特別コラム東洋英和女学院小学部 𠮷田 太郎 小学部長にインタビュー

小学部長 𠮷田 太郎 先生
小学部長 𠮷田 太郎 先生

私立小学校の学びの魅力を探る

AIの進化や教育格差など、日本の教育現場は今、多くの難題を抱えています。そんな時代に注目を集めるのが、教育の軸がぶれることのない歴史ある私立の伝統校です。創立139年を迎えた東洋英和女学院小学部の𠮷田太郎小学部長に、教育の特色について伺いました。

自己肯定感を高める「敬神奉仕」の教育理念

──私学の小学校で学ぶ魅力について教えてください。

都会ではめずらしい土の校庭

𠮷田 公立校には公立校の良さがありますが、公立校の教育内容は文部科学省の学習指導要領に準拠しており、それが改定されるたびに、学校の教育方針が大きく変わる可能性があります。また、同じ東京であっても居住地域によっても影響されるという側面もあります。一方、私立学校はそれぞれの創立者がそれぞれの建学の精神の下に設立しており、長い歴史と伝統に裏打ちされた揺るぎない教育理念があります。もし、その私立校の校風や理念がお子さんや保護者の方の考え方とマッチするのであれば、その学校に安心して6年間預けられるでしょうし、入学してみて「こんなはずではなかった」ということにはならないはずです。

──貴校が掲げている教育理念とはどのようなものなのでしょうか。

𠮷田 東洋英和女学院は1884(明治17)年、カナダ・メソジスト教会の宣教師、マーサ・J・カートメル先生によって創立されました。本校が掲げる建学の精神は「敬神奉仕」です。「敬神」とは、神から愛されているかけがえのない自分に気づき、神を愛し、敬うこと。「奉仕」とは、自分と同じように神から愛されている隣人・他者を大切に思い、自分の力を他者のために使おうとすること。こうしたキリスト教の教えが、本校の人間教育、人格教育の礎になっており、他校にはない「英和らしさ」として、時代を超えて受け継がれています。

 また、創立者のカートメル先生をはじめ、校長を務めた歴代の婦人宣教師の先生方が、児童、生徒、学生、教職員たちのめざすべきロールモデルとして、今も愛され、尊敬されています。

──子どもに関する国際調査を見ると、日本の子どもたちの自己肯定感の低さが時折問題になります。

𠮷田 「東洋英和の児童・生徒は自信を持って行動している」と、教育関係者の皆さんからよく言われます。特別に勉強ができるとか、スポーツの大会で優勝したとかということではなく、子どもたちは自らの行動に自信を持ち、他者を思いやれるし、困っている人に堂々と手を差し伸べられる。それはきっと、「自分は愛されている」という実感を児童一人ひとりが持てているからに違いありません。また、本校の先生方は全校児童の顔と名前を覚えようと、ことあるごとに声を掛け、慈しみ、常に愛情を持って接しています。だからこそ子どもたちも安心して学校生活を送れているのだと思います。

教科ごとに専任が付く教科担任制の授業

──教科教育についても、公立校とは違ったアプローチをされていますね。

𠮷田 はい。各教科教員の専門性を高め、教科研究をいっそう深めるために、積極的に専科制を導入しています。英語・音楽・体育・図工などは1年生から完全に専科制を取り、専門の教員が教育と指導を行います。

──4年生以上では教科担任制を実施していると伺いました。

𠮷田 はい、昨年度までは完全な教科担任制を敷いていました。4年生以上の国語・算数・理科・社会は、それぞれ専科の教員が担当する形です。その制度を今年度から少し手直ししました。昨年度までは、各クラスの担任が国語か算数のどちらかを教えていたのですが、教科の専門性を高めて質の高い授業が展開できるというメリットがある一方、クラス経営という点では時間割に制限が多くなってしまいます。そこでもっとフレキシブルに教科横断的な授業ができるよう、また児童とクラス担任の時間を多く持てるよう、今年度から国語と算数の2教科を各クラス担任が受け持つことにしました。ただし算数に関しては、よりきめ細かな指導ができるよう、5〜6年生に限って、1学年2クラス80名を4クラスに分割し、4人の教員で担当する体制を取ります。

小1から体験する英語はオールイングリッシュで

──東洋英和女学院といえば、充実した英語教育にも定評がありますね。

𠮷田 カナダ・メソジスト教会の宣教師が創立した学校なので、創立当初から授業は英語で行われていました。その歴史と伝統を受け継ぎ、小学部でも1年生から英語の授業があります。校内には英語しか使わない「英語室」が2教室あり、そこに1クラスが20人ずつに分かれて入ります。低学年では、児童20人に対して日本人教師とネイティブの外国人教師の2人が付くので、レベルに合わせたきめ細かい指導ができています。そのため、オールイングリッシュながらも楽しみながら自然と英語を身につけていきます。

 また、本校は2003年より韓国の梨花女子大学附属初等学校と英語科が交流し、5・6年生がペンパルと英語でお手紙交換をしています。英語を使って、外国の同い年の友人の学校生活を知ることができる、よい経験になっています。梨花女子大学附属初等学校とは、2014年には姉妹校提携を結び、お手紙交換のほかにも、高学年児童が訪問し合ったり、Zoomで交流したりしています。

