ご両親ともに地方出身で、公立中学・公立高校というルートをたどってきて、今現在しっかり生活できているのであれば、なぜこれほど中学受験が過熱するのか理解しにくいのは当然だと思います。
まず、首都圏でも公立ルートを歩んで立派な社会人になっている人はたくさんいるということ、まだまだ多数派ではないこと(中学受験しているのは5人に1人)を押さえておいてください。
中学受験がこれほど広がってきた背景には昨今の社会状況があることは否定できないと思います。このところ社会生活の様々な場面で急速に格差が拡大しています。以前のわが国は分厚い中流層の存在が特徴でしたが、ここへきて中流層が細り、多くが下流に転落する兆候が見られます。若年層についても、「フリーター」や「ニート」になる若者が増えていることが統計的にも明らかで、一昨年ぐらいからは働いてもまともな生活が出来ない「ワーキングプア」の存在が指摘されています。このようにいまでは働いている人の3分の1が非正規雇用となっています。わが子は自分たちよりはずっと厳しい時代を生きていかなければならない、それだからこそ、「親としてやれることはやってやりたい」―そう考えるご両親が多くなっていることがブームの背景にはあるのです。
そのため、学校を選ぶ際に何を重視しているかというと、1位「大学合格実績」、2位「通学の便」、3位「偏差値」となって、本来私立中学の魅力であるはずの「校風」は4位にまで下がっているのが現実です。
私の個人的考えを言わせていただくと、ご両親の姿勢、本人の自覚がしっかりしていれば、上記のような不安感を持つ必要はないと思います。公立ルートでもきちんとした社会生活を送ることは十分可能です。
国私立中学に進むのは、公立に比べて相対的にいい刺激を与えてくれる環境があるという点です。それは「大学合格実績」だけに限りません。私はたくさんの学校を訪れていますが、最近、説明会で、校長がこんな話をした学校がありました。
「わが校は何よりも、若者が抱える普遍的な2つのテーマ『いかに生きるべきか』『自分は何ができるのか』を考えることのできる場でありたい。今自分が生きている時代はどのような時代なのか、やがて自分はこの社会にどう関わっていくのか、それを学習の場で、進路の場で自分自身で模索させたい。」
どうでしょう。長い人生の中でもっとも多感な時期に、深く人生を考える機会を与えてくれる環境を得ることこそが中学受験する意味ではないでしょうか。
中学受験というと、長期間の塾通い、ハードな勉強、偏差値……といったネガティブなイメージがありますが、昔から変わらない崇高な教育姿勢を持った学校もあるのです。
是非ご両親で歴史のある学校を訪ねられ、「大学受験に有利」という側面ではない中学受験の意義をつかんでいただきたいと思います。
ご両親が共感できるそうした学校がなかったら、何も受験する必要はないと思います。
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