WILLナビ:よみうりGENKI 次代を担う人材を育てる中高一貫校特集
次代のリーダーに求められる力とは
─私立 中高一貫校がいま、考えていること─
  1. 普通部教育を象徴する「労作展」と「目路はるか教室」
  2. 休校によるオンライン授業でも、自ら考えることを重視
  3. 教育のICT化が進んでも、大切にしたい「相対」の授業
普通部教育を象徴する「労作展」と「目路はるか教室」
労作展覧会(労作展)では、生徒たちが自分でテーマを見出し、考え、感じ、作り上げた作品が一堂に会する
 

 1890年、慶應義塾に「大学部」を設置する際、従来の課程をまとめて「普通部」と呼ぶことになりました。これが本校の始まりです。総合的な判断力や深い教養を重んじる本校の課程こそ、慶應義塾がめざす教育の基本姿勢そのものといえます。
 そのような本校の教育を象徴するのが「労作展」と「目路はるか教室」です。
 自ら学ぶことを実践する「労作展」では、美術、技術・家庭、書道などの作品や、各教科の研究論文、小説などを製作し、夏休み明けに提出します。テーマの設定は自由で、計画や作業は自ら考え取り組みます。レポート用紙100枚に及ぶ理科や社会科の研究、オリジナルの長編小説など、長い時間と労力をかけて作り上げた作品が並びます。毎年テーマを変える生徒もいれば、3年間同じテーマについて深く掘り下げる生徒もいるなど、取り組み方は人それぞれです。
 自分の選んだテーマに真剣に向き合うと困難に直面することもありますが、その困難に立ち向かい乗り越えようとする経験が実はとても貴重です。自分の好きなことに全力で打ち込み、試行錯誤し、それが評価される体験は、生涯の糧となるはずです。
 一方、「目路はるか教室」は、様々な業界の第一線で活躍する卒業生を講師に招いて行う特別授業です。学年別の「全体講話」と、20~30名ずつに分かれて希望の授業を受ける「コース別授業」があり、コース別授業では先輩の職場で約3時間、たとえば工場やテレビ局の見学、会社での最先端の手法など様々な体験ができます。一番大事なのは「社会の先導者」の先輩が後輩へ伝えるメッセージです。将来自分は何をして、どういう人間になりたいのか、イメージを描くことができる機会になります。先輩と後輩の人間交際が行われ、愛校心あふれる先輩の熱いメッセージが普通部生の心を揺さぶります。
 今年は、新型コロナウイルス感染症の影響で、全てを例年どおりに実施することは難しいかもしれません。しかし、これらの行事を楽しみに入学している普通部生のために、形をかえながら実現したいと思っています。

休校によるオンライン授業でも、自ら考えることを重視
1998年の普通部百年を機に始まった「目路はるか教室」。各界で活躍する卒業生が、後輩たちに自身の体験談を熱く語る
 

 本校では、新型コロナウイルスの感染リスクを考慮し、3月から休校措置を取りました。生徒たちには、休校前にGoogle Classroomのアカウントを付与していたため、比較的スムーズにオンライン授業に移行することができたと思います。一口にオンラインといっても、アップロードされた授業動画を、生徒が自分のペースで繰り返し見ることができる「オンデマンド型」と、教員が生徒たちに向けて一斉に動画を配信する「リアルタイム型」に分けられますが、本校では視聴する時間や環境に左右されないオンデマンド型を採用しました。とはいえ、教科によっては「質問アワー」を設け、決められた時間に質問を受け付けたり、教員との対面のコミュニケーションを絶やさないよう、オンラインホームルームを行ったりと、部分的にリアルタイム型の良さも取り入れながら、生徒にとって最適な方法を模索しました。
 具体的には、たとえば理科の授業では、実験動画を配信し、「この後どんな現象が起きるか」「なぜそう思うのか」といった予測や考察をまとめさせる課題。美術の授業では、登校再開後の授業で描く作品の下絵に取り組む課題などが出されました。オンライン授業が始まったばかりのころは、生徒が問題を解く形が主でしたが、授業解説動画の配信や、提出物で評価できる課題レポートなど、次第に自身の思考力や表現力を問う、本校らしい課題のスタイルにシフトさせることができました。これらは、休校中週に1度会議を行い、学年、教科で情報交換をして、課題配信がどうあるべきかを、模索し続けた教員の工夫によるものだと思います。

教育のICT化が進んでも、大切にしたい「相対」の授業

 本校でも生徒全員にiPadを持たせることが決まりました。並行して、文部科学省が推進する「GIGA(Global and Innovation Gateway for All)スクール構想」(児童生徒1人1台端末、および高速大容量の通信ネットワークを整備し、個別最適化された学びを全国の学校現場で持続的に実現させる構想)の話も進んでいるので、ICT教育が本格化する予定です。
 休校中のオンライン授業の実施によって教員と生徒のICTスキルは急激にのびて、その授業のやり方もある程度確立されてきました。平常の授業にもどってからも、このような学びを工夫しながら今後の教育に活かしていくことで、従来の普通部教育とのハイブリッド型の教育を目指します。
 一方で、わたしたちは、従来の対面授業がとても大事であることを知っています。何度でも繰り返し見ることのできるオンデマンド授業を「映画」とするならば、対面授業は「演劇」です。役者と観客の一体感によって、演劇がさらなる盛り上がりをみせるように、授業においても、教員と生徒の掛け合いが、素晴らしい学びにつながることがあります。教員は常に、生徒の反応を見ながら、「次はどんな質問をしようか」「こんな例題も出してみよう」と、次の手を同時並行的に考えているものです。そうした「相対あいたい」で作り上げる授業は、教員の個性や経験とあいまって、どんなに情報技術が進歩しても、到達できない面があると思います。
 今年はコロナ禍の影響で、学校を見ていただく機会が限られてしまいますが、可能な限り実際の学校の様子を見て、志望校を選んでほしいと思っています。普通部は自動的に高校へ進学することができる、いわゆるエスカレーター式の学校ではありません。それぞれの授業でもレポートなどの提出物や課題が多く、鍛える学校です。入学後に気づくアンマッチほど、双方にとって不幸なことはありません。
 本校では、生徒が「こんなことに取り組んだ」と胸を張れる経験を、3年間でどれだけ積み重ねられるかを大切にしています。たとえば、受験ではない学びを重ねること。労作展で自分の力を発揮すること。ですから、受験生の皆さんには、「こんなことがやりたい」という強い意欲を持って入学してきてほしいと思っています。本校は、その期待に応えられるだけの機会やコンテンツを十分に用意してお待ちしています。

これからの時代に求められる人材像─中高一貫校で育む力─ 豊島岡女子学園中学校・高等学校 校長 竹鼻 志乃 先生 早稲田大学高等学院中学部 学院長 本杉 秀穂 先生 慶應義塾普通部 部長 荒川 昭 先生