──東洋英和女学院ならではの課外授業としてはピアノ科が有名ですね。

𠮷田 学校が設立された当初から、婦人宣教師によるピアノのレッスンが有志の児童に行われていました。他校に類を見ない課外活動として、ピアノ科は高く評価されています。小学部生の約3割がピアノ科に在籍し、中高部にある防音設備の整ったピアノ室で専門の教師からマンツーマンのレッスンを受けています。2008年からはパイプオルガンを演奏するオルガン科も設置しました。また有志の活動として、4〜6年生の聖歌隊、5・6年生のハンドベル(エンジェル・リンガーズ)があり、それぞれ週1回、放課後に練習しています。

強い絆で結ばれる上・下級生の温かい交流

──上級生と下級生の縦のつながりも強いと伺っています。

𠮷田 下級生は上級生を「お姉さん」「お姉様」と慕い、上級生は下級生を妹のように可愛がります。それが最もよく表れているのが給食のシーンです。給食は各教室ではなく食堂に用意され、そこに児童と教職員が集まって食事をします。それが寄宿舎からスタートした本校の伝統でもあります。その際、低学年のテーブルには高学年生が「ホステス」として付き、配膳やお代わりのお世話、後片付けをします。「給食当番」ではなく「ホステス」と呼ぶのは、「女主人としてお客様をおもてなしする」という意味が込められているからだそうです。そうやって上級生は下級生のお世話をし、下級生がやがて上級生になったときは、同じように自然と下級生をお世話するようになります。

──小学部と中学部の関係はいかがですか。

𠮷田 きわめて良好です。中学部からは「小学部生は優しくて、とても前向きなので、全員中学部にきてほしい」と言われており、毎年ほぼ全員が中学部に進学します。中学進学後の生徒たちの様子は定期的にわたしたち小学部にもフィードバックされるので、中学に送り出してからも、子どもたちを教職員全体で見守る体制ができています。

母の会、父の会の協力の下さまざまな学校行事が充実

──課外活動についても教えてください。

上:毎年7月後半に長野県軽井沢で行われる「夏期学校」。1959年に「追分寮」が完成して以来続く伝統行事だ
下:コロナ禍で急遽中止となった夏期学校に代わり行われた「秋の学校」(4年生)。1泊2日で陶芸や漁業体験などを満喫した

𠮷田 4月の入学式と遠足、5月の運動会、6月の親子コース別集会、7月の軽井沢追分寮に宿泊する夏期学校、9月の6年生修学旅行、10月の遠足と球技大会、11月の学芸会、12月のクリスマス礼拝、1月のマグノリアコンサート、2月の美術展と6年生親子討論会、3月の卒業式、スキー教室や韓国の梨花女子大学附属初等学校との交流、そのほかにも田植えや稲刈り、お芋掘りなどなど……、学校行事はとても充実しており、子どもたちは各種行事を通して他学年との親睦を深め、人間的にも成長していきます。

 行事の際、活躍していただくのが、保護者の方たちの「母の会」「父の会」です。たとえば運動会では、父の会の皆さんが朝6時から詰めかけ、テントや座席の設営に尽力してくださっています。一方「母の会」は、日本にPTAが誕生するはるか以前の90年前から発足していて、さまざまな学校行事の運営にご協力いただいています。母の会の皆さんは、1学年80名を「1名のわが子と79名の姪」と考えてくださっていて、いつも感謝しています。

──ほかの保護者の方たちからも愛されているのですね。

児童5人対保護者5人で戦う「親子討論会」。約2時間の熱戦がくり広がられる

𠮷田 特筆すべきは、「父の会」の提案で始まった「親子討論会」です。テーマは「キャッシュレス社会の是非」「プラスチックごみをどう削減するか」など、今日的な社会課題が多いですね。そのテーマで、6年生とその保護者が5人ずつのチームを作って各教室で討論するのですが、決められたテーマについて各自で学習するだけでなく、「父の会」の5年生以下のお父さんたちがサポーターとして事前に来校し、ディベートのやり方をレクチャーしてくださるのです。なかには弁護士の方もいて、指導はかなり本格的です。そして討論会当日、子どもたちは調べたデータをフリップで提示しながら、保護者チームに約2時間の論戦を挑みます。その姿は感動的で、私も2人の娘を持つ父親ですが、思わずうるっときてしまうほどです。教科の学習はもちろん大切ですが、こうした東洋英和ならではの学びも、これからの時代にきっと役立つと確信しています。

──最後に読者の皆さんへのメッセージをお願いします。

𠮷田 まず申し上げたいのは、小学校受験はゴールではない、ということです。受験シーズンが近づくと、保護者の方の多くは目の前の合格しか見えなくなってしまいがちですが、あくまでも小学校受験準備はこれからの6年間を決めるスタート地点。どうか冷静な視点で、お子さんに本当に合う学校を選んでいただきたいと思っています。その際、わたしどもを選んでいただけるなら、これ以上の喜びはありません。本校の子どもたちはみんな愛らしい、可愛い子どもたちばかりです。ぜひ学校説明会などで本校に足をお運びいただければと思います。

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