戦する皆さんは、ぜひあこがれの学校に通っている自分の姿をイメージしながら勉強に励んでください。あこがれの学校はいくつあっても構いません。「この学校じゃなくちゃ絶対にだめ」ではなく、「この学校もいいな」「あの学校もいいな」と欲張っていいのです。そして、来年の4月にはその姿が現実のものとなるよう、皆さんの健闘を祈っています。

これからの時代に求められる人材像─中高一貫校で育む力─ 早稲田大学系属早稲田実業学校中等部・高等部 校長 村上 公一 先生 豊島岡女子学園中学校・高等学校 校長 竹鼻 志乃 先生 麻布中学校・高等学校 校長 平 秀明 先生