中学校からはじまる英語・数学勉強法

中学生になると、小学校と異なる勉強が始まります。算数の代わりに数学が始まりますし、英語の授業も本格的にスタートします。中学の英語の授業ではどんなことを学ぶのか、勉強についていけるのか、不安に感じている人もいるかもしれません。そんなみなさんに、勉強のコツや成績を伸ばすアイデアなどを紹介します。

数学「時間をかけて、1つのテーマに取り組もう!」 数学「時間をかけて、1つのテーマに取り組もう!」

 私が数学にのめり込み、今なお数学を仕事にしているきっかけとなったいくつかの出来事のうち、最も印象に残る“事件”について書きます。

 小学生の頃、私は比較的算数が得意で、学校で教わることは、それほど苦もなく理解できたように記憶しています。とはいえ、昔の田舎の多くの小学生と同様に、「中学受験」などという世界とは無縁の環境で育った私は、塾などでさまざまな知識を得ている現代の小学生と比べると、まるで別の生き物のようでした。

 そうこうするうちに地元の公立中学に入学し、算数の代わりに目の前に現れた数学とものんびり付き合っていた頃、突然「アイツ」はやって来たのです。

 私の父は、幼少期から運動が得意で、陸上競技では地域でそこそこ活躍していたそうですが、勉強は大がつくほど嫌いで、学校の教室の中ではいつも小さくなっていたそうです。そんな父親が、私が小さい頃からくり返していたことがありました。ジャンルを問わず、子どもが読めそうな本を見繕っては買ってきて、それを居間に置いておくのです。私には3つ上の兄がいるのですが、兄に読めとも私に読めとも言わず、買ってきたぞとも言わず、ただ、置いておくだけ。私は関心が向いた本だけ手にとって読んでいたように記憶しています。

 ……と、私が中学1年生だった夏休みのある日、数学の、幾何の本が居間に置いてありました。これはきっと、兄のために買ってきたのだろうと思いつつ、なぜか手に取り、適当にページを開いて見たところ、「アイツ」がいました。

  • パスカルの定理・その1 2直線l,mの上にそれぞれ点L1,L2,L3,点M1,M2,M3がある。これらの点を結んだ線分のうち,L1M2とL2M1の交点をP,L1M3とL3M1の交点をQ,L2M3とL3M2の交点をRとすると点P,Q,Rは一直線上にある。

  「なっ、なんだ?」と思いました。lとmの位置関係や、L1~L3、M1~M3の位置をいろいろに変えて、やってみました。……いつも、P、Q、Rは一直線上!!

 こんなにおもしろい図形の性質は、初めて見た!と思いながら、すぐ下の、読んでもすぐにはわかりそうにない[証明]をすっ飛ばして、ページをめくると、

  • パスカルの定理・その2 同一円周上に,右図のように6点L1,L2,L3,M1,M2,M3がある。これらの点を結んだ線分のうち,L1M2とL2M1の交点をP,L1M3とL3M1の交点をQ,L2M3とL3M2の交点をRとすると,3点P,Q,Rは一直線上にある。

 「えぇー!!」思わずエビ反りました。またしても、L1~L3、M1~M3の位置をいろいろに変えて、やってみました。……いつも、P、Q、Rは一直線上!!

 「アイツ」とは、そう。パスカル (Blaise Pascal、1623-1662) が16歳のときに発見した定理です。

 その後、当時知っていた双曲線でも同じことを試してみました。兄の教科書に載っていた放物線でも試しました。ことごとく、“一直線上”は実現できました。さらに、だ円でも!!

 当時は証明することもできないまま、ただただ、これら図形の性質に心打たれていましたが、パスカルの定理・その1の下にあった[証明]の中に見つけた「メネラウスの定理より……」という文言から、メネラウスの定理(線分比に関する定理)を学び理解し、これを用いて“その1”の証明ができたのが中2の夏。新たに方べきの定理(円の性質)を加えて“その2”の証明ができたのが中3の夏。

 さらに、高校へ進学後、円すいを平面で切断したときに切り口に現れる2次曲線(平行でない2直線・円・だ円・放物線・双曲線)に共通の性質として、射影の考え方を用いてパスカルの定理を統一的に捉えることができた(これは、自力ではできなかったが)のが高2の夏。いろいろな人や本に助けられながら、「アイツ」を完全に理解するのに丸5年かかりました。

 さてみなさん、ここで紹介したパスカルの定理、おもしろいとは思いませんか? 実際に自分で作図して試したくなったら、今すぐにやってみましょう!そのあとは、みなさんにお任せします。


 中学から始まる学習に対して、「そんな悠長なこと、言っていられないよ」とお叱りを受けそうです。定期試験もあるし、クラブ活動も忙しいし、……。確かにその通りです。でも、次々に現れる新しい学習項目の中には、他の人や本から教わって、「ハイ、そうですね」で終わりにできないような、なぜだかわからないけれど不思議だ、魅力的だ、ということが必ずいくつかあるはずです。それがチャンスです! どれだけ時間がかかってもいいので、それに没頭してください。

 数学に限りませんが、新しい性質を説明する際には、すでに学んだことがらを元手に、「……すると○○が成り立つ。それとは別に、△△も成り立つので、この2つを用いると、□□が成り立つことが言える。……」などと、説明を読む他の人がキチンと納得してくれるような論理の積み上げが求められます。このように、新しいことを導いたり発見していくところにこそ、数学の醍醐味があるのです。

 そして、ここでは図形のお話をしましたが、この醍醐味を味わうことができる代表的な分野として、

「平面幾何(図形)」「整数」「場合の数」

の3つがあります。数学の“ゴールデンエイジ”とも言える中学時代に、これらの単元と格闘してみてはいかがでしょう。


 最後に、親御さんに申し上げます。算数が数学に替わる変化はもちろん大きいのですが、小学生から中学生へと変わる、お子さん自身の変化はもっと、ずっと大きいものです。

 子どもは、大人に近づくにつれ、「自分の世界」を持つようになります。好きな音楽・好きな映画・好きなスポーツ……etc。親も含め、他の人の“侵入”を許さない自分だけの世界です。それを大きい気持ちで受け止めてあげて、「自分はこれでいいんだ」という漠然とした、根拠のない自信を持てるようになると、子どもは伸びます。

 たとえば、小学生のときに算数の成績が良かったからという理由で持っていた自信は、数学の成績が悪くなった途端に失われます。このようなもろい自信に左右されることのない、自己肯定感を子どもが持てるように、温かい目で見守り続けてください。