医学部を目指す新中学生へのアドバイス 合格実績は私立中高一貫校が優位 中高でさまざまな建研をつみ学力も人間力も鍛えよう

依然として人気が高い医学部入試。合格するためには早い段階から準備を進めておくことが肝心です。中高時代に何をしておけばいいのか、医学部入試のスペシャリスト、河合塾麹町校校舎長の神本優さんと河合塾近畿地区医学科進学情報センター長の山口和彦さんにお話を伺いました。

依然人気の高い医学部 ますます厳しい戦いに

 医学部は、大学入試のなかでも最難関として知られています。どれだけ難しいのかというと、一番やさしい大学でも偏差値は60。つまり他の学部のように、安全校となる大学がないのです。約30年ほど前は、偏差値40台の大学もありましたが、近年はずいぶんと難化しました。

 要因のひとつに、志願者に対して定員が少ないことがあげられます。医学部の定員は医療政策や医師の需要と関係するため、毎年文部科学省が決めています。22年度の定員は9300人で、来年も同じ数で推移しそうです。ただしこの定員は、医師不足による臨時定員1000人を含む人数で、将来的には医師が過剰になると推計されており今後は減らす方向にあります。一方で志願者は2014年からわずかに減少していますが、少子化による生徒数の減少ほどには減っていません。むしろコロナ禍で、医師が活躍する報道などを見て「自分も人のために尽くしたい」という使命感を持つ高校生が増え、上昇に転じています。不況の影響もあり、今後も志望者は増えていくでしょう。今の中学生が受験期に入る頃には、より厳しい入試になっていると思われます。

 最近は女子の志願者が、増加しているのが特徴です。4年前に起きたような女子にとって不公平な入試がなくなり、女子生徒も安心して受験できるようになりました。現在の医師の男女比は8対2ですが、今後は女性医師が増えてくると予測されます。

高校から学習内容難化 6年一貫の私立が有利

 医学部は私立の中高一貫校が圧倒的に有利と言えます。中学と高校で学ぶカリキュラムは、かなり違います。高校になると学習する内容が5倍にも増えて、難度もぐんと増すのです。中高一貫校だと、6年間というスパンを活かして中3の時に高1の内容を先取りすることができます。そして高校3年間で2、3年の内容をしっかりと学びます。10年前に改訂された学習指導要領では、理科の内容が増えました。医学部受験に必要な2科目を3年間で終わらせるには、相当負担が大きいと思います。

 これからみなさんは、中学校に入学することになると思いますが、最初が肝心です。なかには中学受験の合格が目的になってしまい、進学したら燃え尽きてしまう生徒もいます。私は新中1の塾生に「最下位で合格したと思ってください」と話しています。それだけ謙虚な姿勢で、勉強に臨んでほしいのです。中学の学びは学力の基盤となります。お城は石垣がしっかりしていないと、立派な天守閣を建てることができません。

 中学に進学したら、まずは学校の勉強をしっかりやってください。すべての教科に一生懸命取り組んで、幅広い教養を身につけましょう。英数理だけが大切なのではありません。社会科は社会で起きていることに対する問題意識を高めますし、古典はもののあわれに触れて心を豊かにしたり、困ったときに生きる知恵を与えてくれます。

 学科だけではありません。医師は体力勝負。体育などの実技にもしっかりと取り組みましょう。体力とともに医師に必要なのは、タフな精神力とコミュニケーション能力。クラブ活動や学校行事、生徒会活動などにも積極的に参加しましょう。

教科書をしっかり理解 基礎を固めること

 最近の医学部の入試問題は標準化しています。難問よりも、基礎がきちんと身についているかどうかを見る方向にシフトしているのです。いたずらに難問に当たるより、学校の教科書をしっかりマスターして、基礎を固めておくことが肝心です。先に述べたように、だからこそ中学時代の勉強が大切になってくるのです。中学受験が終わったとたんに全く勉強をしなくなる人もいますが、気を引き締めて学習に取り組みましょう。

 従来の医学部の受験勉強は、英数国を終わらせてから理科に取り組むのが一般的でしたが、2科目の理科を後回しにしては終わらなくなることもあります。初めから、理科は意識しておいた方がいいでしょう。英語も大学に進学してから文献を読んだり、海外の学生と議論したりするときに使う、必須の教科です。最近はコミュニケーションが重視されていますが、大学が求めているのは、中高の段階で正しい文法を身につけたかどうかで、文法も学んでほしいと思います。

医学部受験特有の課題 成人の自覚が必須

 医学部受験では、どの大学でも面接試験が課せられています。受験時、みなさんの年齢は18歳ですが、これは「成人年齢に達している」ことを忘れてはなりません。受験生としてだけではなく、当然ながら成人としての相応しい言動・行動、年齢相応の考察や理論的な話のできる人間であることが同時に求められるでしょう。

 面接試験の質問では、「脳死・安楽死・尊厳死」などの社会的に難度の高い諸問題に関して、「あなたはどう思うか」という質問も珍しくありません。その時、これまで培ってきたすべての教養がここで集中して試されることになるでしょう。常に自ら学んできたか、自ら考える姿勢を持って日々を過ごしてきたかの成果が、ここでの回答で試されるのです。

 医学部を受験するということは、単に学科試験の学力があれば良いというものではなく、人としての生き方を試される受験です。中学から高校へと進んでいく6年間に自分が大人として成長するために、「主体性をもって、多様な人々と、協働して学習」し、多くの教養や探究心を身につける日々の心がけが必要です。

親は徐々に子離れし 子を自立した学習者に

 親御さんに対するお願いですが、中学に進学したら徐々にわが子の手を離すことをお勧めします。大学受験は、中学受験とは比較にならないほどやることが多く、内容も高度です。自分でマネジメントできないと合格できません。子どもの自立のためにも先回りをせずに、自主性を育てるようにしましょう。親の役割は、子どもの生活習慣を整えること。特に注意していただきたいのが、スマホとの付き合い方です。中学進学を機に買い与える家庭も多いようですが、依存症にさせないように、初めに使い方を約束させたほうがよいと思います。

 生徒のみなさんは、中学受験のために一生懸命勉強されてきたと思います。その努力を無駄にしないためにも、進学後も気を緩めずに勉強をしっかりとがんばってください。またスポーツでも趣味でも、いろいろなことにチャレンジしてください。裾野が広くなければ、高い山になりません。中高の6年間でたくさん本を読んだり、社会に関心を持って教養を身につけたりして、豊かな人間性を育ててすばらしい医師になってください。

河合塾
麹町校 校舎長
神本 優(かみもと・まさる)さん

1992年学校法人河合塾に入塾。医学部志望者のチューターとして、生徒指導にあたる。千葉校(現千葉現役館)、横浜校、町田校を経て、2016年より横浜校校舎長。2019年より現職。データに基づいた的確な指導と長年の経験で、大勢の医学部志望者を合格へと導く。

河合塾
近畿地区医学科進学情報センター
センター⻑
山口 和彦(やまぐち・かずひこ)さん

1992年学校法人河合塾に入塾。大阪校、上本町校、京都校、天王寺校、大阪医進館にて医進生指導を歴任、2016年より現職(全国の医進指導者研修を担当)。近畿では「医進生全員の成績を自らチェック」し、研究成果と指導経験をもとに「校舎と一体」の合格指導を行っている。直接指導した医学部受験生は2,000人を超える。