WILLナビ:よみうりGENKI 次代を担う人材を育てる中高一貫校特集
次代のリーダーに求められる力とは
─私立 中高一貫校がいま、考えていること─
  1. 生徒たちの工夫によって、コロナ禍でも学校行事を実現
  2. 「コロナ会議」で方針を決定。その背景には創立者の精神が
  3. 私立中高一貫校の良さは、生徒の成長を見届けられること
生徒たちの工夫によって、コロナ禍でも学校行事を実現
例年2万5000人が訪れる文化祭は、麻布の自治活動のなかでも最大のイベント
 

 麻布中学校・高等学校は、旧幕臣で教育者の江原素六によって1895年に創立された、男子の完全中高一貫校です。自由闊達・自主自立の校風の下、物事を自主的に考え、判断し、知性と感性を兼ね備えた自立した人物の育成をめざしています。
 新型コロナウイルスの感染拡大で、政府から休校要請が出された一昨年春、当時はまだ感染症に関するデータも少なかったため、強い危機感を持って対応しました。他校が登校を再開した6月以降も、本校では登校日を週1回にとどめ、9月になってようやく一斉登校を許可。部活動は取りやめました。また、春の文化祭は秋に延期し、従来の3日間から2日間に短縮して生徒と保護者のみに公開し、秋の運動会や修学旅行などの学年行事は中止しました。
 春には休校を喜んでいたにもかかわらず、9月に久々に全校生徒が登校してきたときの、生徒たちの明るい表情は忘れられません。勉強だけなら独りでもできますが、学校を介した同級生や先輩、後輩、教員たちとの交流は、この年代の子どもたちには何事にも代えられない貴重な経験になります。生徒にとって学校とは、家庭と同等の大切な居場所なのだということがよくわかる出来事でした。
 昨年度はコロナの大まかな対処法がわかってきたことや、ワクチンが普及してきたことから、できる限り従来の体制に戻しました。文化祭では、予約制で一般の見学を受け付ける代わりに、教室内が密にならないよう、QRコードで部屋の滞在人数を把握する仕組みを生徒たちが考案。運動会も生徒たちがルールを再考し、名物競技である騎馬戦は取り止め、接触を回避する競技を実施しました。
 受験生向けの学園説明会も、オンライン開催に切り替えました。時間と場所を問わずに視聴いただけるようになった一方、「一度も来校の機会がないのはいかがなものか」ということで、一昨年からは予約制の学校見学会を設けています。多くの受験生が本校をよく研究したうえで見学会に参加してくれているので、たいへんうれしく思っています。

「コロナ会議」で方針を決定。その背景には創立者の精神が
一昨年は、6月以降に再開された対面授業も、当初は通常の半分の人数で行われた
 

 コロナに関する学校の方針は、校内に立ち上げた「コロナ会議」で決定しました。衛生管理者の先生を中心に、「ウイルスの特性を踏まえてどう対策すべきか」「感染リスクをどこまで許容するか」について議論を重ねたのです。ケースによっては本校と都の方針が異なることもありました。しかし、われわれには議論に基づく根拠がありましたので、生徒や保護者の方にも「麻布ではこうします」と、自信を持って発信できたと思います。
 こうした本校の性格は創立者である江原素六の影響が大きいかもしれません。彼はいわば明治維新の“負け組”でした。幕府軍の若き指揮官として戦った戊辰戦争で負傷し、命からがら沼津に逃れ、そこから教育者に転身しました。薩長藩閥政治に対する反発心も強かったと思います。彼の、権威や権力に追従しない、官であることを潔しとしない気概のようなものは、地下水のような形で、今の麻布にも脈々と息づいています。
 毎年、新入生には麻布文庫『江原素六の生涯』を配り、感想文を書かせています。「敬虔なクリスチャンなのに、麻布を宗教系の学校にしなかったことに驚いた」「麻布の創立者が女性解放運動に尽力していたとは知らなかった」など、さまざまな反応が返ってきます。本校には髪の毛を染めたり、気ままな服装をしたりする生徒もいますが、「これまではそういうことが自由だと思っていたが、本当の自由の意味がわかった」と書いてくる子もいます。入試に合格したから麻布生になるのではなく、創立者の生涯を知ることで真の麻布生になるのです。
 私学の良さは各校に創立者がいて、その人物にひもづく建学の精神があることです。私学を志す受験生の皆さんには、志望校の出発点をよく調べたうえで、自分と共鳴する部分があるかどうかを確かめてほしいと思います。

私立中高一貫校の良さは、生徒の成長を見届けられること

 中高一貫校の教員としての最大の喜びは、小学生のように頭のてっぺんから高い声を出していた中1の生徒が、わたしの身長を追い越し、ひげが生え、大人びた姿で高校を卒業するまでの6年間の成長を、継続的に見届けられることです。あるいは、在学当時はやんちゃだった生徒が、スーツを着て、就職の報告に来てくれたときなどは涙が出るほどうれしい。
 わたしにとって、生徒たちは“1800人の息子”です。「大学に合格したから終わり」ではなく、社会に出て、世の中に貢献し、家庭を持ち、次世代を育むことを通して、豊かな人生を歩んでほしいと願っています。そして、生徒たちにとっても、卒業後しばらくして振り返ったときに、「中学高校時代は楽しかった」と思ってもらえる場所であり続けたいと思っています。
 中高6年間のうちには友だちと衝突したり、けがをしたりと、さまざまなトラブルが起こります。しかし、そうした失敗を通して「こういうことをしたら相手が傷つく」「こうしたことは冗談でも言ってはいけない」という学びを重ねていくわけです。中学・高校は社会に出てから大きな失敗をしないよう、小さな失敗を繰り返すための練習場でもあるのです。
 友人と勉強する楽しさや、語り合う喜びは、学校という場があってこそ得られるのだということを、このコロナ禍は教えてくれました。万全の感染対策でお待ちしていますので、受験生の皆さんはぜひとも健康に気をつけて、入試日を迎えてほしいと思います。

これからの時代に求められる人材像─中高一貫校で育む力─ 早稲田大学系属早稲田実業学校中等部・高等部 校長 村上 公一 先生 豊島岡女子学園中学校・高等学校 校長 竹鼻 志乃 先生 麻布中学校・高等学校 校長 平 秀明 先生